Wilkhahn(ウィルクハーン)
Wilkhahn(ウィルクハーン)は、1907年の創業以来、一世紀以上にわたってドイツの家具製造の伝統を継承し続ける、世界屈指のオフィス家具メーカーです。バウハウスに起源を発するモダニズムデザインの思想を体現しながら、「人間・自然・技術の調和」という確固たる哲学のもと、機能性とデザイン性を高次元で融合させた製品を世界中に送り出しています。
北ドイツのバッドミュンダーに本拠を構える同社は、「Form First, Function First」をキーワードに、シンプルで純粋なフォルムの美しいデザインと、直感的に操作できる実用性、そして細部まで完成度を高めた本物のクオリティを兼ね備えた家具を創造し続けています。その製品群は、"design made in Germany"の精神を貫き、世界中のオフィス、会議室、そしてプライベート空間において、洗練された知的環境を演出しています。
ブランドの特徴とデザイン哲学
ウィルクハーンの製品開発における最大の特徴は、人間工学と運動学を統合した独創的なアプローチにあります。同社が提唱する「ダイナミック・シッティング(dynamic sitting)」の概念は、座位姿勢における身体の自然な動きを妨げることなく、むしろその動きを促進することで、長時間のデスクワークにおける身体的ストレスを軽減するという革新的な思想に基づいています。
この哲学は、ドイツの名門ウルム造形大学との長年にわたる協働によって磨かれてきました。ウルム造形大学が掲げていた「デザインの最終目的は、製品寿命を伸ばし、資源の浪費を最小限にすることにある」という原則は、ウィルクハーンの製品開発の根幹をなす考え方として、1950年代半ばから今日に至るまで継承されています。
また、環境への配慮もウィルクハーンを特徴づける重要な要素です。1980年代後半には環境保護を企業理念の一つとして掲げ、独自のエコ・コントロールシステムを確立。原材料の調達から製造工程、輸送、そして建築物に至るまで、あらゆる段階において環境負荷を最小限に抑える取り組みを実践してきました。この先進的かつ模範的な活動は国際的に高く評価され、1996年にはドイツ連邦財団から「ドイツ・エコロジー賞」を受賞するという栄誉に輝いています。
ブランドの歴史
1907年、「椅子の村」として知られた北ドイツのアインベックハウゼン(現在のバッドミュンダーの一部)において、二人の若き家具職人、フリードリヒ・ハーネ(Friedrich Hahne)とクリスチャン・ウィルケニング(Christian Wilkening)が椅子工房を創設しました。これがウィルクハーンの始まりです。当初の社名は二人の名前を冠した「Wilkening & Hahne(ウィルケニング・アンド・ハーネ)」で、猫脚に象徴されるロマネスク様式の木製椅子を製造していました。その高度な技術は、二人の名前にちなんだ「WIHA様式」という独自の様式名が生まれるほどの評価を得ていました。
戦後の1952年、第一回ケルン家具フェアへの出展を契機に、ウィルクハーンはモダン家具生産への転換を図ります。ドイツ工作協会(DeWe)からモダンデザイン家具部門の製造会社として認められたことが、この方向転換を決定づけました。1954年には、創業者二人の名前を組み合わせた現在のブランド名「Wilkhahn(ウィルクハーン)」へと変更されます。
1955年、デザイナーのゲオルグ・レオヴァルトが手がけた「Chair 351」がベストセラーとなり、続いてヨーロッパで初めてFRPプラスチックをシェルに用いた「Chair 224」が新たな技術と市場を切り開きました。1962年には、ヴィルヘルム・リッツがウルム造形大学の卒業制作としてデザインした「Chair 402」を発表。世界初のサイドフレーム構造とテニスラケットの成形合板技術を椅子に応用したこの作品は、椅子デザイン史におけるエポックメイキングな製品として記憶されています。
1971年、ウルム造形大学出身のデザイナー、クラウス・フランクがデザイン部門の責任者に就任。1977年から加わったヴェルナー・ザウアーとともに、1980年に現代的エルゴノミック・オフィスチェアの原点となる「FS-Line」を開発します。背もたれと座面が連動して動く世界初のオートシンクロ機構を搭載したこの革新的な製品は、以後の世界標準となり、記録的な売上をもたらしました。
