Venini(ヴェニーニ)

Veniniは、イタリア・ヴェネツィアのムラーノ島に炉を構えるガラスの製造企業である。1921年10月、ミラノの弁護士Paolo Veniniとヴェネツィアの古美術商Giacomo Cappellinが、島の既存の工房を引き継いで設立した。器や彫刻としてのガラスと、建築向けの照明を扱う。設計を外部の建築家・美術家に委ね、成形は島の職人が担う分業を創業当初から採っている。2016年に宝飾企業Damianiの創業家が株式の過半を取得し、2020年に全株式の取得が完了した。

事業と製造の実体

Veniniは製造を外部に出さない。溶解から成形、冷間の仕上げまでを、創業時から使い続けているFondamenta Vetraiの建屋で行う。

製造の条件を決めるのは色の調合と炉の運用である。原料は高純度の珪砂と金属酸化物で、配合を変えることで発色と濃度が変わる。調合した原料は夕刻から坩堝に入れて約1,400℃で夜通し溶かし、夜明けに成形が始まる。職人はまず溶けたガラスの強度を確かめ、割れなければその日の作業に入る。同社は125種の色を保持し、色ごとに個別の調合手順を持つ。坩堝は12基が同時に稼働し、最大で12色を並行して扱える。

発色は炉の中だけで決まらない。外気温、空気中の湿度、焼成の進め方によって色調と濃淡が動く。同社はこの振れ幅を欠陥として扱わず、個体差として出荷する。

熱間の加工は吹き竿による成形を軸とし、これに二つの方法が併用される。ひとつは色ガラスの棒を並べて融着させ、板にしてから吹く方法である。棒は断面が円形に引き伸ばされたもので、単色のものと異なる色を組み合わせたもの、透明のものと不透明のものが使い分けられ、並べ方が模様を決める。オッキはこの工程で成形される。もうひとつは熱いうちに表面へ装飾を加える方法で、縁の処理から金箔の封入までが設計の段階で決められる。

冷間の加工では、バットゥートが同社の製品を特徴づける。成形後のガラス表面を研磨のホイールで手作業で削り、不規則に見える細かい刻みを一面に残す方法で、削りすぎれば形が崩れるため加減が仕上がりを左右する。

これらの技法は文書化されておらず、職人から職人へ口頭と手つきで受け渡される。工程が複雑なため、職人は自分の適性に応じて特定の技法に専門化する。

照明も器と同じ炉で作る。個々のガラス要素を吹いて成形し、金属の骨組みに組み付けて大型の器具を構成する方式を採るため、要素の形を変えれば同じ構造で規模の異なる器具が成立する。1931年以降の公共建築向けの仕事はこの方式で担われた。

沿革

創業と分裂

1921年10月、Paolo VeniniとGiacomo Cappellinが「Vetri Soffiati Cappellin Venini & C.」を設立した。技術面はムラーノのガラス職人Andrea Riodaが担う予定だったが、同年に死去したため、引き継がれたのは工房の設備と職人だけだった。画家Vittorio Zecchinがアートディレクターに就き、同年に花器Veroneseを設計している。

1924年、イタリア外務省が在外公館向けの食器類を公募し、同社の案が採用された。Ambasciataと呼ばれるこの一群は、現在も在外公館向けに供給されている。

1925年、両者は事業方針の相違から分かれた。Cappellinは職人とZecchinを連れて別会社を興し、Veniniは炉を残して「Vetri Soffiati Muranesi Venini & C.」として事業を続けた。

アートディレクターの交代と技法の開発

分離後は彫刻家Napoleone Martinuzziがアートディレクターを務めた。1928年、無数の気泡を含ませて半透明にしたpulegosoを導入し、これを用いた大型の造形物を手がけている。

1932年にMartinuzziが離れ、Tommaso BuzziとCarlo Scarpaが加わった。Scarpaは1947年まで在籍する。1934年のsommerso(色ガラスを層状に重ねる方法)を皮切りに、battuto、tessuto、granulare、murrineといった表面と組成の処理が炉の職人との共同で整えられ、1940年のヴェネツィア・ビエンナーレとミラノ・トリエンナーレで一括して発表された。この期間に確立した技法群が、以後の製品の土台になっている。

建築照明への進出も1930年代に始まる。1931年、建築家Angiolo Mazzoniと組んでベルガモの郵便局の照明を手がけ、以後テーラモやパレルモなどの郵便局、レッジョ・エミリアやフェッラーラなどの鉄道駅へ広がった。

戦後の拡大と経営の移行

戦時中は炉の稼働が落ちたものの、ランプと瓶の量産を並行させることで操業は途切れなかった。1946年からGio Ponti、1949年からFulvio Bianconiとの仕事が始まる。1958年にはPaolo Veniniと建築家Ignazio Gardellaが多面体のガラス要素poliedroを考案し、1961年のトリノ万博でCarlo Scarpaがこれを大型の照明装置に構成した。

1959年にPaolo Veniniが死去し、娘婿の建築家Ludovico Diaz de Santillanaが製造と照明計画の方針を引き継ぎ、1985年までその任にあたった。1972年10月には火災が事務所を焼き、見本と試作の大半が失われている。

1986年、GardiniとFerruzziの両家が同社を取得した。この時期から、過去の設計を数量を限って復刻する事業が新作の開発と並行して進められている。1998年1月にはデンマークのRoyal Scandinaviaへ移り、2001年にはChimento家とTabacchi家が保有するItalian Luxury Industriesが取得した。

