エッグチェアは、デンマークを代表する建築家兼デザイナーであるアルネ・ヤコブセンが1958年にデザインした、20世紀のモダンデザインを象徴する傑作ラウンジチェアである。コペンハーゲンに建設されたSASロイヤルホテル(現ラディソンコレクションロイヤルホテル)のロビーとレセプションエリアのために特別に考案されたこの椅子は、その名が示すとおり卵型の有機的なフォルムを特徴とし、発表当時から現代に至るまで、北欧デザインの金字塔として世界中で高く評価され続けている。

ヤコブセンは、SASロイヤルホテルプロジェクトにおいて、建築から家具、照明、カトラリーに至るまでのトータルデザインを手がけた。その中でエッグチェアは、スワンチェアとともに、直線的で精緻なモダニズム建築の内部空間に対比をもたらす彫刻的な存在として構想された。広い公共空間においても、座る者に個人的な安らぎと静寂の空間を提供するという明確な目的を持って設計されたこのチェアは、デザイン史における革新的な技術と美学の融合を体現している。

デザインの背景とコンセプト

1956年から1961年にかけて、アルネ・ヤコブセンはスカンジナビア航空(SAS)の依頼により、コペンハーゲン中央駅近くにSASロイヤルホテルを設計した。このプロジェクトは、ヤコブセンにとって最大級の建築依頼であり、彼のデザイン理論を包括的に実践する重要な機会となった。1960年に開業した同ホテルは、コペンハーゲン初の高層建築として、都市景観に大きな影響を与えた。

ホテルの外観は、ニューヨークのレバーハウスに影響を受けた、ミニマリストで直線的なモダニズム建築の精髄を体現していた。しかし、ヤコブセンはその内部空間において、硬質な建築の対比として、より豊かで多様な形態、質感、洗練されたディテールの環境を創造した。この課題に対し、ヤコブセンは、背もたれ、ヘッドレスト、アームレストが一体となった調和のとれた美しいラウンジチェアを設計することで応えた。

エッグチェアは、ホテルのロビーやレセプションエリアに設置される50脚の椅子として考案された。航空会社のホテルという特性上、このスペースは旅客が搭乗待機のために滞在する半公共的な空間としても機能した。広大で開放的なロビーにおいて、エッグチェアの高い背もたれは、着座者に視覚的なプライバシーと聴覚的な静寂を提供し、公共空間の中に個人的な避難所を創出するという役割を果たした。

特徴とデザインの革新性

彫刻的な有機フォルム

エッグチェアの最も顕著な特徴は、その卵型の有機的な曲線美にある。従来のウィングチェアの概念を再解釈し、直線を完全に排除した流動的なフォルムは、戦後の国際的なデザイン潮流における自由で有機的な造形の探求を反映している。アメリカとヨーロッパの建築家たちが新しい工業技術と素材を用いて有機的な形態を追求していた時代において、ヤコブセンはエッグチェアとスワンチェアによって、この潮流を定義する重要な役割を担った。

ヤコブセンは、完璧なフォルムを追求するため、彫刻家のように自宅のガレージで粘土を用いてプロトタイプを制作した。ワイヤーと石膏を使用した試作を繰り返し、シェルの理想的な曲線を探求するこの手法は、工業製品のデザインプロセスにおける職人的アプローチの重要性を示している。現在も製造に使用されている図面は、この手作りの過程で作成された手書きのものであり、そのため左右が完全に対称ではないという特徴を持つ。この微細な非対称性は、工業製品でありながら人間の手の温もりを感じさせる要素として、デザインに独特の個性を与えている。

革新的な製造技術

エッグチェアは、当時最先端であった新しい製造技術を採用することで実現された。従来の椅子が木製フレームにスチール構造を組み合わせていたのに対し、ヤコブセンは硬質発泡ポリウレタンフォームによる成型シェルという画期的な構造を採用した。これは、世界で初めての硬質発泡材を使用した成型家具であり、家具製造の歴史において重要な技術革新となった。

現代の製造工程では、グラスファイバーで強化されたポリウレタンフォームを用いてシェルを成形し、その上に柔らかいフォームを重ねることで快適性を高めている。シェルはアルミニウム製のスターベースとサテン仕上げのスチール製脚部に取り付けられ、回転機能と調整可能なリクライニング機構を備えている。使用者の体重に応じてリクライニングの固さを調整できる機能は、人間工学的な配慮を示している。

高度な職人技による張り込み

エッグチェアの製造において最も技術的に困難な工程は、複雑な三次元曲面への張地の施工である。フリッツ・ハンセン社では、創業時から継承される伝統的な職人技術を駆使して、各チェアを手作業で仕上げている。ファブリック仕様では500針以上、レザー仕様では1,100針以上のステッチが必要とされ、独特の波状縫製技法によって張地をシェルの曲線に完璧にフィットさせる。

特にレザー仕様の製造には高度な技術が要求される。ヤコブセンは、シェルの前面と背面の接合部、座面内部、前面座部カーブの下以外には縫い目を設けないという厳格な基準を定めた。これを実現するため、前面と背面にそれぞれ一枚の完全な牛革を使用する必要があり、十分な大きさの高品質な革の確保が製造上の課題となった。この高い基準により、エッグチェアのレザー仕様は初期から限定的にしか生産されず、希少性と価値を高めることとなった。

