バイオグラフィー

1902年2月11日、コペンハーゲンのユダヤ系中流階級の家庭に生まれる。父ヨハンは安全ピンとスナップファスナーの卸売業者、母パウリーンは銀行の出納係。幼少期から絵を描くことに情熱を注ぎ、当初は画家を志していたが、両親の反対により建築家への道を選ぶ。石工の見習いとして修業した後、1924年にデンマーク王立芸術アカデミー建築科に入学。

学生時代の1925年、パリ万国博覧会で椅子のデザインにより銀メダルを受賞。この旅行でル・コルビュジエの「L'Esprit Nouveau」パビリオンに深い感銘を受ける。1927年卒業後、1929年にフレミング・ラッセンと共同で「未来の家」のコンペで勝利し、わずか27歳で国際的な注目を集める。螺旋形、平屋根、ガラスとコンクリート造、さらにヘリコプター発着場まで備えたこの革新的な設計は、超モダン建築家としての彼の地位を確立した。

1943年、ユダヤ系であったヤコブセンはナチスの迫害を逃れてスウェーデンに亡命。約2年間の滞在中、第二夫人ヨンナ（テキスタイル専門家）と協力してファブリックと壁紙のデザインに従事。1945年の帰国後、建築キャリアを再開し、1951年には自身も居住したセホルム連棟住宅に移り住む。1971年3月24日、デンマーク国立銀行第1期工事完了直後、心臓発作により急逝。享年69歳。

デザインの思想とアプローチ

ヤコブセンのデザイン哲学の核心は、「形態は機能に従う」という機能主義の原則にあった。彼自身は「良く見える前に意味を成していなければならない」と述べており、美学よりも機能を優先する姿勢を明確にしていた。しかし、彼の機能主義は単なる実用主義ではなく、国際的なモダニズムの冷たい幾何学性に、温かみのある北欧の人間中心主義を融合させた独自のものだった。

トータルデザインの理念

「ゲザムトクンストヴェルク（総合芸術作品）」の概念は、ヤコブセンの最も重要な貢献である。建築プロジェクトにおいて、建物の外観から内装、家具、照明、テキスタイル、ドアハンドル、カトラリー、さらには従業員の制服やチケットデザインに至るまで、すべての要素を一貫したデザイン哲学のもとで設計した。彼は「ティースプーンから国立銀行まで、創造行為は等しく高揚的」と信じ、あらゆる要素が等しく重要であるという理念を持っていた。

有機的フォルムと幾何学的厳格性の融合

生涯を通じて植物学に情熱を注ぎ、300種類以上の植物を使った絵のような庭園を開発。自然の有機的な形態が多くの家具作品に影響を与えた。エッグチェアとスワンチェアは、身体を包み込むような彫刻的な形態を持ち、開発プロセスでは粘土と石膏を使用し、職人たちに何十回も試作品を送り返して微調整した。

作品の特徴

ヤコブセンの作品は、機能性、美しさ、細部への徹底的な配慮という三つの原則を通じて特徴づけられる。家具デザインにおいては、革新的な製造技術（積層合板の一体成型、硬質発泡スチロール芯材の使用）と有機的なフォルムの融合が際立つ。建築においては、直線的な厳格さと幾何学的純粋性を保ちながら、内部空間では温かみのある素材と家具の曲線美でバランスを取った。

革新的な技術の活用

アントチェアとセブンチェアで確立した9層の積層ベニヤ圧縮成形技術、エッグチェアとスワンチェアで採用した硬質発泡スチロール芯材など、当時の最先端技術を積極的に活用

スタッキング機能の重視

工業生産と実用性を考慮し、多くの椅子にスタッキング機能を持たせ、現代的な使用環境に適応

比例と調和の追求

古代エジプト神殿やルネサンス・バロック建築の比例研究を基盤とし、あらゆるスケールで完璧な比例を追求

ミニマリストな表現

装飾を排除し、本質的な形態と機能に集中。晩年になるにつれて、よりシンプルで純粋な表現へと進化

主な代表作とその特徴

功績・業績

• 1925年 パリ万国博覧会で銀メダル受賞
• 1953年 サンパウロ・ビエンナーレ国際建築展でグランプリ受賞
• 1956年 デンマーク王立芸術アカデミー教授就任（1965年まで）
• 1957年 ミラノ第11回トリエンナーレでグランプリ受賞（グランプリチェア）
• 1961年 オックスフォード大学名誉文学博士号
• 1962年 アメリカ建築家協会（AIA）名誉フェローシップ
• 1963年 英国王立建築家協会（RIBA）ブロンズメダル
• 1967年 IDプライズ（シリンダライン）
• 1971年 フランス建築アカデミー金メダル

評価・後世に与えた影響

ヤコブセンは、カーレ・クリント、ハンス・J・ウェグナーとともに、「Danish Modern（デンマークモダン）」の確立に中心的な役割を果たした。国際様式の厳格さにスカンディナビアの温かみと人間性を加え、北欧デザインの独自性を確立。「デンマークのル・コルビュジエ」とも称され、機能主義建築とプロダクトデザインの両分野で革新をもたらした。

セブンチェアは家具史上最も売れた椅子の一つであり続け、エッグチェア、スワンチェアは現在も世界中のファッション誌の表紙を飾るデザインアイコンとなっている。世界中のデザイン博物館（ニューヨークMoMA、デンマーク・デザイン博物館、メルボルンのビクトリア国立美術館など）に所蔵され、研究され続けている。

トータルデザインの概念は今日も生き続け、現代のデザインスタジオ（Norm ArchitectsやSpace Copenhagenなど）が彼のアプローチを継承。持続可能なデザインのモデルとして、21世紀のデザイナーたちに創造の指針を提供し続けている。SASロイヤルホテルの606号室はオリジナルのデザインが保存され、宿泊可能な「生きた博物館」として、彼の理念を次世代に伝えている。

作品一覧