バンカーズ クロックは、デンマークを代表する建築家・デザイナーであるアルネ・ヤコブセンが1971年に手掛けた時計作品である。デンマーク国立銀行(Danmarks Nationalbank)の新本店ビルのために設計されたこの時計は、建築から内装、家具、そして小物に至るまで一貫したデザイン思想で空間を構築するヤコブセンの真骨頂を示す傑作として、今日なお高い評価を受けている。
螺旋状に配置された独創的な時刻表示と、装飾を極限まで削ぎ落としたミニマルな造形は、北欧モダニズムの精神を体現する。現在はローゼンダール社がヤコブセン財団の監修のもと復刻生産を行い、世界中のデザイン愛好家から支持を集めている。
特徴・コンセプト
バンカーズ クロックの最も顕著な特徴は、文字盤に配された12個のブロックによる時刻表示である。各時刻を示すブロックは、1時から12時に向かって段階的に幅が増していく設計が施されており、これが文字盤全体に優美な螺旋の動きを生み出している。この革新的なデザインは、時の流れという抽象的な概念を視覚的に表現することに成功している。
ヤコブセンは本作において、銀行という金融機関に相応しい信頼性と格調を追求しながらも、無機質さを排した人間味のある造形を目指した。グラフィカルでありながら温かみを感じさせる文字盤のデザインは、機能主義の厳格さと有機的な美しさを見事に融合させている。
トータルデザインの思想
バンカーズ クロックは、単独の製品としてではなく、デンマーク国立銀行という建築プロジェクト全体の一部として構想された。ヤコブセンは建築設計のみならず、ドアハンドル、照明器具、テーブルウェアに至るまで、空間を構成するあらゆる要素を自ら手掛けることで知られる。本作もまた、銀行建築の内部空間と完全に調和するよう緻密に計算されたデザインである。
ミニマリズムと視認性の両立
文字盤には数字が一切記されていないにもかかわらず、段階的に変化するブロックの配置により、直感的な時刻の読み取りが可能となっている。これは装飾性と機能性を高次元で両立させたヤコブセンの卓越したデザイン能力を証明するものである。
エピソード
デンマーク国立銀行の建設プロジェクトは、ヤコブセンにとって晩年の代表作となった。1961年に設計を開始し、1971年の竣工まで実に10年の歳月を費やした大規模プロジェクトである。ヤコブセンは1971年3月に逝去しており、バンカーズ クロックを含む銀行の完成を見届けることは叶わなかった。
本作は、遺作となった国立銀行プロジェクトにおいてヤコブセンが最後に手掛けたプロダクトデザインのひとつであり、その意味においても特別な価値を持つ。彼の死後、建築は同僚のハンス・ディセンによって完成へと導かれた。
長らく国立銀行内でのみ使用されていたバンカーズ クロックは、1990年代にローゼンダール社がヤコブセンの時計コレクションの復刻を開始したことで、一般に広く知られるようになった。復刻にあたっては、オリジナルの図面と現存する実物を詳細に検証し、ヤコブセンの意図を忠実に再現することに細心の注意が払われている。
評価
バンカーズ クロックは、20世紀後半を代表する時計デザインのひとつとして国際的に高く評価されている。ヤコブセンが生涯を通じて追求した機能美の集大成として、デザイン史における重要な位置を占める作品である。
同時代に設計されたシティホール クロック、ステーション クロック、ローマン クロックとともに、ヤコブセンの時計作品群は北欧デザインの精髄を伝えるアイコンとして認識されている。なかでもバンカーズ クロックは、その独創的な文字盤デザインにより、もっとも個性的かつ革新的な作品として位置づけられる。
今日においても、その普遍的な美しさは色褪せることなく、住宅、オフィス、公共施設など、あらゆる空間において時を超えた存在感を放ち続けている。
基本情報
| 製品名 | Bankers Clock / バンカーズ クロック |
|---|---|
| デザイナー | Arne Jacobsen(アルネ・ヤコブセン) |
| デザイン年 | 1971年 |
| ブランド | Rosendahl Copenhagen(ローゼンダール コペンハーゲン) |
| 原産国 | デンマーク |
| オリジナル設置場所 | デンマーク国立銀行(Danmarks Nationalbank) |
| カテゴリー | 掛け時計 / テーブルクロック |