概要

マリオ・ベリーニ(1935年生まれ)は、イタリアの建築家・デザイナーである。1963年からオリベッティの設計顧問としてタイプライターや計算機の外形を手がける一方、カッシーナやB&Bイタリアのための家具を設計した。骨組みに張り材を被せる、あるいは骨組みそのものを持たないといった構成上の操作を主題とし、キャブチェアやレ・バンボレがその代表にあたる。1980年代以降は建築に軸足を移し、ルーヴル美術館イスラム美術部門などを手がけている。

バイオグラフィー

1935年2月1日、ミラノに生まれた。1959年にミラノ工科大学の建築学部を卒業し、在学中はジオ・ポンティらに学んでいる。卒業後の1959年から1962年まで、百貨店ラ・リナシェンテのデザイン部門を担当した。

1963年に自身の事務所を開くとともに、オリベッティの設計顧問となる。この関係は1991年まで続き、タイプライター、計算機、初期の端末機器を継続して手がけた。同時期にカッシーナ、C&Bイタリア(のちのB&Bイタリア)、ヴィトラとの協働が始まっている。

1972年、ニューヨーク近代美術館の展覧会「Italy: The New Domestic Landscape」のために、移動する居住空間「カール・ア・スートラ」を制作した。1985年から1991年まで雑誌『ドムス』の編集長を務めている。

1987年、ニューヨーク近代美術館で個展「Mario Bellini: Designer」(キュレーション:カーラ・マッカーティ)が6月から9月にかけて開かれた。同館は当時すでに彼の作品25点を所蔵しており、その内訳は本ページ末尾の収蔵一覧に収蔵番号とともに掲げる。この年に建築設計の事務所を設立し、以後は建築と都市計画に重心を移している。ミラノを拠点に、東京デザインセンター、メルボルンのビクトリア国立美術館改修、ルーヴル美術館イスラム美術部門などを手がけた。

デザインの思想と方法

ベリーニが繰り返し扱ったのは、家具の骨組みと表面をどう関係づけるかという問題である。骨組みを覆い隠すのでも、骨組みだけを見せるのでもなく、両者の役割を明確に分けたうえで、その関係自体を製品の構成として提示する。この操作が、彼の家具を分類する軸になっている。

骨組みに表面を被せる

1977年のキャブチェアでは、鋼管だけの最小限の骨組みに、革の部材をファスナーで留めて全体を覆う。革は装飾ではなく、骨組みを覆いながら座り心地を担う構造材として働く。取り外して交換できるため、消耗する部分と持続する部分が分離されている。建築で構造と外皮を分けるのと同じ関係を、椅子の寸法で扱った例にあたる。

骨組みを持たない構成

1972年のレ・バンボレは逆の方向をとる。支持の骨組みも従来の張り工程も持たず、成形した発泡材を伸縮する袋に収めることで形が決まる。荷重は材料そのものが受け、外形は詰め物の膨らみによって現れる。骨組みを前提としない椅子が成立するかという問いに対する解答である。

正方形の単位で組む

1970年のカマレオンダは、正方形のモジュールを金具で連結する構成をとる。単体では完結せず、連結の順序と向きによって直線形にもL字形にも島形にもなる。使い手が配置を決めるため、設計者が決めるのは単位の寸法と連結の方式だけになる。

機器の外形を身体の側から決める

オリベッティの仕事では、電子部品の配置から決まる箱形ではなく、手が触れる面と操作の動作から外形を導いた。粘土で模型をつくって形を確かめる進め方をとっており、キーの並びと手首の位置関係、持ち運びの際の握りが寸法の根拠になっている。家具で扱った身体との接し方を、事務機器に適用した仕事といえる。

代表作にみる方法

カマレオンダ(1970年)

正方形のモジュールを、ケーブルと金具で相互に連結するソファである。背もたれと肘掛けは独立した部材として扱われ、必要な位置にだけ加えられる。単位を増減すれば規模が変わり、向きを変えれば形が変わるため、完成形が一つに定まらない。1979年に生産が止まったのち、2020年に再生素材を用いた仕様で復刻された。→カマレオンダ

レ・バンボレ(1972年)

骨組みを持たず、成形した発泡材を伸縮性のあるカバーで包むだけの構成をとる。従来の張り家具が骨組みにクッションを載せて布で覆うのに対し、この製品では覆う布そのものが形を保持する役割を負う。輪郭が柔らかく崩れるのは意匠上の選択ではなく、この構成の帰結である。1979年にコンパッソ・ドーロ賞を受けた。→ル・バンボーレ

キャブ(1977年)

鋼管の骨組みに、鞍革の部材をファスナーで留めて覆う椅子である。革は座面と背もたれだけでなく脚部まで覆い、骨組みは外から見えない。革を外せば骨組みだけが残るため、二つの層の役割が分離していることが実物で確認できる。ダイニングチェアの412、アームチェアの413などとして展開された。カッシーナが生産を続けている。→キャブ 412 / キャブ 413

オリベッティの事務機器(1963-1991年)

ディヴィスンマ18の電子計算機では、キーを含む上面全体を継ぎ目のないゴムで覆い、押す位置が形状で分かるようにした。部品の集合として見せるのではなく、操作する面を一続きの表面として扱う考え方である。家具で用いた「骨組みを表面で覆う」という構成が、事務機器の側にも適用されている。

ルーヴル美術館 イスラム美術部門(2012年)

