概要
ガエタノ・ペッシェ(1939-2024)は、イタリアの建築家・デザイナーである。同じ型から同じものを繰り返し取り出すという量産の前提に対し、一つの型から毎回異なるものが出る条件をつくる方向で設計を進めた。1969年のUPシリーズでは、圧縮した樹脂を封入して輸送し、開封と同時に膨らむ椅子を実現している。樹脂の流し込みや手作業の成形を用いた製品を数多く残した。
バイオグラフィー
1939年11月8日、イタリア・リグーリア州ラ・スペツィアに生まれた。1958年から1963年までヴェネツィア建築大学で学び、在学中の1959年には前衛芸術の集団「グルッポN」の結成に加わっている。
1969年、C&Bイタリア(のちのB&Bイタリア)のためにUPシリーズを発表した。以後、カッシーナ、ヴィトラ、ゼロディゼーニョなどと協働し、家具・照明・容器を手がけている。
1980年代初頭にニューヨークへ移り、ブルックリンのネイビーヤードに工房を構えた。クーパー・ユニオンやストラスブールの建築・都市研究学院で教えている。1993年には大阪にオーガニック・ビルディングを完成させた。2024年4月に没している。
デザインの思想と方法
ペッシェが問題としたのは、工業生産が同一のものを繰り返しつくることを前提としている点である。人はそれぞれ違うのに、供給される物はすべて同じになる。彼は生産の工程そのものに、結果が一定にならない要素を組み込むことでこれに対処した。
工程に偶然を組み込む
樹脂を型に流す際、注ぐ量・順序・温度がわずかに違えば、固まったときの色の混ざり方や縁の形が変わる。ペッシェはこの差を欠陥として排除せず、製品の条件として受け入れた。ノーバディーズ・パーフェクトのシリーズでは、職人が手作業で樹脂を注ぐため、同じ型から出た椅子でも一つずつ模様が異なる。型は同じで結果が違う、という状態を意図してつくり出している。
体積を輸送から切り離す
1969年のUPシリーズは、成形したポリウレタンフォームから空気を抜いて板状に圧縮し、真空包装して出荷する。開封すると空気が入り、数分で本来の形に戻る。座具の体積が輸送と保管の制約になるという条件を、材料の性質で外した例にあたる。
素材の硬さを場所ごとに変える
フェルトリでは、厚いウールフェルトに熱硬化性の樹脂を含浸させる。樹脂の量を下部で多く、上部で少なくすることで、同じ一枚の材料が下では構造体として自立し、上では柔らかいまま身体に沿う。部材を分けずに、含浸の度合いだけで役割を変える構成である。
建築に緑を取り込む
1993年の大阪のオーガニック・ビルディングでは、外壁に多数の植栽用の器を突出させ、給水を制御する仕組みを組み込んだ。壁面を植栽の基盤として扱う建築の早い例にあたる。
カッシーナの歴史や他の製品について詳しくはカッシーナ ブランドページをご覧ください。
代表作にみる方法
UP シリーズ(1969年)
C&Bイタリアのために設計した7点からなる座具の系列である。成形したポリウレタンフォームから空気を抜いて板状に圧縮し、真空包装して出荷する。開封して空気が入ると本来の形に戻るため、輸送時の体積が本来の1割程度で済む。UP5とUP6は、身体を包む椅子と球形のオットマンを紐でつないだ組で、形そのものにも主題が込められている。→UP5_6 アームチェア&オットマン
ゴルゴタチェア(1972年)
樹脂を含浸させた布を型にかけて硬化させる椅子である。布のたるみ方が固定されるため、同じ手順でも一脚ごとに輪郭が異なる。工程で生じる差をそのまま製品の形とするという方針が、早い時期に現れた例にあたる。
フェルトリ(1986年)
カッシーナのために設計した椅子である。厚いウールフェルトの下部に熱硬化性樹脂を多く含ませて自立させ、上部は樹脂を抑えてフェルトの柔らかさを残す。背の高い部分は身体を包むように倒れ、座る人の姿勢に応じて形が変わる。一枚の材料の中で構造と柔軟性を分けている。→フェルトリ・チェア
プラットチェア(1984年)
同じ形で樹脂の配合だけを9段階に変えた一群である。硬い個体は椅子として座れ、柔らかい個体は自重で崩れて座れない。材料の性質と用途の成立が連続的につながっていることを、9脚を並べることで示している。
オーガニック・ビルディング(1993年、大阪)
大阪市内に建つ9階建ての事務所建築である。赤い外壁から植栽を収める器が多数突き出し、給水は自動で制御される。壁面を植栽の基盤とする構成は、後年に広がる緑化壁の先例として言及される。
評価と影響
ペッシェは一般に、工業生産の均質性に対して、同じ型から異なるものが出る条件を設計した設計者と評価されている。手作業を残すのではなく、量産の工程そのものに差が生じる仕組みを組み込む点が特徴として挙げられる。