2016年、宝飾企業Damianiの創業家にあたるGuido、Giorgio、Silvia Damianiが株式の過半を取得し、2020年2月に全株式の取得が完了した。現在はSilvia Damianiが同社の会長を務める。

デザイナーとの協働

Veniniは社内に意匠の部門を置かず、アートディレクターが製品の方向を統括し、個別の設計者を招く体制を採ってきた。炉の技法が形の可能性を規定するため、設計者は工房の技能を前提に造形を検討し、職人と試作を重ねながら形を決めることになる。

創業期を担ったのはVittorio Zecchin、Napoleone Martinuzzi、Tommaso Buzzi、Carlo Scarpaである。戦後はGio Ponti、Fulvio Bianconi、Massimo Vignelli、Tobia Scarpa、Thomas Stearns、Toni Zuccheri、Tapio Wirkkalaが加わった。1988年以降はAlessandro Mendiniが長く関与し、Ettore Sottsass、Gae Aulenti、Mario Bellini、Vico Magistretti、Cini Boeriらが続く。近年はTadao Ando、Ron Arad、Fernando & Humberto Campana、Peter Marino、Emmanuel Babledらとの協働がある。

主な製品群

製品は器を中心とするArt Glassと、照明のArt Lightに大別される。前者は花器、装飾品、卓上の器から成り、後者は卓上灯、床置き灯、壁付け灯、シャンデリアを含む。

器の系列は創業年のVeroneseに始まる。1949年のFazzolettoは、成形後のガラスの縁を熱いうちに垂らして布のような輪郭をつくるもので、色と技法を変えた派生が現在まで続く。1959年頃のオッキは、棒を組む工程を器の形へ展開した例にあたる。器の系列は、こうして既存の技法に別の設計者を当てながら数を増やしてきた。

照明では、1958年に考案された多面体の要素を金属の骨組みへ組む方式が、単体の器具から建築規模の装置までを同じ部品で成立させる基盤になった。これに加えて、吹きガラス単体で成形する卓上灯の系列が1950年代から続いている。

受賞・収蔵

1923年、モンツァの国際装飾芸術博覧会でGrande Medaglia d'oroを受けた。2023年にはLeonardo Qualità Italia Awardを受けている。

美術館の収蔵は以下が収蔵番号とともに確認できる。

  • ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館 — Veronese(Vittorio Zecchin、1921年、CIRC.481-1971)、Fazzoletto(Fulvio Bianconi、1949年、CIRC.270-1955)、Tessuti(Carlo Scarpa、1939年、CIRC.118-1958)
  • メトロポリタン美術館 — Corrosi, no. 4111(Carlo Scarpa、1936年頃、2014.208.7)
  • ニューヨーク近代美術館 — Vase(Paolo Venini、1938年、35.1949)

現在の展開

現在はDamiani Groupの傘下にある。宝飾と時計を主とする同グループのなかで、ガラスを扱う事業はVeniniのみである。製品は住宅向けの器と照明に加え、ホテルや商業施設向けの照明を含む。

工房の建屋には自社の資料を収めるMuseo Veniniが置かれている。45,000点を超える設計図、10,000点を超える記録写真、5,000点の作品を収める。作品には生産に至らなかった試作が多く含まれる。これらは外部の美術館の展覧会へ貸し出されている。2011年以降は、この資料をFondazione Giorgio Cini等が運営する展示企画Le Stanze del Vetroに供し、年ごとの展覧会が組まれてきた。

2020年、ヴェネツィア本島サン・マルコの店舗を閉じ、販売の機能をムラーノの工房建屋へ移した。以後は直営店を国内外に広げる方針が採られ、2026年にはミラノとローマに店舗が開かれている。

基本情報

ブランド名 Venini(ヴェニーニ)
設立 1921年10月
創業者 Paolo Venini、Giacomo Cappellin
設立時の社名 Vetri Soffiati Cappellin Venini & C.(1925年の分離後はVetri Soffiati Muranesi Venini & C.)
本社所在地 イタリア・ヴェネツィア ムラーノ島(Fondamenta Vetrai)
資本関係 2016年にDamianiの創業家が株式の過半を取得、2020年に全株式の取得が完了
事業内容 吹きガラスによる器・装飾品・照明の製造および販売
公式サイト https://www.venini.com

Reference

Venini - The history
https://www.venini.com/en_eu/savoir-faire/history
Venini - Furnace
https://www.venini.com/en_eu/savoir-faire/furnace
Venini - Museo Venini
https://www.venini.com/it_it/savoir-faire/museo-venini
Damiani Group - La Fornace Venini
https://www.damianigroup.com/savoir-faire/artigianalita/la-fornace-venini/
Il Sole 24 ORE - Venini cerca un nuovo spazio retail e valorizza la fornace di Murano
https://www.ilsole24ore.com/art/venini-cerca-nuovo-spazio-retail-e-valorizza-fornace-murano-ADB3Srv
MilanoFinanza - Damiani completa l'acquisizione di Venini
https://www.milanofinanza.it/fashion/damiani-completa-l-acquisizione-di-venini-202002131504587324
V&A - Veronese, Vittorio Zecchin(CIRC.481-1971)
https://collections.vam.ac.uk/item/O6900/
V&A - Handkerchief / Fazzoletto, Fulvio Bianconi(CIRC.270-1955)
https://collections.vam.ac.uk/item/O6525/
The Metropolitan Museum of Art - Corrosi, no. 4111(2014.208.7)
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/499868