概要

FSラインは、1980年にウィルクハーンが発表したオフィス用の椅子である。名称は設計を担当したクラウス・フランク(Klaus Franck)とヴェルナー・ザウアー(Werner Sauer)の姓の頭文字による。座面と背もたれをひと続きのシェルとし、着座姿勢が変わると機構とシェルの両方がそれに追従する。回転椅子を中心に、会議・来客用の椅子、カンチレバーチェア、カウンタースツールを含む「21プログラム」として構成され、発表から40年を超えた現在も生産が続いている。

特徴・コンセプト

設定操作を減らすという解

1970年代の事務用回転椅子は、座面の傾き、背もたれの角度、反発の強さをレバーやノブで個別に設定する方式が広く採られていた。ウィルクハーンは、調整の手間が使用者側に残るこの方式について、実際には初期設定のまま使われてしまう点を課題として挙げている。FSラインが向かったのは、機能を足す方向ではなく、設定操作そのものを不要にする方向である。フランクとザウアーはこの考えを「免許のいらない着座(Sitzen ohne Führerschein)」と表した。

機構はシンクロ方式で、座面と背もたれの傾きが連動する。背に体重を預けるほど背の反力が比例して増すため、体重の違いは機構の側が吸収し、使う前に強さを合わせておく必要がない。反力は無段階に調整でき、前傾位置はレバーで固定できる。座面・背もたれ・アームレストは三つの回転軸で結ばれており、姿勢が変わればそれぞれが位置を変える。

ひと続きのシェル

ウィルクハーンの事務用椅子は、それ以前は座面と背もたれを別部材とする構成だった。FSラインは同社として初めて、両者をひと続きにした高弾性のシェルを採っている。素材は素通し着色のポリプロピレンで、座面と背もたれをつなぐ中央部だけをたわみやすい断面としてある。機構の可動にシェル自体のしなりが加わることで、姿勢を変えても背が離れず、支持が連続する。背もたれには左右方向のねじれに対する弾性も持たせてあり、上体をひねる動きにも面が追う。

一体成形としたことは、可動部の数を抑えることにもつながっている。座と背の間に関節を設ける構成では、支点の数だけ調整と摩耗の箇所が増える。シェルの弾性で角度変化の一部を受け持たせることで、機構の側は簡素に保たれている。

色は素地に顔料を練り込む方式で、ナチュラルホワイト、プラチナ、アスファルト、ブラックの4色が用意される。表面が傷ついても異なる色の下地が現れないため、長く使ったときの見え方の変化が小さい。

シェルを支える構成

シェルは左右のスイングアームで支えられる。ベースはダイカストによるアルミニウムの5本脚で、クロムめっき、研磨、塗装から仕上げを選べる。キャスターは荷重に応じて制動がかかる双輪式で、カーペット用と硬質床用が分かれる。座面高はDIN 4550に適合するガススプリングで調整する。

背もたれを高くした上位のモデル(220番台)では、シェルに代えて中央部がたわむスチールパイプのフレームに弾性のあるメッシュを張り、その上をポリウレタンフォームで覆う。シェルの弾性に相当するはたらきを、フレームと張り材の側で得る構成である。

張り替えを前提とした固定

座シェルは2本のねじで取り外せる。クッションは一体成形のポリウレタンフォームを張り地で覆った交換部品として扱われ、張り替えたうえで使い続けることが想定されている。フレームと機構がアルミダイカストと鋼で構成されているのも、摩耗した部位だけを交換して本体を使い続けるための選択である。

エピソード

FSラインの直前まで、ウィルクハーンの事務用椅子はヴィルヘルム・リッツが手がけたプログラム232が中心にあった。座面と背もたれを分けたシェルと、外から見える回転関節をもつ椅子である。

フランクとザウアーは、人間工学の調査と試験を重ねたうえで新しい回転椅子の構成をまとめた。ウィルクハーンは、レバーやダイヤルを備えた当時の椅子を「座る機械」と呼び、FSラインをその対極に置く製品として説明している。動きを伴う着座という考え方が広く共有されるより前に、それを製品として組み上げた例にあたる。

1980年の発表後、モデルは事務用の回転椅子から会議用・来客用の椅子、カンチレバーチェア、カウンタースツールへと広がった。メーカーはこれまでに40種のバリエーションを生産してきたとしており、累計の販売は世界で200万脚を超えたとしている。

評価と影響

FSラインは一般的に、姿勢の変化に機構が自動で追従する事務用椅子の初期の実例として参照されている。座面と背もたれが連動して傾くシンクロ機構は、その後の事務用椅子で広く採られる方式になった。

デザイン誌formを刊行する出版社の「Design Klassiker」叢書には、本製品を主題とする一冊がある(エルケ・トラップシュー著、2002年)。

受賞

1986年、FSラインの回転椅子モデル215/81がiFデザイン賞(プロダクトデザイン/オフィス・ステーショナリー)に選ばれている。

基本情報

名称 FSライン / FS-Line
デザイナー クラウス・フランク(Klaus Franck)、ヴェルナー・ザウアー(Werner Sauer)
ブランド ウィルクハーン(Wilkhahn)
発表年 1980年
デザインの成立国 ドイツ
分類 チェア(オフィスチェア)
プログラム名 21プログラム
主要素材 素通し着色ポリプロピレン(シェル)、アルミダイカスト(ベース・スイングアーム)、ポリウレタンフォーム(クッション)
シェルの色 ナチュラルホワイト、プラチナ、アスファルト、ブラック
サイズ モデルにより異なる(211/8:幅63cm × 奥行60cm × 高さ88〜99cm、座面高42〜53cm)
適合規格 DIN EN 1335(B/C)、DIN EN 16139-L1、DIN 68878-1、ANSI/BIFMA X 5.1
受賞 iFデザイン賞(1986年/モデル215/81)
生産 1980年〜(継続中)

Reference

FS | Wilkhahn
https://www.wilkhahn.com/en-us/products/task-chairs-office-chairs/fs/
Wilkhahn FS-Line 21 range Digital brochure(技術仕様・寸法・規格)
https://www.wilkhahn.com/fileadmin/products/fs/docs/Wilkhahn-FS-21-Digital-brochure-ENG.pdf
Unternehmen | Wilkhahn(1980年の項・開発の経緯)
https://www.wilkhahn.com/de/ueber-uns/unternehmen/
FS Management | Wilkhahn(220番台の構成)
https://www.wilkhahn.com/en-us/products/task-chairs-office-chairs/fs-management/
iF Design – FS-Linie: Drehsessel Nr. 215/81(1986年受賞記録)
https://ifdesign.com/en/winner-ranking/project/fs-linie-drehsessel-nr-21581/9154