バイオグラフィー

1920年2月18日、イタリア・ミラノ生まれ。第二次世界大戦の混乱期にミラノ工科大学で建築を学び、1945年に卒業。戦後のイタリア建築界において、女性建築家として先駆的な道を切り拓いた人物である。1952年、イタリア合理主義建築の巨匠フランコ・アルビニの事務所に参画し、以後四半世紀にわたる創造的協働を開始する。1965年にはアルビニの正式なパートナーとなり、「スタジオ・アルビニ・ヘルグ」として共同名義で活動を展開。1977年のアルビニ没後も、アントニオ・ピーヴァとともにスタジオを継承し、1989年10月20日に69歳で逝去するまで、精力的に設計活動を続けた。

デザイン思想

フランカ・ヘルグのデザイン思想の根幹には、イタリア合理主義の精神と、人間の生活に寄り添う温かみのある空間創造への信念が息づいている。彼女は、建築とデザインを単なる形態の追求としてではなく、歴史と現代、伝統と革新を繋ぐ対話として捉えた。とりわけ歴史的建造物の改修においては、過去の遺産を尊重しながらも、現代の機能的要求に応える大胆な空間構成を実現した。

アルビニとの協働において、ヘルグは緻密な技術的検討と実務的な調整を担い、詩的なビジョンを具現化する不可欠な役割を果たした。彼女は、素材の本質的な美しさを引き出すことに長け、籐や木材といった自然素材を用いた家具デザインでは、職人技術への深い敬意と現代的な造形感覚を見事に融合させている。

作品の特徴

ヘルグが関わった作品群は、建築から家具、展示デザインに至るまで、一貫した美学によって貫かれている。その特徴は、構造の明快さ、素材への誠実さ、そして空間と光の繊細な操作にある。

建築作品

ミラノ地下鉄1号線の駅舎群は、公共建築における彼女たちの設計哲学を端的に示している。地下空間という制約の中で、明快な動線計画、効果的な照明デザイン、そして素材の巧みな使用により、利用者に快適で記憶に残る空間体験を提供することに成功した。また、ジェノヴァの一連の美術館改修プロジェクトでは、歴史的建築物の文脈を読み解きながら、展示物と空間との新たな関係性を構築する革新的な手法を確立した。

家具デザイン

家具作品においては、伝統的な素材と技法を現代的な造形言語で再解釈するアプローチが際立つ。籐を用いたマルゲリータチェアやガラチェアは、軽やかで有機的なフォルムと堅牢な構造を両立させ、イタリアンデザインの新たな可能性を示した。これらの作品は、工業生産と手工芸の理想的な融合として、今日なお高い評価を受けている。

主な代表作

ミラノ地下鉄1号線駅舎(1962-1964年)

フランコ・アルビニとの共同設計により実現したミラノ地下鉄1号線の駅舎群は、イタリア公共建築の金字塔として位置づけられる。サン・バビラ駅をはじめとする複数の駅において、赤いゴム製の床材、アルミニウムパネル、効率的な照明システムを組み合わせ、機能性と美的洗練を高度に統合した空間を創出した。この仕事により、1964年にコンパッソ・ドーロ賞を受賞。

ラ・リナシェンテ百貨店ローマ店(1957-1961年)

ローマのフラッティーナ通りに建設されたこの百貨店は、歴史的都市景観との調和と商業建築としての機能性を見事に両立させた作品である。ファサードのデザインにおいては、周辺の歴史的建築物との対話を意識しながらも、現代的な商業空間としてのアイデンティティを確立。1962年のコンパッソ・ドーロ賞を受賞し、戦後イタリア商業建築の模範となった。

パラッツォ・ビアンコ美術館改修(1949-1951年)

ジェノヴァのパラッツォ・ビアンコ美術館の改修は、戦災からの復興期において、歴史的建造物と現代的展示手法の融合という新たな課題に取り組んだ先駆的プロジェクトである。絵画を壁面から離して展示する革新的な手法や、自然光を巧みに取り入れた展示空間の設計は、その後の美術館建築に多大な影響を与えた。

マルゲリータチェア(1950年)

籐を主素材としたこの椅子は、アルビニとヘルグの家具デザインにおける代表作である。「マルゲリータ(ひな菊)」の名が示すように、放射状に広がる背もたれの造形は、自然界の有機的なフォルムを想起させる。職人の手仕事による籐編みと、軽量かつ堅牢な構造設計の融合は、イタリアンデザインの真髄を体現している。ヴィットリオ・ボナチーナ社より製造され、現在も生産が続けられている。

ガラチェア(1950年)

