概要

エットレ・ソットサス(1917-2007)は、イタリアの建築家・デザイナーである。1958年からオリベッティの設計顧問として計算機やタイプライターを手がける一方、1980年にメンフィスを結成し、色と形の組み合わせを意図的にずらした家具を発表した。装飾のない形が機能から必然的に導かれるという前提を疑い、装飾と機能の関係を設計の主題とした点に特徴がある。

バイオグラフィー

1917年9月14日、オーストリアのインスブルックに生まれた。父は建築家のエットレ・ソットサス・シニアで、幼少期をトリノで過ごしている。1939年にトリノ工科大学で建築の学位を得た。

1947年にミラノで設計事務所を開く。1956年にはニューヨークのジョージ・ネルソンの事務所に短期間在籍した。1958年からオリベッティの設計顧問となり、1959年の大型計算機Elea 9003を手始めに、タイプライターや事務機器を継続して手がけている。

1960年代にはインドを繰り返し訪れ、以後の仕事に影響を与えた。1970年代にはアルキミアなど、既存の設計の前提を問い直す運動に加わっている。

1980年12月、ミラノの自宅での会合を起点にメンフィスが構想された。ミケーレ・デ・ルッキ、マルコ・ザニーニ、マルティーヌ・ベダン、ナタリー・デュ・パスキエらに加え、倉俣史朗梅田正徳も参加している。1981年のミラノで最初の展示を行い、以後1980年代を通じて毎年発表を続けた。2007年12月31日、ミラノで没している。

デザインの思想と方法

ソットサスが疑ったのは、装飾を排せば機能に即した正しい形が残る、という前提である。装飾を除いた結果として現れる形もまた一つの選択にすぎない。だとすれば、色や表面や比例を設計の対象として扱い直せる——彼の仕事はこの認識から出ている。

色と形の対応をずらす

通常、色は形の区分に従って塗り分けられる。ソットサスは色の境界と形の境界を意図的にずらし、面の分割と塗り分けが一致しない構成をとった。ラミネート板の柄も、木目や石目を模すのではなく、抽象的な模様を面ごとに変えて貼る。見る人が形を読み取る手がかりが増えるため、単一の輪郭に収束しない。

基本形を積み上げる

カールトンやカサブランカは、円・三角・矩形といった単純な立体を斜めや直交に積み上げて構成される。個々の部材は収納や仕切りとして働くが、全体としての輪郭は用途からは導かれない。機能を満たしたうえで、なお形の決め方に余地が残ることを示す構成にあたる。

事務機器を個人の道具に置き換える

オリベッティの仕事では、事務機器という前提そのものを扱った。1969年のヴァレンタインは、赤い樹脂の本体と携行用のケースを一体とし、事務室ではなく個人が持ち歩く道具として提示している。ペリー・キングとの共同設計である。

安価な材料を主材にする

メンフィスの家具は、プラスチックラミネート、合板、金属といった安価な材料を用いる。高級材を使わないことで、価値が材料の希少性ではなく構成の側にあることが明確になる。同時に、量産の工程に載る範囲で成立するという条件も満たしている。

代表作にみる方法

ヴァレンタイン(1969年)

オリベッティのために、ペリー・キングとの共同で設計した携帯用タイプライターである。赤いABS樹脂の本体が、そのまま持ち運び用のケースに収まる。事務機器の色は無彩色という前提を外し、机の上ではなく持ち歩く場所を想定した。事務機器の分類そのものを組み替えた仕事にあたる。

ウルトラフラゴラ(1970年)

ポルトロノーヴァのために設計した鏡である。波形の縁を成形樹脂でつくり、その内側にピンクの蛍光管を仕込む。鏡としての機能に必要なのは平滑な面だけで、周囲の波形と発光は機能から導かれない。装飾を設計の対象として扱うという方向が、早い時期に現れている。→ウルトラフラゴラ

カールトン(1981年)

メンフィスの最初の展示で発表された間仕切り兼書架である。矩形の板を斜めに組み、面ごとに異なる色のラミネートを貼る。棚板は斜めに傾くため、置ける物が限られる。収納という用途を満たしつつ、形は用途から導かれないという構成を明示した作品にあたる。→カールトン・ルームディバイダー

カサブランカ(1981年)

カールトンと同じ方法による収納家具で、垂直の軸から左右非対称に棚が張り出す。全体は樹木のような輪郭を示すが、各部は収納として働く。斑点模様のラミネートを全面に貼ることで、木目や単色の面が持つ落ち着きを避けている。→カサブランカ

タヒチ(1981年)

メンフィスの照明である。長い頸の先に平たい笠が付き、鳥のような輪郭をとる。笠は光源を覆う面として働き、頸は高さを稼ぐ支持として働くが、その比率と角度は照明としての要求からは決まらない。→タヒチ ランプ

