概要
マルコ・ザヌーソ(1916-2001)は、イタリアの建築家・デザイナーである。1951年のレディチェアで、成形した発泡ゴムを椅子の詰め物に用いる方法を確立した。1958年からリヒャルト・ザッパーと組み、ブリオンヴェガのテレビやラジオ、シーメンスの電話機などを手がけている。家具から家電、事務機器までを同じ方法で扱った。
バイオグラフィー
1916年5月14日、ミラノに生まれた。ミラノ工科大学で建築を学び、1939年に修了している。
1945年にミラノで設計事務所を開いた。1946年から1947年まで雑誌『Domus』の編集に携わり、1952年から1956年までは『Casabella』の編集を担当している。
1948年、ピレリの依頼で発泡ゴムを家具に応用する検討を始めた。1949年にはこの成果を製品化するためアルフレックスが設立され、1951年にレディチェアが発表されている。
1958年からドイツの設計者リヒャルト・ザッパーと組み、1977年まで共同で製品を設計した。ブリオンヴェガ、カルテル、シーメンスなどの製品がこの時期にあたる。ミラノ工科大学でも教え、2001年に没した。
デザインの思想と方法
ザヌーソが繰り返し扱ったのは、新しい材料と製法が家具や機器の構成をどう変えるかという問題である。発泡ゴム、射出成形の樹脂、集積回路——それぞれが登場したとき、既存の形をその材料で作り直すのではなく、その材料でしか作れない構成を探した。
詰め物の工程を置き換える
従来の張り家具は、木の骨組みにスプリングを張り、詰め物を重ねて布で覆う。工程が多く、熟練を要する。ザヌーソは成形した発泡ゴムを用いることで、この工程を大きく短縮した。発泡ゴムは型で成形でき、厚みも場所ごとに変えられる。
部材を分割して交換できるようにする
レディチェアは、座面・背もたれ・肘掛けをそれぞれ独立した部材とし、金属の枠に取り付ける。各部の張り替えが個別にできるため、修理の範囲が限定される。詰め物の工程を変えたことが、部材の分け方にも及んでいる。
一体成形で椅子をつくる
1964年のK1340(のちの4999)は、リヒャルト・ザッパーとの共同で設計した子供用の椅子である。ポリエチレンの射出成形で座面と脚を一体につくり、金物を持たない。積み重ねができ、屋外でも使える。樹脂の一体成形による椅子としては早い時期の例にあたる。
電子機器の外形を用途から決める
ブリオンヴェガのテレビとラジオでは、使わないときに機器としての姿を消す構成をとった。ブラック201は電源を切ると黒い立方体になり、TS502は二つ折りで閉じると箱になる。部品の小型化によって外形に自由が生まれたことを、そのまま設計に使っている。
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代表作にみる方法
アントロプス(1949年、アルフレックス)
成形した発泡ゴムを用いた最初期の椅子である。曲げた金属の枠に、詰め物を成形して被せる。従来の張り工程を経ずに曲面を得られることを示した仕事にあたる。→アントロプス
レディチェア(1951年、アルフレックス)
座面・背もたれ・肘掛けをそれぞれ独立した部材とし、金属の枠に取り付けた椅子である。発泡ゴムの成形により、各部の厚みを個別に決められる。張り替えも部材ごとに行える。1951年の第9回ミラノ・トリエンナーレで金賞を受けた。メトロポリタン美術館が収蔵している(収蔵番号1986.287)。→レディチェア
ラムダ チェア(1959年)
薄い鋼板をプレスして成形した椅子である。自動車の車体で用いる加工方法を家具に適用した検討にあたる。量産の単価は下がるが、金型への投資が大きく、生産数は限られた。ニューヨーク近代美術館が収蔵している(収蔵番号369.1989)。
子供用椅子 K1340(1964年)
リヒャルト・ザッパーとの共同設計による。ポリエチレンの射出成形で座面と脚を一体につくり、金物を持たない。積み重ねができ、屋外でも使える。カルテルが生産した。
ブリオンヴェガの電子機器(1962-1969年)
リヒャルト・ザッパーとの共同で、テレビとラジオを設計した。ドニー14(1962年)は携行できるテレビ、TS502(1963年)は二つ折りのラジオ、ブラック201(1969年)は電源を切ると黒い立方体になるテレビである。使わないときの姿を条件とする構成が共通する。
評価と影響
ザヌーソは一般に、戦後イタリアの工業デザインを確立した設計者の一人と評価されている。発泡ゴムを家具の詰め物に用いる方法は、以後の張り家具の標準となった。
1958年から1977年までのリヒャルト・ザッパーとの協働は、家電と事務機器の分野に及んだ。使わないときに機器としての姿を消すという構成は、この時期の製品に一貫している。
家具、家電、電話機、事務機器と対象は広いが、いずれも新しい材料と製法が構成をどう変えるかという同じ問題として扱われている。1948年のピレリとの検討から生まれたアルフレックスは、現在も家具メーカーとして続いている。