1992年には、環境への配慮を具現化した「Picto」を発表。パーツの95パーセントがリサイクル可能で、接着剤を使用せずに組み立てられた世界初のチェアとして、持続可能なものづくりの新たな指標を示しました。
1999年、デザインに対する永年の貢献に対し、ドイツ・デザイン評議会からフリッツ・ハーネに「デザイン・リーダーシップ連邦賞」が贈られました。これを記念して、ウィルクハーン本社前の道路は「フリッツ・ハーネ通り(Fritz-Hahne-Straße)」と命名されています。
2009年、ドイツ国立ケルン体育大学との協働により5年の歳月をかけて開発された「ON」が発表されます。特許取得済みの「Trimension®(トリメンション)」技術により、座りながら「歩く」ような三次元の動的着座を世界で初めて実現したこの製品は、国際的に高い評価を受け、動的着座の新たな時代を切り開きました。2015年には、ONの革新的な機構を受け継ぎながら、よりカジュアルでスポーティなデザインを追求した「IN」が登場し、さらなる進化を遂げています。
代表的な製品とそのイノベーション
FS-Line(1980年)
現代のオフィスチェアの基礎を築いた歴史的名作です。クラウス・フランクとヴェルナー・ザウアーによって開発されたFS-Lineは、世界で初めて背もたれと座面が連動してリクライニングするオートシンクロ・アジャストメント機構を搭載しました。この機構により、座る人が意識することなく、あらゆる姿勢に対応して自動的に正しい座位を実現します。発表から40年以上を経た現在でも、機能とデザインを完璧に融合させたエルゴノミクスチェアの模範として、世界的に高く評価され続けています。
ON(2009年)
ドイツ国立ケルン体育大学との5年にわたる共同研究の成果として生まれた革新的なワーキングチェアです。特許技術「Trimension®(トリメンション)」により、骨盤の三次元的な動きを可能にし、座りながら「歩く」ような自然な身体の動きを実現しました。二つの独立した可動プレートが膝関節や股関節のように機能し、わずかな体重移動でも動きに変換されます。この画期的な設計は、長時間のデスクワークにおける運動不足という現代的課題に対する明確な解答として、グッドデザイン賞をはじめ数々の国際的なデザイン賞を受賞しています。
IN(2015年)
ONの三次元シンクロ機構(Trimension®)を受け継ぎながら、よりカジュアルでスポーティなデザインを追求したモデルです。発表年には、レッドドット・デザイン賞、ネオコン金賞を受賞し、翌2016年にはiFデザイン賞を獲得するなど、高い評価を獲得しました。ONの革新的な機能性を継承しながら、より幅広い環境に調和するデザインアプローチが特徴です。
Modus
クラウス・フランク、ヴェルナー・ザウアー、そしてwiegeのフリッツ・フレンクラーとユストゥス・コルベルグによって開発されたエグゼクティブチェアシリーズです。FS-Lineの実証された設計思想を21世紀に継承し、革新的な技術とタイムレスな美学を融合させています。Basic、Medium、Executiveという三つのグレードを展開し、それぞれが人間工学的洗練と卓越したデザインの独自の統合を提供しています。
AT
「Free-2-move(フリー・トゥ・ムーブ)」技術を搭載した多目的タスクチェアです。Trimension®により、直感的なマイクロムーブメントと直立姿勢をサポートし、あらゆる方向への動きを可能にします。AT Meshバージョンでは、背もたれフレームの80パーセントをリサイクルPETボトルから製造するなど、環境への配慮も徹底されています。
Picto(1992年)
環境配慮型デザインの先駆けとなった歴史的製品です。パーツの95パーセントがリサイクル可能で、メンテナンスや素材分別を容易にするため接着剤を使用せずに組み立てられた世界初のチェアとして、持続可能なものづくりの新たな基準を打ち立てました。この革新的な取り組みは、ウィルクハーンが1996年にドイツ・エコロジー賞を受賞する大きな要因となりました。
主要デザイナーと協働者
ウィルクハーンの製品開発は、世界トップクラスのデザイナーや研究機関との緊密な協働によって支えられてきました。
- ゲオルグ・レオヴァルト(Georg Leowald)
