概要
アントロプスは、マルコ・ザヌーソが1949年にアルフレックスのために設計したアームチェアである。構造体を発泡ゴムで覆い、全体を布で包む構成をとる。アルフレックスが世に出した最初の製品にあたり、新しい素材から形を決めるという創業時の方針が最初に形になったものでもある。
特徴・コンセプト
全面張りという構成
構造体が外に出ない。座面と背もたれは奥行を大きくとって一続きの面をつくり、その左右を細く連続した輪郭の側面パネルが受け止める。この側面パネルは肘掛けを兼ね、そのまま下へ伸びて前後に開いた脚になる。椅子の輪郭を決めているのは、張り地に覆われた面そのものである。
この構成が可能だったのは、詰め物が発泡ゴムだったためである。ばねと詰め物を木枠で囲う従来のつくりでは、外に出る枠の太さが輪郭を決めていた。発泡ゴムは切り出しと成形で任意の断面をつくれるため、構造体を細くしたうえで外形を自由に決められる。
長く座るための寸法
奥行は102cmあり、幅77cmに対して大きく取られている。座面高は41cmと低く、背もたれの傾きも大きい。食卓に添える椅子ではなく、長く座るための椅子として寸法が決められている。
素材と現行仕様
発表当時の詰め物は、ピレリが工業用途で扱っていた発泡ゴム(ゴンマピウマ)である。現行の生産では、CFCを含まない異密度の成形ポリウレタンフォームに置き換えられている。内部構造は弾性ベルトを張ったスチールロッドのフレームで、接地部には黒い樹脂の脚が付く。カバーは取り外しできない。
エピソード
1948年、ミラノのピッコロ・テアトロでソーントン・ワイルダーの戯曲『危機一髪(The Skin of Our Teeth)』が上演された。イタリア語題は『アントロプス一家(La Famiglia Antropus)』で、この上演の舞台美術を担当したのがザヌーソである。劇中で使う家具として、彼は当時実験を重ねていた発泡ゴムで全体を覆うアームチェアを設計した。椅子の名は、この戯曲のイタリア語題から取られている。
アルフレックスは1947年、ピレリの技術者らがゴム加工の技術を家具に応用するために設立した会社である。素材の目処は立っていたが、それを家具の形へ翻訳する設計者がいなかった。1948年に招かれたのが、当時まだ若手だったザヌーソである。社内の技術者が素材と構造を担い、外部の建築家が形と用途を担うという分担は、この時に始まった。
評価と影響
アントロプスで得た知見は、2年後のレディチェアに引き継がれた。レディは弾性ベルトの上に発泡ゴムを載せる座面構造をより明確に打ち出し、1951年の第9回ミラノ・トリエンナーレで金賞を受けている。同じ時期のアルフレックスでは、フィオレンツァが木の構造を見せる方向をとっており、対照的な二つの解が並んでいた。
アントロプス自体は2015年からカッシーナのコレクションに加えられ、生産が続いている。
マルコ・ザヌーソの設計思想や経歴について詳しくはマルコ・ザヌーソプロフィールページをご覧ください。
アルフレックスの歴史や他の製品について詳しくはアルフレックスブランドページをご覧ください。
基本情報
| 名称 | アントロプス / Antropus |
|---|---|
| デザイナー | マルコ・ザヌーソ(Marco Zanuso) |
| ブランド | アルフレックス(オリジナル)/カッシーナ(2015年〜) |
| 発表年 | 1949年 |
| デザインの成立国 | イタリア |
| 分類 | アームチェア |
| サイズ | 幅77cm × 奥行102cm × 高さ86cm、座面高41cm |
| 構造 | スチールロッドのフレーム+弾性ベルト(現行仕様)/全面張り |
| 詰め物 | 発泡ゴム(当時)/CFCを含まない異密度の成形ポリウレタンフォーム(現行) |
| カバー | 取り外し不可 |
| 名称の由来 | 戯曲『危機一髪』のイタリア語題『アントロプス一家』 |
Reference
- Antropus | Cassina
- https://www.cassina.com/ww/en/products/antropus.html