受賞・収蔵
受賞
- 1951年 第9回ミラノ・トリエンナーレ 金賞(レディチェア)
- コンパッソ・ドーロ賞を複数回受賞(1962年 ドニー14、1964年 アルゴル11、1967年 グリッロ電話機 ほか)
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、Met=メトロポリタン美術館、AIC=シカゴ美術館)。リヒャルト・ザッパーとの共同名義で登録されているものを含む。
- MoMA ラムダ チェア(1959年) 収蔵番号 369.1989
- MoMA 子供用椅子 モデルK4999(1960-64年) 収蔵番号 367.1993.1-3
- MoMA ドニー14 テレビ(1962年) 収蔵番号 481.1970
- MoMA ラジオ モデルTS502(1963年) 収蔵番号 483.1970.1-2
- MoMA ナイフシャープナー(1963年) 収蔵番号 426.1972
- MoMA アルゴル11 テレビ(1964年) 収蔵番号 571.1970
- MoMA グリッロ 折りたたみ電話機(1966年) 収蔵番号 1238.1968.1-5
- MoMA ハスティル 万年筆(1969年) 収蔵番号 61.1972
- MoMA ブラック201 テレビ(1969年) 収蔵番号 482.1970
- MoMA キッチンスケール モデルBA2000(1969年) 収蔵番号 669.1970.1-2
- MoMA 体重計 T111A(1969年) 収蔵番号 480.1970.1-2
- MoMA 卓上扇風機(1973年) 収蔵番号 473.1974
- V&A ブリオンヴェガ TS502(1963年) 収蔵番号 CIRC.502-1973
- V&A ブラック ST201 テレビ(1969年) 収蔵番号 CIRC.5:3-1974
- Met レディ アームチェア(1951年) 収蔵番号 1986.287
- AIC ラジオ モデルTS502(1963年) 収蔵番号 2015.605
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1949年 | 椅子 | アントロプス | Arflex |
| 1951年 | 椅子 | レディチェア | Arflex / Cassina |
| 1954年 | ソファ | スリーピングソファ | Arflex |
| 1959年 | 椅子 | ラムダ チェア | Gavina |
| 1962年 | テレビ | ドニー14(ザッパーと共同) | Brionvega |
| 1963年 | ラジオ | TS502(ザッパーと共同) | Brionvega |
| 1964年 | 椅子 | K1340 子供用椅子(ザッパーと共同) | Kartell |
| 1964年 | テレビ | アルゴル11(ザッパーと共同) | Brionvega |
| 1966年 | 電話機 | グリッロ(ザッパーと共同) | Siemens / Italtel |
| 1969年 | テレビ | ブラック201(ザッパーと共同) | Brionvega |
| 1969年 | 文具 | ハスティル 万年筆 | Aurora |
| 1969年 | 計量器 | キッチンスケール BA2000、体重計 T111A | Terraillon |
| 1973年 | 家電 | 卓上扇風機 | Vortice |
プロフィール
| 生没年 | 1916年5月14日〜2001年 |
|---|---|
| 出身地 | イタリア・ミラノ |
| 国籍 | イタリア |
| 活動拠点 | ミラノ |
| 分野 | 家具、家電、電話機、建築 |
| 主な協働ブランド | Arflex、Cassina、Kartell、Brionvega、Siemens |
Reference
- Marco Zanuso | Arflex
- https://www.arflex.it/en/designers/marco-zanuso/
- Marco Zanuso | Cassina
- https://www.cassina.com/ww/en/designers.html
- The Museum of Modern Art Collection
- https://www.moma.org/collection/works/2325
- The Metropolitan Museum of Art Collection
- https://www.metmuseum.org/art/collection
- Victoria and Albert Museum Collections
- https://collections.vam.ac.uk/