フェルトリ・チェアが長く愛される理由
フェルトリ・チェア(Feltri Chair)は、1987年にイタリアの前衛的デザイナー、ガエターノ・ペッシェ(Gaetano Pesce, 1939-2024)がカッシーナ社(Cassina)のために創造した、ポストモダンデザインを代表する革新的なラウンジチェアである。
厚手のウールフェルトを主素材とし、下部に熱硬化性樹脂を含浸させて剛性を確保しつつ上部の柔軟性を保持するという、カッシーナ研究開発センターで開発・特許取得された革新的な製造技術を採用。家具デザインにおいて前例のないフェルトの構造的使用を実現した。ペッシェが「王座のアイロニカルな解釈」と表現したその造形は、威厳ある王座の形態を温かみあるフェルト素材と柔らかな質感で解体し、親密で包容力のある「座る彫刻」へと変換した。背もたれを翼のように広げたり襟のように折り込んだりできる可変性、フレーム6色×内装生地の組み合わせによる10種類のカラーバリエーションは、産業デザインにおける画一性への挑戦——多様性と個性を称賛するペッシェの哲学を体現する。1987年ミラノ家具見本市「Unequal Suite」コレクションとして発表。MoMA(ニューヨーク近代美術館)パーマネントコレクション収蔵。カッシーナ社がイタリアで製造を継続。
本ページでは、フェルトリ・チェアの購入を検討されている方に向けて、正規品の仕様・サイズ・価格帯、類似のポストモダン名作チェアとの比較、使用感と空間への取り入れ方、経年変化とメンテナンス、正規販売店と購入方法、コーディネート事例、よくある質問まで、購入判断に必要な情報を包括的にお伝えする。
ガエターノ・ペッシェの設計思想や経歴について詳しくはガエターノ・ペッシェ プロフィールページをご覧ください。
フェルトリ・チェアのデザインストーリーについて詳しくはフェルトリ・チェア紹介ページをご覧ください。
正規品の基本情報:仕様・サイズ・素材
フェルトリ・チェアの正規品はカッシーナ社(Cassina S.p.A., 1927年創業、イタリア・メーダ)が特許技術に基づきイタリアで製造する。カッシーナ研究開発センターで開発された製造プロセスは同社が特許を取得しており、厚手のウールフェルトに熱硬化性樹脂を含浸させて成形する独自の技法である。下部は樹脂含浸比率を高めて剛性と耐久性を確保し、上部は樹脂比率を低く抑えて柔軟性を保持する。成形過程でランダムな折り目が生じるため、同一仕様であっても一脚ごとに微妙に異なる表情を持つ。
| 正式名称 | Feltri(フェルトリ)。I Feltri とも呼称 |
|---|---|
| デザイナー | ガエターノ・ペッシェ(Gaetano Pesce, 1939-2024, イタリア)。2022年コンパッソ・ドーロ生涯功績賞、2023年アンドレ・プットマン生涯功績賞 |
| デザイン年 | 1986-1987年(1987年ミラノ家具見本市「Unequal Suite」コレクションとして発表) |
| 製造ブランド | Cassina S.p.A.(カッシーナ、1927年創業、イタリア・メーダ) |
| 製造国 | イタリア(カッシーナ特許製造技術) |
| 主要素材 | ウールフェルト(厚手の縮絨ウール)、熱硬化性樹脂(エポキシ系)、麻紐(フレーム結合)、キルティング生地(内装)、ポリエステル充填材 |
| サイズ(ハイバック) | W1400mm × D710mm × H1270mm(SH445mm) |
| サイズ(ローバック) | W1400mm × D700mm × H950mm |
| 重量 | 約20kg |
| カラーバリエーション | フレーム6色×内装キルティング生地の組み合わせにより計10種類のカラーウェイ |
| 構造的特徴 | 内部支持構造なし(フェルト+樹脂のみで自立)。背もたれは折り曲げ可能(翼状に広げる/襟状に包む)。座面内装はキルティングトッパー(スナップボタンで着脱)。フレーム結合は麻紐による |
| 日本参考価格 | 約¥1,000,000〜¥1,500,000(税込目安。仕様・カラーにより変動) |
| パーマネントコレクション | MoMA(ニューヨーク近代美術館、1988年メーカー寄贈。収蔵番号403.1988.1-2)他世界各国主要美術館 |
類似のポストモダン名作チェアとの比較
フェルトリ・チェアは、ポストモダンデザインにおけるイタリアン・ラディカルデザインの到達点であり、同時代の革新的ラウンジチェアと比較される。
| 比較項目 | フェルトリ(Cassina / ペッシェ) | UP5 ドンナ(B&B Italia / ペッシェ) | プルースト(Cappellini / メンディーニ) |
|---|---|---|---|
| デザイナー | ガエターノ・ペッシェ(1987年) | ガエターノ・ペッシェ(1969年) | アレッサンドロ・メンディーニ(1978年) |
