ステーションクロックは、デンマークを代表する建築家・デザイナーであるアルネ・ヤコブセンが1941年に手がけた壁掛け時計である。電気機器メーカーのラウリッツ・クヌーセン社のために設計された本作は、駅舎をはじめとするあらゆる建築空間に調和する汎用性の高いデザインを目指して生み出された。その名が示すとおり、公共空間における時計の理想形を追求した作品である。
文字盤に配されたアラビア数字は、バウハウスの影響を受けながらもヤコブセン独自の美学によって昇華され、視認性と造形美を高次元で両立させている。半世紀以上を経た現在もローゼンダール社によって製造が継続され、北欧モダンデザインの古典として世界中で愛され続けている。
特徴・デザインコンセプト
ステーションクロックの最も顕著な特徴は、その端正なタイポグラフィにある。文字盤を彩るアラビア数字は、ドイツ・バウハウスの機能主義的精神を継承しつつ、北欧特有の温かみと有機的な美しさを兼ね備えている。各数字は均整のとれたプロポーションを持ち、遠方からも明瞭に判読できる実用性を確保しながら、グラフィックデザインとしての完成度も極めて高い。
普遍性の追求
本作は、特定の建築プロジェクトのためではなく、あらゆる空間に適応する汎用的な時計として構想された。駅舎、オフィス、住宅、公共施設など、多様な環境において違和感なく機能することを目指したこのアプローチは、当時としては先駆的なものであった。装飾を排した簡潔なフォルムは、いかなるインテリアスタイルとも調和し、時代を超えた普遍的な美しさを実現している。
構造と素材
黒いアルミニウム製のリングが文字盤を取り囲み、全体に引き締まった印象を与えている。凹面状の文字盤と両凸のミネラルガラスレンズの組み合わせは、光の反射を抑えながら視認性を向上させる効果を持つ。白い文字盤に黒い数字と針という対比は、機能美の極致を示すとともに、空間に静謐な存在感を添える。
グラフィックデザインの先駆
ヤコブセンの業績は建築や家具にとどまらず、タイポグラフィ、パッケージデザイン、パターンデザインなど、グラフィックデザインの領域にも及ぶ。ステーションクロックは、彼のグラフィックデザイナーとしての才能を示す初期の重要作品であり、後年のシティホールクロックやバンカーズクロックへと続く時計デザインの原点として位置づけられる。
エピソード
ステーションクロックの誕生には、電気機器メーカー、ラウリッツ・クヌーセン社との協働が深く関わっている。1939年、同社のマネージャーであったH.J.ハンセン氏は、若き建築家ヤコブセンの才能を見出し、自邸の設計を依頼した。この出会いが契機となり、ヤコブセンは同社のためにテーブルクロックを設計することとなった。
当初設計されたLKテーブルクロックは、バウハウスの影響を色濃く反映したデザインであった。しかし1941年、ヤコブセンはより洗練された新しい文字盤デザインを考案し、これが「ステーション」と名付けられた。この文字盤は、駅舎など公共建築での使用を想定した汎用性の高いデザインとして構想され、その名称の由来となった。
長らく市場から姿を消していた本作は、デンマークのローゼンダール社によって現代に復刻された。同社はヤコブセンのオリジナル図面に基づき、忠実な再現を実現。現在製造されている時計の文字盤には、ヤコブセン自身がデザインしたオリジナルの書体で彼の名が刻まれている。
評価
ステーションクロックは、20世紀デンマークデザインの金字塔として国際的に高い評価を獲得している。バウハウスの機能主義を継承しつつ、北欧的な温かみと洗練を加えたそのデザインは、モダニズムの理念を体現する作品として批評家から称賛されてきた。
デザイン史の文脈において、本作はヤコブセンの多面的な才能を示す重要な証左として位置づけられる。建築家としてのみならず、グラフィックデザイナーとしての卓越した能力を初期の段階で示した作品であり、後の「トータルデザイン」という彼の設計哲学の萌芽を見ることができる。
商業的観点からも、本作は80年以上にわたり市場で支持され続けている稀有な存在である。流行に左右されない普遍的なデザインは、住宅からオフィス、公共施設まで多様な空間に採用され、世代を超えて価値を継承し続けている。
デザイナー
アルネ・ヤコブセン(1902年2月11日 - 1971年3月24日)は、20世紀デンマークを代表する建築家・デザイナーである。コペンハーゲンに生まれ、デンマーク王立芸術アカデミーで建築を学んだ後、1930年に自身の事務所を設立。建築から家具、照明、テキスタイル、さらにはカトラリーや時計に至るまで、あらゆるスケールのデザインを手がけた。
代表作には、セブンチェア、エッグチェア、スワンチェアなどの家具、SASロイヤルホテルやデンマーク国立銀行などの建築がある。空間を構成するすべての要素を統一的にデザインする「トータルデザイン」の思想は、後続のデザイナーに多大な影響を与え、スカンジナビアンモダンの確立に貢献した。
基本情報
| 名称 | Station Clock / ステーションクロック |
|---|---|
| デザイナー | Arne Jacobsen(アルネ・ヤコブセン) |
| デザイン年 | 1941年 |
| メーカー | Rosendahl Copenhagen(ローゼンダール コペンハーゲン) |
| 原産国 | デンマーク |
| 素材 | アルミニウム、ミネラルガラス、ABS樹脂 |
| サイズ展開(壁掛け) | 直径16cm、21cm、29cm |
| カラー | ブラックケース / ホワイト文字盤 |
| ムーブメント | クォーツ式(日本製) |
| デザインの起源 | ラウリッツ・クヌーセン社への汎用時計として設計 |