概要

Feltri Chair(フェルトリ・チェア)は、イタリアの前衛的なデザイナー、ガエターノ・ペッシェが1987年にカッシーナ社のために創造した革新的なラウンジチェアである。厚手のウールフェルトを主素材として用い、熱硬化性樹脂による革新的な製造技術を採用したこの作品は、芸術と実用性の境界を探求する実験的なデザインの象徴として、今なお世界中のコレクターから愛されている。

1987年のミラノ家具見本市で「Unequal Suite」コレクションの一部として発表されたFeltri Chairは、産業デザインにおける画一性への挑戦であり、多様性と個性を称賛するペッシェの哲学を体現している。ニューヨーク近代美術館(MoMA)のパーマネントコレクションにも収蔵されるこの椅子は、ポストモダンデザインの重要な作品として評価されている。

特徴・コンセプト

革新的な素材使用

Feltri Chairの最大の特徴は、家具デザインにおいて前例のないフェルトの構造的使用にある。カッシーナの研究開発センターで開発された特許技術により、単一のフェルト素材から全体の構造を形成している。下部には熱硬化性樹脂を含浸させることで剛性と耐久性を確保し、上部は柔軟性を保持して包み込むような座り心地を実現している。

アイロニカルな王座

ペッシェはこの椅子を「王座のアイロニカルな解釈」と表現している。威厳ある王座の形態を採用しながら、温かみのあるフェルト素材と柔らかな質感により、権威的なイメージを解体し、親密で包容力のある家具へと変換した。これは、モダニズムの厳格な機能主義に対する彼の批判的視点を反映している。

可変性と個性

背もたれ部分は折り曲げることが可能で、使用者の好みに応じて翼のように広げたり、襟のように内側に折り込んだりできる。この柔軟性により、開放的な玉座から親密な繭のような空間まで、様々な表情を持つことができる。10種類のカラーバリエーションと多様な内装生地の組み合わせにより、各々の椅子に独自の個性を与えることが可能である。

エピソード

雨の日の着想

ペッシェはFeltri Chairのアイデアを、雨の日に街を歩いている時に得たという。雨に濡れたフェルトが水を吸収し、重くなりながらも形を保っている様子を観察し、この素材が持つ可能性に着目した。この偶然の発見が、フェルトを構造材として使用するという革新的なアイデアへとつながった。

カッシーナ研究センターでの実験

若き日のペッシェは、カッシーナの研究開発センターで多くの時間を過ごした。この「実験と構造的前衛思考の場」で、彼は新しい製造プロセスの開発に没頭した。フェルトに樹脂を含浸させる技術は、数多くの試行錯誤の末に確立され、後にカッシーナによって特許取得された。この革新的な製造技術は、デザイン業界に大きなインパクトを与えた。

ラフ・シモンズとのコラボレーション

2018年、カルバン・クラインのチーフクリエイティブオフィサーであったラフ・シモンズは、デザインマイアミ/バーゼルにおいて、100脚限定のFeltri Chairスペシャルエディションを発表した。19世紀から20世紀のアメリカンヴィンテージキルトで装飾されたこれらの椅子は、ペッシェの多様性への賛歌とアメリカ文化への新たな解釈を融合させた作品となった。

評価

Feltri Chairは発表から35年以上経過した現在も、現代デザインの重要な作品として高く評価されている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)をはじめ、世界各国の主要美術館のパーマネントコレクションに収蔵されており、ポストモダンデザインを代表する作品の一つとして認識されている。

デザイン評論家のスーザン・スレシンは、「ペッシェにとって、モダンであることは世界と正面から向き合い、デザインを通じてそれにコメントする手段として用いることを意味する」と評し、Feltri Chairをその哲学の具現化として位置づけている。芸術性と機能性のハイブリッドな領域で思考を形にしたこの作品は、コレクターズアイテムとして現在も高い人気を誇っている。

ヴィンテージ市場においても、Feltri Chairは安定した評価を得ており、特に初期生産品は希少価値が高い。オークションにおける落札価格は、状態や年代により2,700ドルから9,900ドル程度で推移しており、平均的な取引価格は約4,600ドルとなっている。現代のデザインコレクターにとって、必須のアイテムの一つとして認識されている。

受賞歴

Feltri Chair自体の個別の受賞歴は限定的であるが、デザイナーであるガエターノ・ペッシェは、その革新的なデザインアプローチにより数多くの栄誉を受けている。1993年のクライスラー・デザイン・アワード(イノベーション&デザイン部門)、2006年のA&Wデザイナー・オブ・ザ・イヤー(ケルン、ドイツ)、2022年のコンパッソ・ドーロ生涯功績賞(UP SERIESに対して)など、国際的な賞を多数受賞している。

2023年には、アンドレ・プットマン生涯功績賞を受賞し、20世紀から21世紀にかけてのデザイン界における彼の多大な貢献が改めて評価された。Feltri Chairは、これらの功績を代表する作品の一つとして、常に言及される存在となっている。

デザイナー ガエターノ・ペッシェ(Gaetano Pesce)
ブランド カッシーナ(Cassina)
発表年 1987年
分類 ラウンジチェア
サイズ W140 x D71 x H127cm(ハイバック)/ W140 x D70 x H95cm(ローバック)
重量 約20kg
素材 ウールフェルト、熱硬化性樹脂、麻紐、キルティング生地、ポリエステル充填材
カラー 10種類のカラーバリエーション(フレーム6色×内装生地の組み合わせ)
製造 イタリア製(カッシーナ社特許製造技術)
価格帯 新品:約2,700~9,900ドル / ヴィンテージ:状態により変動