| 素材革新 | ウールフェルト+熱硬化性樹脂含浸。家具における前例のないフェルトの構造的使用。カッシーナ特許技術 | 冷間キュアポリウレタンフォーム。真空パック圧縮出荷→開封で自己膨張。素材技術の先駆 | 手彩色バロック様式アームチェア。プルーストの点描画法を家具に転写。絵画と家具の融合 |
| 思想的位置 | 「王座のアイロニカルな解釈」。産業デザインの画一性への挑戦。多様性と個性の称賛。芸術と実用の境界探求 | 「女性の身体」のメタファー。オットマン=足枷としての社会的束縛の表現。政治的デザイン | 再デザイン(Redesign)理論。過去の様式の引用と転覆。ポストモダニズムの宣言 |
| 空間効果 | W1400mmの劇的な存在感。テキスタイルの温かみと彫刻的造形。背もたれの可変性で表情が変化。アート作品としてのインスタレーション効果 | 有機的フォルムの彫刻的存在感。モノクロまたはカラフルな塊が空間の主役に | 絢爛たる色彩の点描による圧倒的視覚的インパクト。空間を劇場化する存在 |
| 日本参考価格 | 約¥1,000,000〜¥1,500,000(税込目安) | 約¥600,000〜¥900,000(税込目安) | 約¥2,000,000〜(税込目安) |
| こういう方に | テキスタイルの温かみと前衛的造形を両立させたい方。一脚ごとの個性=「量産の中の多様性」に共感する方。アート×家具のハイブリッドを求める方 | ペッシェの初期代表作を所有したい方。有機的フォルムの彫刻的存在感を求める方 | 絢爛な色彩と歴史的引用の融合を求める方。ポストモダニズムの象徴を所有したい方 |
フェルトリ・チェアの独自性は、「素材そのものが構造である」という根源的な革新にある。内部支持構造を持たず、フェルトと樹脂のみで自立する構造は、家具デザイン史における前例のない試みであった。さらに、製造過程でランダムな折り目が生じるため同一仕様でも一脚ごとに微妙に異なるという特性は、ペッシェが追求した「量産の中の多様性」——産業製品でありながら一点物のような個性を持つ——という思想を完璧に体現している。
使用感と暮らしへの取り入れ方
座り心地と身体の体験
フェルトリ・チェアに身を委ねると、ウールフェルトの温かみある素材感が身体全体を包み込む。下部の樹脂含浸された硬質な座面が安定した支持を提供し、上部の柔軟なフェルトが背中と肩を穏やかに受け止める。SH445mm(ハイバック)の座面高は標準的で、着座と立ち上がりに無理がない。キルティングトッパー(ポリエステル充填)がクッション性を加え、長時間の着座にも適する。背もたれを翼のように広げれば開放的な「王座」に、内側に折り込めば身体を包む「繭」のような親密な空間に変わる。この可変性がフェルトリ最大の体験的魅力であり、使用者自身が椅子の「表情」を創造する参加型のデザインである。
空間における存在感
W1400mmというスケールは、空間の中で圧倒的な存在感を放つ。フェルトリ・チェアは「座る家具」であると同時に「空間を定義する彫刻」である。リビングのフォーカルポイントとして、あるいはギャラリー的空間のインスタレーションとして、置かれた場所の意味を変容させる力を持つ。フェルト素材の温かみある質感は、工業的な素材では得られない有機的な親密さを空間に与え、鮮やかなカラーバリエーション(赤、青、グレー、グリーン等)が空間にドラマティックなアクセントを加える。
設置環境と配慮事項
W1400×D710mmの大きなフットプリントを要するため、十分なスペースの確保が不可欠である。背もたれの可変性を活かすためには、壁から離して配置し、周囲に余裕を持たせることが望ましい。約20kgの重量は移動には適度だが、頻繁な移動は推奨されない。ウールフェルト素材のため直射日光による退色、湿度の高い環境でのカビ発生に注意が必要。ペットの爪によるフェルト表面の引っかき傷にも留意。空間の温度・湿度が安定した室内環境での使用が最適である。
経年変化とメンテナンス
フェルトの経年変化
ウールフェルトは使用とともに表面が馴染み、体圧がかかる部分にわずかな圧縮痕が生じる。これは素材の特性であり、使用者の身体の記憶が刻まれる過程とも捉えられる。樹脂含浸部(下部)は長期にわたり剛性を維持する。キルティングトッパーは使用による適度な馴染みが生じるが、スナップボタンで着脱可能なためクリーニングや交換に対応できる。麻紐の結合部は適宜締め直しが可能。1990年代初期の個体がヴィンテージ市場で高い評価を維持していることは、素材の耐久性を証明している。
メンテナンス方法
- ウールフェルト外装
- 定期的に柔らかいブラシまたは掃除機(弱設定)で表面の埃を除去。液体をこぼした場合は速やかにタオルで吸い取り、擦らない。専門的なクリーニングが必要な場合はウール専門業者に依頼。直射日光による退色を避ける。高湿度環境を避け、通気性の良い場所に設置。
- キルティングトッパー(内装)
