マルコ・ザヌーソ
マルコ・ザヌーソ(Marco Zanuso、1916年5月14日 - 2001年7月11日)は、イタリアの建築家・デザイナーである。ミラノに生まれ、ミラノ工科大学で建築を学び、1939年に学位を取得した。第二次世界大戦中はイタリア海軍に従軍し、戦後の1945年にミラノで自身の設計事務所を開いた。建築・都市計画からプロダクトデザインまで幅広い領域を手がけ、戦後イタリアが「グッドデザイン」の理念を確立していく過程で中心的な役割を担った一人である。
バイオグラフィー
1947年から1949年にかけて雑誌『ドムス』の、1952年から1956年にかけて『カザベラ』の編集に携わり、エルネスト・ナタン・ロジャースらとともに近代デザイン運動の理論形成に加わった。1956年にはイタリア工業デザイン協会(ADI)の創設に参画し、後に会長も務めている。母校ミラノ工科大学では長年にわたり建築・デザイン・都市計画を教えた。1957年から1977年にかけては、ドイツの工業デザイナー、リヒャルト・ザッパー(Richard Sapper)と協働し、家具から電化製品まで数多くの製品を共同で設計している。
デザインの思想とアプローチ
ザヌーソは、量産される製品の形は美観だけでなく、素材・生産技術・流通・伝達といった条件の総合から導かれると考えた。彼自身の言葉を借りれば、連続生産を前提とする製品の形とは、創造性と製造、そして社会的・文化的な文脈を結びつける具体的な過程における、機会と実験と発明の総体であった。戦後の工業化が進むなか、フォームラバー(発泡ゴム)や射出成形プラスチックといった新素材をいち早く取り入れ、製造性と市場での入手しやすさを重視した設計を進めた先駆者の一人に数えられる。1956年から1985年にかけて、イタリアの工業デザイン賞コンパッソ・ドーロを五度受賞した。
アルフレックスと新素材の家具
戦後まもなく、ザヌーソはタイヤメーカーのピレリが1948年に設立した子会社アルフレックス(Arflex)から、フォームラバーを用いた椅子の設計を委嘱された。1949年に発表した「アントロプス(Antropus)」に続き、1951年の「レディチェア(Lady)」は同年の第9回ミラノ・トリエンナーレで一等を受けた。フォームラバーと弾性のある帯素材を組み合わせ、各部を別々に成形してから組み立てるという、それまでの張り椅子とは異なる手法で生み出された点に特徴がある。曲線を描くアームと有機的なフォルムをもつこの椅子は、張り家具の製造のあり方を大きく変えるものとなった。1954年にはソファベッド「スリープ・オ・マティック(Sleep-O-Matic)」も手がけている。ザヌーソの家具は、現在カッシーナ(Cassina)の「イ・マエストリ」コレクションに引き継がれている。
リヒャルト・ザッパーとの協働
1957年に始まったザッパーとの協働は、戦後イタリア・デザインを代表する製品を数多く生んだ。1959年からは電機メーカーのブリオンヴェガ(Brionvega)のコンサルタントを務め、1962年に全トランジスタ式のテレビ「ドニー14(Doney 14)」を、1964年には可搬型テレビ「アルゴル(Algol)」を発表した。1965年のキューブ型ラジオ「TS 502」、1966年にシーメンス向けに設計した折りたたみ式電話機「グリッロ(Grillo)」、1969年のテレビ「ブラック(Black 201)」も、この二人による代表作として知られる。また家具メーカーのカルテル(Kartell)のために1960年から1964年にかけて設計した子供用の積み重ね椅子「4999(K4999)」は、射出成形プラスチックのみで作られた最初の椅子とされ、家庭用家具の素材としてプラスチックが受け入れられていく契機の一つとなった。
建築の仕事
ザヌーソはミラノの事務所を拠点に、イタリア国内のほか、アルゼンチン、ブラジル、南アフリカなどでも建築を手がけた。オリベッティの工場(ブエノスアイレス、サンパウロ、1950年代後半)や、ミラノのIBM関連施設(1974年)といった産業建築のほか、ミラノ市の都市計画委員としてフォッサーティ劇場の改修や、ピッコロ・テアトロ(テアトロ・ストレーレル、1990年代)の建設にも携わった。
評価と後世への影響
ザヌーソは、素材と生産技術の可能性を製品の形へ結びつけた戦後イタリア・デザインの中心人物の一人として位置づけられている。1984年に共和国大統領賞、1994年にコンパッソ・ドーロ功労賞を受け、1999年には母校ミラノ工科大学からインダストリアルデザインの名誉学位を授与された。その作品はニューヨーク近代美術館(MoMA)やメトロポリタン美術館などに収蔵されている。
| 年月 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1949年 | チェア | Antropus(アントロプス) | Arflex |
| 1951年 | チェア | Lady(レディチェア) | Arflex |
| 1954年 | ソファ | Sleep-O-Matic | Arflex |
| 1956年 | ミシン | Borletti model 1102 | Fratelli Borletti |
| 1959–1964年 | チェア | Lambda(ザッパーと協働) | Gavina |
| 1960–1964年 | チェア | 4999/K4999(子供用・ザッパーと協働) | Kartell |
| 1962年 | テレビ | Doney 14(ザッパーと協働) | Brionvega |
| 1964年 | テレビ | Algol(ザッパーと協働) | Brionvega |
| 1965年 | ラジオ | TS 502(ザッパーと協働) | Brionvega |
| 1966年 | 電話機 | Grillo(ザッパーと協働) | Siemens |
| 1969年 | テレビ | Black 201(ザッパーと協働) | Brionvega |
| 1970年 | テーブル | Marcuso | Zanotta |
| 1970年 | 筆記具 | Hastil(ザッパーと協働) | Aurora |
| 1995年 | カトラリー | Duna | Alessi |
Reference
- Marco Zanuso – Wikipedia
- https://en.wikipedia.org/wiki/Marco_Zanuso
- Cassina – Marco Zanuso(I Maestri)
- https://www.cassina.com/ww/en/maestri/marco-zanuso.html
- The Museum of Modern Art – Children's Chairs (model K4999), Zanuso & Sapper
- https://www.moma.org/collection/works/3455
- The Metropolitan Museum of Art – Lady Armchair
- https://www.metmuseum.org/art/collection/search/484478
- Brionvega – Marco Zanuso and Richard Sapper
- https://www.brionvega.com/en/stories/marco-zanuso-and-richard-sapper/