現在でも、エッグチェアの製造は資格を持つ熟練職人によってのみ行われ、その精密な作業工程のため、週に6〜7脚程度しか生産できない。この限られた生産能力は、各チェアが単なる工業製品ではなく、職人による芸術作品としての性格を持つことを意味している。

発表と初期の評価

エッグチェアとスワンチェアは、1958年にパリで開催された「フォルム・スカンディナーヴ展」において初めて公開された。デンマークの新聞ポリティケンは、その発表会を「スポットライト、フラッシュ撮影、VIPゲストを伴った、まるでファッションショーのような盛大なイベント」と報じた。発表当初から、これらの椅子は国際的なスーパースターとして迎えられ、デザイン界に大きな衝撃を与えた。

批評家たちは、当時ヤコブセンの作品として知られていた幾何学的で厳格な形態から大きく離れた、この柔らかく彫刻的なフォルムに驚きを表明した。しかし、ヤコブセンのトータルデザインという理念においては、この曲線的な家具が建築の鋭利な精密性に対する意図的な対比として機能しており、全体として調和のとれたデザイン環境を創出していた。

1960年のSASロイヤルホテル開業時、ロビーに配置された50脚のシーフォームブルーのエッグチェアは、訪れる人々に強烈な印象を与えた。椅子が小さな集団を形成するように配置され、広大な空間の中に親密な対話の場を創出する様は、まるで未来へのタイムカプセルのようであったと評された。この楽観的で前向きなフォルムは、ジェット機による旅行という新しい時代の興奮と冒険を象徴するものとして受け止められた。

デザイン史における位置づけと影響

エッグチェアは、20世紀モダンデザインの金字塔として、発表から60年以上を経た現在も変わらぬ人気と評価を維持している。工業的な製造プロセスによる高品質で機能的な家具という北欧デザインの哲学を体現しながら、同時に合成工業素材とスカンジナビアの伝統的な素材感覚と温もりを融合させた先駆的な作品として、デザイン史に重要な足跡を残した。

エッグチェアは、世界の主要な美術館やデザインミュージアムのコレクションに収蔵されている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)、メトロポリタン美術館、ヴィクトリア&アルバート博物館、パリ装飾美術館など、国際的に著名な文化施設がこの椅子を永久コレクションに加えており、その文化的・芸術的価値が広く認められている。これらの機関における展示は、エッグチェアが単なる家具を超えて、20世紀デザイン史における重要な文化遺産であることを示している。

エッグチェアは、高級ホテル、企業オフィス、空港ラウンジなど、世界中の公共空間において広く採用されている。サンフランシスコ国際空港の改装されたターミナル2のボーディングエリアにも設置されるなど、その普遍的な魅力と機能性は現代においても変わることがない。また、映画『メン・イン・ブラック』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2』などの映像作品にも登場し、ポップカルチャーにおいても象徴的な存在となっている。

デザイン業界において、エッグチェアは最も模倣された椅子のひとつとなった。ヤコブセンは20世紀で最も模倣されたデザイナーの一人として知られ、エッグチェアの独創的な形態は数え切れないほどの派生作品やオマージュを生み出した。この広範な影響は、オリジナルデザインの力強さと時代を超えた魅力を証明するものである。

現代における評価

60年以上の歳月を経ても、エッグチェアは排他性とスタイルの代名詞であり続けている。発表当時と同様に、現在でも世界中のファッション雑誌の表紙を頻繁に飾り、デザイン愛好家やコレクターから高い評価を受けている。フリッツ・ハンセン社は、創業時からの革新的な挑戦精神を維持しながら、最高品質の家具を製造し続けており、エッグチェアはその代表的な製品として位置づけられている。

2008年には、誕生50周年を記念して、世界限定999脚のアニバーサリーモデルが発表された。この特別なエディションは、エッグチェアの歴史的重要性と継続的な文化的影響力を示すものであった。

2018年、SASロイヤルホテル(現ラディソンコレクションロイヤルホテル)は、デザインスタジオSpace Copenhagenによって大規模な改装が施された。改装においては、ホテルの既存の個性と魂を称えながら現代化が図られた。現在、ヤコブセンのオリジナルデザインは、ロビーと606号室(アルネ・ヤコブセン・スイート)に保存されており、訪問者はこの歴史的なデザイン環境を体験することができる。

基本情報

デザイナー アルネ・ヤコブセン(Arne Jacobsen)
デザイン年 1958年
製造元 フリッツ・ハンセン(Fritz Hansen)
分類 ラウンジチェア
主要素材 グラスファイバー強化ポリウレタンフォーム、アルミニウム、スチール、ファブリック/レザー
サイズ(オリジナル仕様) 高さ:約107cm、幅:約86cm、奥行き:約79cm、座面高:約37cm
機能 360度回転、リクライニング調整機能
主要コレクション ニューヨーク近代美術館(MoMA)、メトロポリタン美術館、ヴィクトリア&アルバート博物館、パリ装飾美術館、カークランド美術館、国立北欧博物館