- スナップボタンで着脱可能。定期的に取り外して陰干し。ファブリックの種類に応じたクリーニング(ドライクリーニング推奨)。汚れは速やかに処理。
- 樹脂含浸部(下部構造)
- 基本的にメンテナンスフリー。汚れは薄めた中性洗剤で軽く拭き取り。硬い物との接触による表面の欠けに注意。
- 麻紐
- 経年で緩む場合あり。適宜締め直し。交換が必要な場合はカッシーナのアフターサービスに依頼。
どこで買うか:正規販売店と購入方法
日本国内正規販売
日本ではカッシーナ・イクスシー(Cassina ixc.、カッシーナ日本総代理店)が正規販売を担う。カッシーナ・イクスシー青山本店をはじめ、全国のカッシーナ・イクスシーショールームで実物確認・購入が可能。カッシーナ・イクスシー オンラインストア(cassina-ixc.jp)でも取り扱い。IL DESIGN(イル デザイン、東京デザインセンター)は現地正規代理店からの直輸入による購入も可能。約¥1,000,000〜¥1,500,000(税込目安。フレームカラー・内装生地・ハイバック/ローバックの選択により変動)。受注生産のため納期は要確認(通常数ヵ月)。
海外正規販売
カッシーナ公式サイト(cassina.com)が全仕様を提供。主要正規ディーラーとして、Luminaire(アメリカ)、Design Italy(イタリア直販)、Deplain.com等で取り扱い。ハイバックとローバックの2タイプ、フレーム6色、内装生地との組み合わせで計10カラーウェイから選択可能。
ヴィンテージ・中古市場
フェルトリ・チェアはヴィンテージ市場で安定した評価を持つコレクターズアイテムである。1stDibsでの平均取引価格は約$3,800-$4,400、価格帯は$2,540-$12,146。Pamonoでも$4,500-$7,400程度で取引。初期生産品(1987-90年代)は希少価値が高い。2018年にはラフ・シモンズ(当時カルバン・クラインCCO)がデザインマイアミ/バーゼルで100脚限定のスペシャルエディション(19世紀-20世紀アメリカンヴィンテージキルト装飾)を発表し、コレクター市場で高い評価を得た。日本国内ではTOKYO RECYCLE等の中古デザイナーズ家具店、ヤフオク等で取り扱い実績あり。
購入時チェックリスト
- 正規品であることの確認(カッシーナ社製造。カッシーナ・イクスシーまたは正規ディーラーでの購入がアフターサービスの条件)
- タイプの選択(ハイバック:H1270mm、劇的な王座感・包容力 / ローバック:H950mm、よりコンパクト、モダンな印象)
- カラーの選択(フレーム6色×内装生地の組み合わせ計10カラーウェイ。空間のカラースキームとの調和を検討。ショールームでの実物色確認を推奨)
- スペースの確認(W1400×D710mm+背もたれ可変域。大型チェアのため十分な設置スペースと搬入経路の確認が不可欠)
- 環境条件の確認(ウールフェルト素材のため直射日光・高湿度を避ける。通気性の良い安定した室内環境が最適)
- ヴィンテージ購入時の状態確認(フェルト表面の毛羽立ち・退色・圧縮痕、樹脂含浸部の亀裂、麻紐の状態、キルティングトッパーの状態を精査)
コーディネート事例
イタリアン・ラディカルの応接空間
フェルトリ・チェア(ハイバック、赤フレーム)を空間の主役として配し、対面にペッシェのUP5 ドンナ(B&B Italia)を置く、イタリアン・ラディカルデザインの対話的空間である。サイドテーブルにはエットーレ・ソットサスのカールトン・ブックケース(Memphis)の小型版をアクセントとして添え、照明にはインゴ・マウラーのルツェリーノを吊るす。床はコンクリートまたは濃色タイル、壁は白。前衛的デザインの系譜を空間で体験する、ギャラリー的なリビングが完成する。
コンテンポラリー・ミニマルとの対比
フェルトリ・チェア(ローバック、グレーフレーム)を白壁のミニマル空間に単体で配置するスタイルである。周囲の家具を極力排し、フェルトリの彫刻的フォルムを空間のインスタレーションとして際立たせる。床にはB&B Italiaのフランク・テーブル(アントニオ・チッテリオ)を低く置き、照明はフロス Taccia(カスティリオーニ兄弟)を合わせる。グレーのフェルト×白壁×コンクリート床の抑制された色調の中で、フェルトリのテクスチャーと造形が静かに存在感を主張する。
ペッシェの世界観を纏うアトリエ
フェルトリ・チェア(ハイバック、鮮やかなカラー)を書斎・アトリエの思索の椅子として配するスタイルである。ペッシェのFish DesignシリーズのレジンベースやPompitu II花瓶をアクセントとして散りばめ、壁面にはペッシェのドローイングやポスターを飾る。本棚には建築・デザイン書を並べ、デスクにはカッシーナのLC6テーブル(ル・コルビュジエ)を合わせる。イタリアン・ラディカルの精神を日常に取り込む、創造性を刺激するアトリエ空間が完成する。
よくある質問
- 正規品の価格はどのくらいですか?