リュディ・リチオッティとの共同設計で、2005年の国際競技設計に当選した仕事である。歴史的な中庭に建物を建てるのではなく、半透明の屋根を掛けて下部に展示空間を設ける構成をとった。屋根は既存の建物に接続せず、独立した支柱で支えられている。既存の構造に手を加えずに新しい空間を挿入するという判断であり、家具で扱った層の分離が建築の規模で現れた例にあたる。

評価と影響

ベリーニは一般に、1960年代以降のイタリアのデザインを国際的な位置に押し上げた設計者の一人と評価されている。家具と事務機器という異なる分野で同じ構成上の考え方を適用した点が、しばしば取り上げられる。

キャブの、骨組みを覆う交換可能な革という構成は、家具における構造材と表面材の関係を扱い直す例として参照される。カマレオンダのモジュール方式は、単位を組み合わせるソファの形式が広まる過程で早い時期の例にあたる。

1987年のニューヨーク近代美術館での個展と、2015年のミラノ・トリエンナーレによる建築部門の生涯功労金メダル、2017年の同館での回顧展が、評価の節目として言及される。

受賞・収蔵

受賞

  • コンパッソ・ドーロ賞 8回受賞(1979年 レ・バンボレ、2001年 ベリーニチェア ほか)
  • 1991年 名誉ロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリー(英国王立芸術協会)
  • 2015年 ミラノ・トリエンナーレ 建築部門 生涯功労金メダル

収蔵

以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、Met=メトロポリタン美術館)。

  • MoMA アームチェア(モデル932/2、1965年) 収蔵番号 467.1972
  • MoMA プログラマ101(1965年) 収蔵番号 441.1987
  • MoMA P203 マイクロコンピュータ(1966年) 収蔵番号 453.1970
  • MoMA TCV250 ビデオディスプレイ端末(1966年) 収蔵番号 434.1983
  • MoMA GA45 レコードプレーヤー(1968年) 収蔵番号 452.1970
  • MoMA RR130 トーテム ステレオ(1970年) 収蔵番号 45.1972
  • MoMA ディヴィスンマ18 電子計算機(1972年) 収蔵番号 450.1974.1-2
  • MoMA レ・バンボレ アームチェア(1972年) 収蔵番号 443.1987
  • MoMA レキシコン82 電動タイプライター(1972-73年) 収蔵番号 148.1977
  • MoMA アレア ランプ(1974年) 収蔵番号 444.1987.1-3
  • MoMA キャブ サイドチェア(1976年) 収蔵番号 475.1978
  • MoMA キャブ アームチェア(1978年) 収蔵番号 4.1980
  • V&A レ・バンボレ 収蔵番号 W.40-1978
  • V&A ロゴス245(1969年) 収蔵番号 CIRC.161-1974
  • Met キャブ アームチェア(1978年設計/1987年製作) 収蔵番号 1987.370.1
  • Met ブレイク アームチェア(1976年設計/1987年製作) 収蔵番号 1987.370.2
  • Met アレア50 ランプ(1976年) 収蔵番号 1988.236.3
  • Met スタッキングチェア(ベリーニチェア、1998年設計) 収蔵番号 2001.352.1

作品一覧

家具・プロダクト

発表年 区分 作品名 ブランド
1965年 プロダクト プログラマ101 Olivetti
1966年 椅子 アマンタ C&B Italia
1968年 プロダクト RR130 トーテム Brionvega
1970年 ソファ カマレオンダ C&B Italia / B&B Italia
1972年 ソファ ル・バンボーレ B&B Italia
1972年 展示 カール・ア・スートラ MoMA / Citroën
1972年 プロダクト ディヴィスンマ18 電子計算機 Olivetti
1974年 照明 アレア Artemide
1976年 椅子 キャブ 412 Cassina
1977年 椅子 キャブ 413 Cassina
1979年 オフィスチェア ペルソナ Vitra
1985年 食器 クーポラ ティー/コーヒーセット Rosenthal
1998年 椅子 ベリーニチェア Heller
2001年 オフィスチェア イプシロン Vitra
2020年 ソファ カマレオンダ(再発売) B&B Italia

建築(抜粋)

区分 作品名 場所
1986-1990年 建築 ヴィラ・エルバ国際会議場 チェルノッビオ、イタリア
1988-1992年 建築 東京デザインセンター 東京、日本
1996-2003年 建築 ビクトリア国立美術館 改修 メルボルン、オーストラリア
2002年 建築 ドイツ銀行本社 フランクフルト、ドイツ
2012年 建築 ルーヴル美術館 イスラム美術部門 パリ、フランス
2012年 建築 ボローニャ市歴史博物館 ボローニャ、イタリア

プロフィール

生年 1935年2月1日
出身地 イタリア・ミラノ
国籍 イタリア
活動拠点 ミラノ
分野 建築、家具、プロダクト
主な協働ブランド Cassina、B&B Italia、Vitra、Artemide、Olivetti、Brionvega

Reference

Mario Bellini Architects
https://www.bellini.it/
Mario Bellini: Designer | The Museum of Modern Art
https://www.moma.org/calendar/exhibitions/1785
Mario Bellini. Italian Beauty | Domus
https://www.domusweb.it/en/news/2017/01/18/mario_bellini_italian_beauty.html
Mario Bellini | Cassina
https://www.cassina.com/ww/en/designers/mario-bellini.html
The Museum of Modern Art Collection
https://www.moma.org/collection/works/2325