- 1955年にウィルクハーンのために最初にデザインした「Chair 351」がベストセラーとなり、同社のモダンデザインへの転換を象徴する製品を生み出しました。
- ヴィルヘルム・リッツ(Wilhelm Ritz)
- ウルム造形大学の卒業制作として「Chair 402」をデザイン。世界初のサイドフレーム構造とテニスラケットの成形合板技術を椅子に応用したエポックメイキングな作品を創造しました。
- クラウス・フランク(Klaus Franck)
- 1971年にウルム造形大学からウィルクハーンのデザイン部門責任者として招聘され、ヴェルナー・ザウアーとともに歴史的名作「FS-Line」を開発。現代オフィスチェアの基礎を築きました。
- ヴェルナー・ザウアー(Werner Sauer)
- 1977年からウィルクハーンのデザイナーとして参画し、クラウス・フランクとともに「FS-Line」の開発を主導。その後も「Modus」シリーズなど重要なプロジェクトに携わっています。
- wiege(ヴィーゲ)
- ウィルクハーンのデザイン会社として、「ON」「IN」といった革新的なワーキングチェアのデザインを担当。フリッツ・フレンクラーとユストゥス・コルベルグによって率いられ、人間工学と運動学の融合という同社の哲学を製品に具現化しています。
- トマシュ・ゴンダ(Tomas Gonda)
- ウルム造形大学のヴィジュアル・コミュニケーションコース客員教授で、ルフトハンザ航空のロゴデザインでも知られるデザイナー。1965年、ウィルクハーンのロゴ、コーポレートカラー、フォントなどのガイドラインを作成し、同社の視覚的アイデンティティを確立しました。
また、ドイツ国立ケルン体育大学との協働により開発された「ON」をはじめ、学術研究機関との連携も同社の製品開発における重要な特徴となっています。
受賞歴と評価
ウィルクハーンの製品とその企業活動は、国際的に高い評価を受けています。1996年のドイツ連邦財団による「ドイツ・エコロジー賞」受賞は、環境先進企業としての同社の地位を確立しました。また1999年には、デザインに対する永年の貢献に対し、ドイツ・デザイン評議会から創業者一族のフリッツ・ハーネに「デザイン・リーダーシップ連邦賞」が贈られています。
個別の製品についても、「ON」のグッドデザイン賞、「IN」のレッドドット・デザイン賞、ネオコン金賞、iFデザイン賞など、数々の権威ある国際的デザイン賞を受賞してきました。これらの受賞は、機能性とデザイン性の完璧な融合という同社の理念が世界的に認められていることの証左といえるでしょう。
現代における意義
デジタル化が進む現代の労働環境において、長時間の座位姿勢による健康への影響は深刻な社会的課題となっています。ウィルクハーンが数十年にわたって追求してきた「動的着座」の概念は、この現代的課題に対する先見的な解答として、今日ますます重要性を増しています。
同社の製品は、単なる家具の域を超え、人々の健康と生産性を支える包括的なソリューションとして機能しています。Trimension®技術に代表される革新的な機構は、身体の自然な動きを促進し、筋肉への余分な負荷を軽減することで、長時間のデスクワークにおける身体的ストレスを大幅に低減します。
また、環境への徹底した配慮は、持続可能性が企業の社会的責任として問われる現代において、ウィルクハーンを模範的な企業として位置づけています。製品の長寿命化、リサイクル可能性の追求、環境負荷の最小化といった取り組みは、「良いデザイン」の定義を拡張し、環境と調和した製品開発の可能性を示しています。
一世紀以上にわたる伝統と革新の継続的な追求により、ウィルクハーンは単なる家具メーカーを超えた存在として、人間中心の働く環境の創造に貢献し続けています。
基本情報
| 設立 | 1907年 |
|---|---|
| 創業者 | Friedrich Hahne(フリードリヒ・ハーネ)、Christian Wilkening(クリスチャン・ウィルケニング) |
| 本社所在地 | ドイツ・バッドミュンダー(ハノーバー近郊) |
| 公式サイト(グローバル) | https://www.wilkhahn.com/ |
| 公式サイト(日本) | https://www.wilkhahn.co.jp/ |
| 主要製品 | オフィスチェア、会議用チェア、多目的チェア、シッティング・スタンディングスツール、テーブル類 |