評価と影響

ソットサスは一般に、機能主義が前提としていた形の決め方を問い直した設計者と評価されている。装飾を排した形もまた選択の一つであるという指摘が、1980年代以降の設計の議論に影響を与えた。

メンフィスの活動は1981年から1988年まで続き、その後の家具・照明・テキスタイルの色と柄の扱いに影響を残した。参加者には各国の設計者が含まれ、日本からは倉俣史朗梅田正徳が加わっている。

オリベッティでの30年以上にわたる仕事も、その評価の一部を占める。事務機器という分野で、形と色を製品の性格を決める手段として扱った点が挙げられる。

収蔵

以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、Met=メトロポリタン美術館、AIC=シカゴ美術館)。

  • MoMA アステロイド ランプ(1968年) 収蔵番号 2291.2001
  • MoMA ヴァレンタイン 携帯用タイプライター(1968年) 収蔵番号 1116.1969
  • MoMA スンマ19 計算機(1970年) 収蔵番号 65.2007
  • MoMA シヴァ ヴェース(1973年) 収蔵番号 167.2012
  • MoMA カールトン ルームディバイダー(1981年) 収蔵番号 1290.2018
  • MoMA エノルメ 電話機(1986年) 収蔵番号 458.1987
  • MoMA ヤントラ ヴェース(1969年頃) 収蔵番号 1289.2018.1-2
  • V&A トーテム(1965年頃) 収蔵番号 C.55:1 to 4-2011
  • V&A ヴァレンタイン(1969年) 収蔵番号 M.24:1,2-1993
  • V&A ル・ストゥルットゥーレ・トレマノ(1979年) 収蔵番号 W.8:1, 2-2010
  • V&A カサブランカ(1981年) 収蔵番号 W.14:1 to 6-1990
  • V&A アショカ(1981年) 収蔵番号 W.16-2010
  • V&A ムルマンスク(1982年) 収蔵番号 M.35:1 to 2-2010
  • V&A ウエストサイド ラウンジ(1983年) 収蔵番号 W.20-1990
  • Met アステロイド ランプ(1968年) 収蔵番号 1987.64.1
  • Met シンテシス45 サイドチェア(1972年) 収蔵番号 1987.386
  • Met シヴァ ヴェース(1973年) 収蔵番号 2017.204
  • Met カールトン ルームディバイダー(1981年) 収蔵番号 1997.460.1a–d
  • Met ムルマンスク フルーツディッシュ(1982年) 収蔵番号 1992.216.1a, b
  • Met タルタル テーブル(1985年) 収蔵番号 2017.167.7
  • AIC カールトン ルームディバイダー(1981年) 収蔵番号 1984.1035
  • AIC ヴァレンタイン 携帯用タイプライター(1969年) 収蔵番号 2015.626
  • AIC シヴァ ヴェース(1973年) 収蔵番号 2016.563

作品一覧

発表年 区分 作品名 ブランド
1959年 計算機 Elea 9003 Olivetti
1968年 照明 アステロイド Poltronova
1969年 タイプライター ヴァレンタイン(ペリー・キングと共同) Olivetti
1970年 ミラー ウルトラフラゴラ Poltronova
1972年 陶器 インディアン・メモリー シリーズ Bitossi
1972年 オフィス家具 シンテシス45(梅田正徳と共同) Olivetti
1973年 花器 シヴァ BD Barcelona
1979年 テーブル ル・ストゥルットゥーレ・トレマノ Alchimia
1981年 収納 カールトン・ルームディバイダー Memphis
1981年 収納 カサブランカ Memphis
1981年 照明 タヒチ ランプ Memphis
1981年 ソファ ビバリー Memphis
1982年 什器 ムルマンスク Alessi
1986年 電話機 エノルメ Enorme Corporation
1994年 カトラリー 5070 サラダセット Alessi
1982年 照明 カリマコ Artemide

プロフィール

生没年 1917年9月14日〜2007年12月31日
出身地 オーストリア・インスブルック
国籍 イタリア
活動拠点 ミラノ
分野 家具、照明、陶器、事務機器、建築
主な協働ブランド Memphis Milano、Poltronova、Artemide、Olivetti、Alessi、Bitossi

Reference

Ettore Sottsass | Memphis Milano
https://www.memphis-milano.com/designers/ettore-sottsass/
Ettore Sottsass | Poltronova
https://www.poltronova.it/en/designers/ettore-sottsass/
Ettore Sottsass | Victoria and Albert Museum
https://collections.vam.ac.uk/
The Museum of Modern Art Collection
https://www.moma.org/collection/works/2325
The Metropolitan Museum of Art Collection
https://www.metmuseum.org/art/collection