ビバリーは、1981年にエットレ・ソットサスがデザインしたサイドボードであり、ポストモダンデザインの金字塔として知られるメンフィス・ミラノの第一回コレクションにおいて発表された記念碑的作品である。本作は、デザイン史における時間軸を視覚的に表現するという野心的な試みを具現化しており、過去と現在のデザイン様式を一つの家具の中で融合させた革新的な造形が特徴である。
木材を基調とし、装飾的なプラスチックラミネートと天然の瘤杢(バールウッド)を組み合わせた本作は、二枚扉の収納部と傾斜した上部棚板を備え、機能性と彫刻的な美しさを兼ね備えている。ソットサス自身が「メンフィス・コレクションの要となる作品」と位置づけた本作は、伝統的な高級素材と工業的な現代素材の対比を通じて、デザインにおける「良き趣味」の概念に対する知的な挑戦を提示している。
特徴・コンセプト
ビバリーの最も顕著な特徴は、斜めに配された支柱である。バーズアイメープル(鳥眼杢)で仕立てられたこの支柱は、ビーダーマイヤー様式やアール・デコといった過去のデザイン様式を想起させ、いわば「様式の視覚的分割線」として機能する。この支柱を境に、左側には伝統的な収納家具としての要素が、右側には現代的な要素が配置され、デザイン史における時間の流れが空間的に表現されている。
時を超えるメタファー
ソットサスは本作を「比喩的なタイムマシン」と表現した。瘤杢の支柱が象徴する「過去」と、その右側に取り付けられたクロームメッキのハンガーラックが象徴する「現在」との対比は、デザインの歴史を一瞥のうちに俯瞰させる装置として機能する。この構成は、メンフィス運動が掲げた「過去の様式を皮肉を込めて引用しながら、それを現代的な文脈に再解釈する」という姿勢を端的に示している。
遊戯的要素
本作において特筆すべきは、クロームのハンガーラックに添えられた鮮やかな赤色の「無用な電球」の存在である。ソットサスはこの要素を「道化師の鼻」に喩え、当時のデザイン界の趨勢に対する皮肉、あるいは社会に対する批評として位置づけた。この遊戯的かつ挑発的な要素は、機能主義に対するメンフィスの反骨精神を象徴的に表現しており、デザインが必ずしも合理性のみに従う必要はないという主張を体現している。
素材の対話
ビバリーにおける素材の選択は、意図的な対比に満ちている。高級家具の伝統において珍重されてきた天然の瘤杢と、大量生産品に多用される廉価なプラスチックラミネートの並置は、「良き趣味」の固定観念に対する挑戦である。メンフィスにとって、プラスチックラミネートは運動の象徴的素材であり、それはモダニズムが忌避してきたすべて——意図的な人工性、露骨な模倣、構造よりも表面、統合されたオーナメントよりも付加された装飾——を体現していた。
エピソード
1981年9月、ミラノのアルク'74ギャラリーにおいてメンフィス・グループが初のコレクションを発表した際、その反響は凄まじいものであった。来場者の群れでミラノ市内の交通が滞り、テロ事件が発生したのではないかと誤解されるほどの大混乱が生じた。ソットサス自身も会場への到着が危ぶまれたという逸話が残されている。
ビバリーは、この歴史的な展覧会において中核を成す作品の一つとして位置づけられた。ソットサスが「要となる作品」と称した本作は、カールトンやカサブランカといった他の代表作とともに、デザイン界に大きな波紋を広げた。当時のデザイン界の重鎮テレンス・コンランは、メンフィスの作品群を「冗談のつもりだろう」と評したが、この発言自体がメンフィスの挑発が如何に効果的であったかを物語っている。
ファッションデザイナーのカール・ラガーフェルドは、メンフィスのデザインに魅了され、モナコの夏の邸宅をメンフィス家具で満たしたことで知られる。音楽家デヴィッド・ボウイもまたメンフィス作品の熱心な収集家であり、2016年の没後に行われたサザビーズのオークションでは、彼のメンフィス・コレクションが100万ポンド以上で落札された。
評価
ビバリーは、ポストモダンデザインの精神を凝縮した作品として、美術館やデザイン史家から高い評価を受けている。本作が体現する「過去と現在の対話」という主題は、単なる様式的な遊びを超え、デザインの本質に対する深い洞察を示すものとして評価されている。
メンフィス運動がデザイン史に与えた影響は計り知れない。1970年代のミニマリズムに対する反動として始まったこの運動は、色彩、装飾、そして遊び心をデザインに取り戻し、その後の数十年にわたるデザインの方向性に決定的な影響を与えた。ビバリーは、この革命的な運動を代表する作品として、現在もコレクターズアイテムとして珍重されている。
近年、メンフィス・デザインへの関心は再燃しており、2022年にはミラノ・トリエンナーレにおいて「Memphis Again」展が開催され、1981年から1986年にかけてデザイン・製造された200点以上の作品が展示された。この展覧会は、メンフィス・デザインが今日においてもなお象徴的な概念であり続けていることを示している。
デザイナー:エットレ・ソットサス
エットレ・ソットサス(1917年-2007年)は、20世紀後半のイタリアデザイン界を代表する建築家・デザイナーである。オーストリアのインスブルックに生まれ、トリノ工科大学で建築を学んだ後、1958年よりオリベッティ社のデザインコンサルタントとして活躍。Elea 9003メインフレームコンピュータのデザインで1959年にコンパッソ・ドーロ賞を受賞した。
1960年代から70年代にかけて、ソットサスはラディカル・デザイン運動の中心人物として、合理主義やモダニズムを拒否し、より表現豊かなデザインの可能性を追求した。1980年にソットサス・アソシエイツを設立するとともに、同年12月、若手デザイナーたちとの会合においてメンフィス・グループを創設。翌1981年のミラノ・サローネにおいてデビューを飾り、世界のデザイン界に衝撃を与えた。
ソットサスは、デザインとは単なる機能の追求ではなく、感情を喚起し、物語を語り、創造性を刺激する視覚言語であるべきと考えた。その哲学は、ビバリーをはじめとするメンフィスの作品群に明確に表現されている。2006年にはロサンゼルス・カウンティ美術館にて、2017年にはメトロポリタン美術館ブロイヤー分館にて大規模な回顧展が開催され、その功績が改めて称えられた。
基本情報
| 名称 | ビバリー(Beverly) |
|---|---|
| デザイナー | エットレ・ソットサス(Ettore Sottsass) |
| 発表年 | 1981年 |
| ブランド | メンフィス・ミラノ(Memphis Milano) |
| 種類 | サイドボード |
| 素材 | 木材、装飾的プラスチックラミネート、天然瘤杢(バールウッド)、クロームメッキ金属 |
| 寸法 | 幅175cm × 奥行48cm × 高さ228cm |
| 製造 | イタリア製、ハンドメイド |
| 付属 | 真正性証明書、保証スタンプ |