- カッシーナ正規品は日本で約¥1,000,000〜¥1,500,000(税込目安)です。ハイバック/ローバック、フレームカラー(6色)、内装生地の組み合わせ(計10カラーウェイ)により変動します。受注生産のため納期は数ヵ月要します。ヴィンテージ市場では1stDibsで平均$3,800-$4,400、$2,540-$12,146の価格帯で取引されています。
- どこで購入・実物確認できますか?
- 日本ではカッシーナ・イクスシー(Cassina ixc.、日本総代理店)の青山本店をはじめ全国ショールームで実物確認・購入が可能です。IL DESIGN(東京デザインセンター)でも現地代理店経由の取り扱いがあります。海外ではカッシーナ公式サイト、Luminaire(アメリカ)、Design Italy等。ヴィンテージは1stDibs、Pamono等。
- ハイバックとローバックの違いは?
- ハイバック(H1270mm)は背もたれが高く、翼のように広げたり襟のように包んだりする可変性が最大限に発揮され、「王座」としての劇的な存在感を持ちます。ローバック(H950mm)はよりコンパクトで、現代的なリビング空間に取り入れやすいプロポーションです。フェルトリの象徴的体験を最も味わえるのはハイバックですが、空間の制約がある場合はローバックも十分な存在感を持ちます。
- フェルト素材は耐久性がありますか?
- 下部に含浸された熱硬化性樹脂が構造的な剛性と耐久性を確保しています。1990年代初期の個体がヴィンテージ市場で高い評価を維持していることが、素材の耐久性を証明しています。上部の柔軟なフェルトは使用による多少の毛羽立ちや圧縮痕が生じますが、これは素材の自然な変化です。直射日光による退色と高湿度環境でのカビ発生に注意が必要です。
- 背もたれの可変性はどのように使いますか?
- 上部の柔軟なフェルトは手で自由に折り曲げられます。背もたれを外側に広げれば「翼を広げた王座」として開放的な印象に、内側に折り込めば身体を包む「繭」のような親密な空間を作れます。この可変性がフェルトリ最大の魅力であり、使用者自身が椅子の表情を創造する参加型のデザインです。
- メンテナンスは大変ですか?
- フェルト外装=柔らかいブラシまたは掃除機(弱)で定期的に埃除去。液体こぼしは速やかに吸い取り。専門クリーニングはウール専門業者へ。キルティングトッパー=スナップボタンで着脱可能、ドライクリーニング推奨。樹脂含浸部=基本メンテナンスフリー。直射日光と高湿度を避ける環境管理が最も重要です。
- ラフ・シモンズのスペシャルエディションとは?
- 2018年、当時カルバン・クラインCCOであったラフ・シモンズがデザインマイアミ/バーゼルで発表した100脚限定エディションです。19世紀-20世紀のアメリカンヴィンテージキルトで内装を装飾し、ペッシェの多様性への賛歌とアメリカ文化の解釈を融合させた作品として高い評価を得ました。現在はコレクターズアイテムとして希少価値が高くなっています。
- 他に検討すべき名作チェアは?
- UP5 ドンナ(B&B Italia / ペッシェ、同デザイナーの初期代表作)、プルースト(Cappellini / メンディーニ、ポストモダンの象徴)、Sit Down(Cassina / ペッシェ、同デザイナーによるポリウレタン実験1975年)、プラクソン・チェア(Cassina / マルク・ニューソン、コンテンポラリーな有機的フォルム)が比較対象です。各製品の詳細は当サイトのチェアカテゴリページをご覧ください。