UPシリーズは、輸送と保管の条件を材料の性質で解いた例として繰り返し参照される。1969年の発表当時、圧縮包装で出荷される家具は前例が少なかった。
建築、家具、容器、照明と扱う対象は広く、いずれも樹脂の扱いを中心に据えている。1980年代以降はニューヨークを拠点とし、教育にも携わった。
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、Met=メトロポリタン美術館、AIC=シカゴ美術館)。
- MoMA UP1 チェア(1969年) 収蔵番号 1113.1969
- MoMA UP1 チェア 圧縮状態(1969年) 収蔵番号 1114.1969
- MoMA UP5 ラウンジチェア&UP6 オットマン(1969年) 収蔵番号 124.1992.a-b
- MoMA ゴルゴタチェア(1972年) 収蔵番号 234.1975
- MoMA シットダウン ローバックアームチェア(1975年) 収蔵番号 331.1977
- MoMA フェルトリチェア(1986年) 収蔵番号 403.1988.1-2
- MoMA プラットチェア no.3(1984年) 収蔵番号 119.2003
- V&A UP3(1969年) 収蔵番号 CIRC.211-1970
- V&A プラットチェア(1984年) 収蔵番号 W.8-2011
- V&A クロスビーチェア(1998年) 収蔵番号 W.51-2005
- V&A ノーバディーズ・シェルブス(2002年) 収蔵番号 W.63-2002
- Met シットダウン アームチェア(1975年設計) 収蔵番号 1988.41.2
- Met テキスタイル「ピープル」(1987年) 収蔵番号 1989.348a,b
- Met 「タール・ラ・ニュイ」ボウル(1989年) 収蔵番号 1995.243
- AIC UP5 イージーチェア(1969年) 収蔵番号 2014.1001
- AIC UP6 オットマン(1969年) 収蔵番号 2014.1002
- AIC モトゥス(1970年) 収蔵番号 2002.98
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド / 場所 |
|---|---|---|---|
| 1969年 | 椅子 | UP5_6 アームチェア&オットマン | C&B Italia / B&B Italia |
| 1972年 | 椅子 | ゴルゴタチェア | Bracciodiferro |
| 1975年 | 椅子 | シットダウン | Cassina |
| 1980年 | 椅子 | ダリラ | Cassina |
| 1984年 | 椅子 | プラットチェア | — |
| 1986年 | 椅子 | フェルトリ・チェア | Cassina |
| 1993年 | 建築 | オーガニック・ビルディング | 大阪、日本 |
| 1998年 | 椅子 | クロスビーチェア | — |
| 2002年〜 | 椅子 | ノーバディーズ・パーフェクト シリーズ | Zerodisegno |
プロフィール
| 生没年 | 1939年11月8日〜2024年 |
|---|---|
| 出身地 | イタリア・ラ・スペツィア |
| 国籍 | イタリア |
| 活動拠点 | ヴェネツィア、パリ、ニューヨーク |
| 分野 | 家具、建築、容器、照明 |
| 主な協働ブランド | B&B Italia、Cassina、Vitra、Zerodisegno |
Reference
- Gaetano Pesce(公式)
- https://www.gaetanopesce.com/
- Gaetano Pesce | B&B Italia
- https://www.bebitalia.com/en/designers/gaetano-pesce
- Gaetano Pesce | Cassina
- https://www.cassina.com/ww/en/designers/gaetano-pesce.html
- Gaetano Pesce | Vitra Design Museum
- https://www.design-museum.de/en/
- The Museum of Modern Art Collection
- https://www.moma.org/collection/works/2325