Established & Sons(エスタブリッシュド&サンズ)
Established & Sonsは、2005年にロンドンで始まった家具・照明のブランドである。自社の工場を持たず、外部の設計者に委嘱した設計を協力工場で製品化して販売する。英国の設計と英国の製造を一つの事業に束ねる構想から出発し、後に生産の調達先を欧州各地へ広げた。創業者の相次ぐ離脱と二度の資本移動を経て、現在はオランダ・アーネムに業務拠点を置く。量産を前提とする中核のコレクションと、少量だけ作るSignature/Limitedの二系統を並行して扱う。
事業と製造の実体
同社は製造設備を保有しない。担うのは設計者の選定と委嘱、試作と量産化の設計、生産の手配、販売網の管理であり、加工そのものは品目ごとに外部の専門メーカーが行う。英国法人ESTABLISHED & SONS LIMITEDの登記上の業種はSIC 31090(その他の家具製造)で、製造業者として届け出ながら工程を外部に置く形を取っている。協力工場の社名と所在地は、後述のいくつかの例を除いて公表されていない。
創業時の構想では、製造の基盤は英国内にあるはずだった。出資者のAngad Paulが経営していた鉄鋼・建材のCaparo Groupが国内に多数の工場を持ち、その設備を生産に充てることが前提になっていた。実際にはこの体制は定着せず、2010年代以降は設計者の顔ぶれが大陸欧州へ広がるのと並行して、生産の調達先も国際化した。
委嘱先の加工技術が製品の形を決めた例は、初期から確認できる。Barber Osgerbyが設計しDe La Warr Pavilionの改修に合わせて作られた椅子は、アルミニウムのダイカストとプレス加工にナイロン部品を組み合わせる構成で、鋳造で成立する細い管状の腕と打ち抜きの透かしが外形を規定している。Terence WoodgateとJohn Barnardによる2008年のテーブルでは、一方向に配向したカーボンファイバーをオートクレーブで加圧・加熱して硬化させる工程が採られ、縁の厚み2mmで3mを渡す天板が成立した。同社はこの製品について、航空宇宙とF1の分野で使われる設備と工程を要すると説明している。
照明ではムラーノの吹きガラス工房が中心的な担い手になっている。2018年からのFiligranaの系列は、色ガラスの細い棹を素地に埋め込む16世紀以来の技法を用い、縞を持つ半透明の球体や円筒を口吹きで成形する。Carlo Nasonが1960年代に手がけた設計の復刻も同じ系統にあり、2026年に加えられたMedusaでは多層のオパールガラスを重ねて吹く工程が採られている。
木部の加工では協力先の技術に合わせて品目を広げてきた。2026年のラウンジチェアLAYUPは突板の三次元成形を用い、竹の合板と竹・オーク・ウォールナットの単板を曲げて座と背を一体に構成する。同じ年に発表された床材GridWorkは、英国の木質床メーカーTongue & Grooveと組んで欧州産オークの集成材を150mm角の寄木に加工したもので、最小受注面積を50m²とする受注生産の品目である。家具から照明、床材へと扱う範囲が広がってきた背景には、工場を持たないために新しい品目へ移る際の設備投資を伴わないという事業構造がある。
沿革
設立と始動
法人としての設立は2004年10月8日で、当初の商号はFURNITURECO LIMITEDだった。2005年5月4日にESTABLISHED & SONS LIMITEDへ商号を変更している(英国登記番号05253867)。ブランドとしての始動は2005年のミラノサローネの会期に合わせて行われ、この年を創業年としている。
創業に加わったのは、雑誌Wallpaper*の発行人を務めたAlasdhair Willis、設計者のSebastian WrongとMark Holmes、マーケティングを担当したTamara Caspersz、そしてCaparo Groupを率いたAngad Paulの5人である。Paulは出資者であると同時に製造面の担い手を引き受け、残る4人が設計・編集・広報の側を受け持った。既存の家具メーカーの製品開発の手順を採らず、設計者の提案を起点に品目を決める進め方が始動時から取られている。
限定生産と量産の二系統
始動と同じ2005年から、量産を前提とする中核のコレクションと、番号を付して少量だけ作る系統が並行して展開された。後者は素材と加工技術の限界を試す位置づけで、美術の市場に近い流通の仕方をした。2006年から2010年にかけてはミラノ・ブレラ地区のLa Pelotaで大規模な展示を毎年行い、2011年と2012年にも大がかりな発表が続いた。2008年の金融危機の後は投機的な購入が細り、同社は中核コレクションへ重心を戻している。
創業者の離脱と資本の行き詰まり