マルゲリータチェアと同時期に発表されたガラチェアは、より洗練されたフォルムと、籐の曲線美を極限まで追求した作品である。流れるような曲線で構成されたアームと背もたれは、座る人を優しく包み込む有機的な形態を実現している。軽量性と視覚的な軽やかさを兼ね備え、住宅からホテルまで幅広い空間で愛用されている。

功績・業績

フランカ・ヘルグは、その生涯を通じて数々の重要な賞を受賞し、イタリア建築・デザイン界における女性の地位向上にも大きく貢献した。コンパッソ・ドーロ賞を複数回受賞しているほか、ミラノ・トリエンナーレにおいても高い評価を得ている。

1962年
コンパッソ・ドーロ賞(ラ・リナシェンテ百貨店ローマ店)
1964年
コンパッソ・ドーロ賞(ミラノ地下鉄1号線駅舎)
1965年
スタジオ・アルビニ・ヘルグとして正式にパートナーシップを確立
1979年
イタリア共和国功労勲章受章

評価・後世への影響

フランカ・ヘルグの仕事は、フランコ・アルビニとの協働という形で語られることが多いが、近年の建築史研究においては、彼女自身の独立した貢献への再評価が進んでいる。特に、複雑なプロジェクトの実現における技術的・実務的なリーダーシップ、そして歴史的建造物の改修における繊細なアプローチは、彼女ならではの資質によるものと認識されている。

戦後イタリアにおいて、男性が圧倒的多数を占めた建築界で、フランコ・アルビニと対等なパートナーとして活躍したヘルグの存在は、後続の女性建築家・デザイナーたちにとって重要な先例となった。彼女が関わった美術館建築の改修手法は、歴史的建造物の現代的活用における国際的なモデルとなり、今日の建築実践にも影響を与え続けている。

マルゲリータチェアやガラチェアをはじめとする家具作品は、発表から70年以上を経た現在もなお生産が継続され、世界中のコレクターやデザイン愛好家に愛されている。これらの作品は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)やミラノ・トリエンナーレ・デザインミュージアムなど、世界有数のデザインコレクションに収蔵されており、20世紀イタリアンデザインの精華として不朽の評価を確立している。

作品一覧

年月 区分 作品名 ブランド/クライアント
1949-1951年 建築・美術館 パラッツォ・ビアンコ美術館改修 / Palazzo Bianco ジェノヴァ市
1950年 椅子 マルゲリータチェア / Margherita Chair Vittorio Bonacina
1950年 椅子 ガラチェア / Gala Chair Vittorio Bonacina
1951年 椅子 トレ・ペッツィ PL19 / Tre Pezzi PL19 Poggi
1952-1956年 建築・美術館 パラッツォ・ロッソ美術館改修 / Palazzo Rosso ジェノヴァ市
1954年 照明 AM/AS テーブルランプ / AM/AS Table Lamp Sirrah
1955年 LB7 本棚 / LB7 Bookcase Poggi
1956年 建築・美術館 サン・ロレンツォ聖堂宝物館 / Museo del Tesoro di San Lorenzo ジェノヴァ市
1957-1961年 建築・商業施設 ラ・リナシェンテ百貨店ローマ店 / La Rinascente Rome La Rinascente
1958年 椅子 フィオリーラ / Fiorenza Armchair Arflex
1959年 カヴァリエール / Cavalletto Desk Poggi
1961年 インフィニート / Infinito Shelving System Cassina
1962年 スタリオ / Stalio Desk Poggi
1962-1964年 建築・公共 ミラノ地下鉄1号線駅舎 / Milan Metro Line 1 Stations ミラノ市交通局
1964年 建築・文化施設 エジプト美術館改修 / Egyptian Museum Turin トリノ市
1965年 椅子 ルイザ / Luisa Chair Poggi / Cassina
1969年 建築・美術館 サンタゴスティーノ美術館 / Museo di Sant'Agostino ジェノヴァ市
1970年 椅子 プリマ / Prima Chair Vittorio Bonacina
1979年 建築・美術館 サン・ロレンツォ・マッジョーレ教会博物館 / Museo di San Lorenzo Maggiore ナポリ
1984年 建築・公共 ミラノ地下鉄3号線駅舎 / Milan Metro Line 3 Stations ミラノ市交通局

Reference

Franca Helg - Triennale Milano
https://triennale.org/
Franco Albini Foundation
https://fondazionefrancoalbini.com/
Cassina - Designer Collections
https://www.cassina.com/
Bonacina 1889 - Heritage
https://www.bonacina1889.it/
MoMA - The Museum of Modern Art Collection
https://www.moma.org/collection/
Compasso d'Oro - ADI Design Museum
https://www.adidesignmuseum.org/