カールトン・ルームディバイダーは、1981年にエットレ・ソットサスがデザインした、ポストモダンデザインを象徴する記念碑的な作品である。メンフィス・グループの旗手として知られるソットサスが、デザイン集団の創設と同時に発表したこの作品は、モダニズムの機能主義と合理主義に対する痛烈な批判として誕生した。本棚、ルームディバイダー、収納引き出しという三つの機能を統合しながら、その外観は家具というよりも彫刻作品に近い存在感を放っている。
高さ約196センチメートル、幅約190センチメートルという堂々たる佇まいは、まさにトーテムポールや古代の神像を想起させる擬人化されたフォルムを持つ。鮮やかな色彩のプラスチックラミネートで覆われた木製の構造体は、一見無秩序に配置されたかのような棚板と空間の相互作用によって、前衛的な絵画や彫刻を思わせる視覚的緊張感を生み出している。
特徴・コンセプト
幾何学的構造と機能性の融合
カールトンの最も革新的な特徴は、その外観の奔放さの背後に潜む精緻な幾何学的論理である。一見ランダムに配置されたかに見える棚板や仕切りは、実は正三角形を基本単位とした厳密な構造システムに基づいて設計されている。この幾何学的秩序は、実在する三角形と暗示される三角形の相互作用によって、作品全体に統一感と構造的安定性をもたらしている。
特筆すべきは、傾斜した棚板という一見非合理的に思える設計が、実は書籍が倒れにくいという実用的な機能を果たしている点である。この設計は、ソットサスが単なる視覚的挑発にとどまらず、使用者の体験をも深く考察していたことを示している。
素材の逆説
カールトンは、高級家具市場向けに丁寧に手作りされた作品でありながら、その素材には中密度繊維板(MDF)と安価なプラスチックラミネートが用いられている。この素材選択は、高級と廉価、芸術と工業生産という二項対立の境界を曖昧にする意図的な戦略であった。特に「バクテリア」と呼ばれる特徴的なパターンのラミネートは、メンフィスの美学を象徴する要素として広く知られている。
鮮やかな原色からパステルカラーまで、多様な色彩が不調和とも見える組み合わせで用いられているが、これはモダニズムの「良い趣味」という概念への挑戦であり、感情や詩的表現を重視するポストモダンの価値観を体現している。
多義的な解釈の可能性
カールトンは鑑賞者に対して開かれた解釈の余地を提供する。両腕を広げて迎え入れるロボット、多くの腕を持つヒンドゥー教の女神、あるいは自らが構築した混沌の頂点に立つ勝利者など、様々な読解が可能である。この多義性こそが、作品が単なる家具を超えて文化的アイコンとなった理由の一つといえよう。
エピソード
1981年9月18日、ミラノのArc '74ギャラリーで開催されたメンフィスの第一回展覧会は、デザイン界に衝撃を与えた歴史的な出来事となった。カールトンはこの展覧会の中心的存在として提示され、即座にメンフィスを象徴するアイコンとしての地位を確立した。当日は人々が殺到し、ソットサス自身はタクシーで会場に向かう途中、群衆に阻まれ「テロリストの爆弾が爆発したのではないか」と錯覚したという逸話が残されている。
展覧会の反響は国際的な広がりを見せ、ファッション界の重鎮カール・ラガーフェルドは複数のメンフィス作品を即座に購入し、音楽界の伝説デヴィッド・ボウイは変装して展覧会を訪れたと伝えられている。1982年にニューヨークで開催された「Memphis at Midnight」展では、チェルシーのロフトに3000人以上が押し寄せ、アメリカにおけるメンフィス旋風の始まりを告げた。
2011年には、カールトン誕生30周年を記念して、24金メッキのシルバーラベルと特別な木製ケースが付属する限定版30個が製作された。また、原寸の4分の1スケールで制作されたミニチュア版は1000個限定で生産され、コレクターズアイテムとして人気を博している。
評価
カールトンは、1980年代のポストモダンデザインを代表する作品として、デザイン史における不朽の地位を確立している。ニューヨーク近代美術館(MoMA)、メトロポリタン美術館、ヴィクトリア&アルバート博物館、シカゴ美術館、オーストラリア国立美術館、パリ装飾芸術館など、世界各国の主要美術館に収蔵されており、その文化的価値は広く認められている。
批評家たちは、カールトンを機能主義と合理主義という20世紀モダニズムの教条に対する根本的な問いかけとして評価している。従来の家具形式を疑問視し、空間分割、書籍収納、物品保管という複数の機能を統合しながら、それを彫刻的な存在として提示したことは、デザインの概念を拡張する革新的な試みであった。
メンフィス・グループの活動は1988年まで続いたが、カールトンの影響力は現代に至るまで継続している。現在も€12,000以上の価格で販売されており、オリジナルのヴィンテージ品は美術品市場において高値で取引されている。その挑発的な美学は、21世紀のデザイナーたちにも継続的なインスピレーションを与え続けている。
デザインの背景
カールトンが誕生した1980年代初頭のイタリアは、1970年代に隆盛したラディカル・デザイン運動の余波が残る時期であった。ソットサスは1960年代末からこの運動に深く関与し、大量生産と消費主義によってデザインが商業的道具と化すことへの反発を表明していた。メンフィス・グループの創設は、この思想的探求の集大成として位置づけられる。
グループ名はボブ・ディランの楽曲「Stuck Inside of Mobile with the Memphis Blues Again」に由来すると同時に、古代エジプトの首都メンフィス、そしてエルヴィス・プレスリーやアレサ・フランクリンを生んだアメリカの都市メンフィスをも想起させる。この多層的な命名は、過去と現在、聖なるものと俗なるものを融合させるというメンフィスの思想を象徴している。
基本情報
| デザイナー | エットレ・ソットサス(Ettore Sottsass) |
|---|---|
| ブランド | メンフィス・ミラノ(Memphis Milano) |
| デザイン年 | 1981年 |
| サイズ | 高さ196cm × 幅190cm × 奥行40cm |
| 重量 | 約130kg |
| 材質 | 木材(中密度繊維板)、プラスチックラミネート(メラミン化粧板) |
| 生産国 | イタリア |
| 所蔵美術館 | ニューヨーク近代美術館(MoMA)、メトロポリタン美術館、ヴィクトリア&アルバート博物館、シカゴ美術館、オーストラリア国立美術館、パリ装飾芸術館ほか |