概要

AJ カトラリーは、アルネ・ヤコブセンが1957年にコペンハーゲンのSASロイヤルホテルのために設計した一組のカトラリーである。素材はステンレススチールで、柄から先端まで継ぎ目のない輪郭で構成される。

当初はA.ミケルセンが製造し、のちにゲオルグ・イェンセンが引き継いだ。発表から現在まで生産が続いている。

特徴・コンセプト

銀ではなくステンレスを選ぶ

素材は18/8ステンレススチールによる。銀は空気中の硫黄と反応して黒く変色するため、定期的な磨きを要する。ステンレスは表面に酸化皮膜を形成し、変色が起きない。

仕上げはつや消しである。光沢面と異なり指紋が目立たない。日に何度も手に取る器物として、手入れの頻度から素材と仕上げが決まっている。

継ぎ目を持たない輪郭

柄と機能部を別の部材として接合すれば継ぎ目が生じ、そこに汚れが溜まる。一続きの輪郭であれば、洗浄で全面に届く。ナイフは柄から刃への移行が輪郭の変化としてのみ現れ、フォークの歯は通常より短い。

形状はステンレスの板を切り、削り、曲げる試作を経て決められた。手に持ったときの重心と厚みは、図面上では判断できない。

建築との使い分け

同じ設計者による建築が直線的な幾何学で構成されたのに対し、カトラリーには曲線が与えられた。手に触れる寸法の器物では、直線の縁が指に当たる。

寸法が変われば、同じ考え方でも採る形が変わる。この使い分けが、部材の境界を面の変化として扱う点ではエッグチェアスワンチェアと共通する。

エピソード

ホテルの調度の一部として

SASロイヤルホテル(現ラディソン・コレクション・ロイヤルホテル)では、家具・照明・繊維製品・食器までを同じ設計者が手がけた。AJ カトラリーもその一部にあたる。

1957年、第11回ミラノ・トリエンナーレで発表された。

ホテルでは置き換えられた

実際に使用された際、フォークの歯が短く小さな食材をつかみにくいという指摘があり、ホテル側は別のカトラリーへ置き換えた。

歯を短くすれば輪郭は簡潔になるが、食材を保持する深さが減る。輪郭の簡潔さと使い勝手が両立しない箇所として現れた例にあたる。

評価と影響

柄と機能部を一続きの輪郭で構成する方向は、同じ設計者によるAJ フロアランプAJ52 ソサエティテーブルにも見られる。いずれも部材の境界を面の変化として扱う。

一般的に、食器に建築的な設計の考え方を持ち込んだ例として扱われている。

受賞・収蔵

以下の収蔵が確認できる。ニューヨーク近代美術館は「Flatware」として登録し、素材はステンレススチール、製造元からの寄贈と記録されている。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館は「AJ」の名称で登録している。

  • ニューヨーク近代美術館 フラットウェア(1957年) 収蔵番号 121.1992.1-5
  • ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館 AJ(1958年) 収蔵番号 CIRC.144 to B-1959

基本情報

デザイナー アルネ・ヤコブセン
ブランド ゲオルグ・イェンセン(初期製造はA.ミケルセン)
発表年 1957年
デザインの成立国 デンマーク
主要素材 18/8ステンレススチール(つや消し)
主な構成 ディナースプーン 約201mm、ディナーフォーク 約199mm、ディナーナイフ 約200mm、ティースプーン 約155mm ほか
食洗機 使用できる