創業メンバーの離脱は早い時期に始まった。HolmesとCasperszは2008年に退き、翌2009年にMinimaluxを設立した。Willisは2010年9月に離れている。同じ2008年にMaurizio Mussatiが加わり、2010年に最高経営責任者へ就いている。Wrongは2012年10月末で退任し、創業メンバーで社内に残ったのはPaulだけになった。
経営は長く赤字が続いた。英国に提出された計算書類にもとづくDezeenの報道によれば、完全な数値が公表されている最後の年度である2010年度まで、各年度に損失が計上されていた。2015年度の計算書類では株主資本の欠損が1,500万ポンドを超えており、これは筆頭株主のPaulが年々投じてきた資金にあたるとされる。2015年11月、Paulが45歳で死去した。その数週間前には、彼が率いていたCaparo Groupが法的整理に入っていた。
所有者の交代と方針の転換
2016年、スイスを拠点とする投資家Ramzi Wakimが過半数の株式を取得した。取引を仲介したのはパリの室内装飾商Pierre Freyの経営者Vincent Freyで、取締役にはWakim、Frey、Paulの妻Michelle Paulが並んだ。Mussatiは同じ年に退任している。
2017年3月、Sebastian Wrongがデザインディレクターとして5年ぶりに復帰した。翌2018年にミラノで発表した復帰後最初のコレクションで、同社は製品の作り方を切り替えている。発表と同時に在庫を持ち受注できる状態にすること、価格を抑えること、発表前に試験と検証を済ませることが方針として示され、構想を先に見せて量産化を後年に回す従来のやり方から離れた。
アジア資本の参加
2024年3月、上海に本拠を置く設計商材の流通企業Global Design Distribution(GDD)と、香港に上場する中国のアパレル企業JNBYが共同で過半数の株式を取得した。2025年8月にはCasper VissersがCEO、Desirée de JongがCOOに就任している。VissersはオランダのMoooiを2001年に共同で創業し長く経営にあたった人物で、この交代と前後して同社の業務拠点はオランダ・アーネムに置かれた。英国法人は存続している。2026年にはミラノサローネへブースを構えて復帰している。
デザイナーとの協働
社内に設計部門を置かず、外部の設計者への委嘱で製品を組み立てる方式を創業以来続けている。創業者の一人であるSebastian Wrong自身が設計者でもあり、ディレクターとして委嘱の全体を見ながら自らも設計を手がける点が、外部起用を専らとする他社との違いになっている。
起用の範囲は時期によって動いた。創業から数年は英国の設計者が中心で、Jasper Morrison、Barber OsgerbyのEdward BarberとJay Osgerby、Amanda Levete、Zaha Hadid、Richard Woods、Michael Marriott、Committeeらが名を連ねた。2010年前後からRonan BouroullecとErwan Bouroullec、Konstantin Grcic、Jaime Hayon、Formafantasmaといった大陸欧州の設計者へ広がり、Jo NagasakaやNao Tamuraら日本の設計者、Sabine Marcelis、Philippe Malouin、Pauline Deltourらが加わった。2026年の発表ではLuiza GuidiとNathan Martellが新たに加わっている。公式サイトの設計者一覧には、個人と組を合わせて30件が掲載されている(2026年9月時点)。
契約の形は公表されていないが、製品名には設計者名が併記され、限定生産の系統では設計者に特別な仕様の制作を委ねる形が取られてきた。
主な製品群
始動からの数年は家具が中心だった。Barber OsgerbyがDe La Warr Pavilionの改修に合わせて設計した椅子、Jasper Morrisonの収納Crate、Amanda Leveteの低いテーブルDrift、Zaha HadidのAqua Table、Raw Edgesのスタックが2005年から2008年にかけて発表されている。同じ時期のSurface Tableは、素材と加工技術の限界を試す系統の代表例として現在も扱われている。
2010年代に入ると照明と小物の比重が増した。Bouroullec兄弟との協働は10年を超えて続き、Jo NagasakaのUdukuri、Nao TamuraのTiki、Philippe MalouinのMolloなどが加わる。2018年以降はWrongのFiligrana、Dimitri BählerのCho Light、Sabine MarcelisのAura、Pauline DeltourのBlocと、照明が新作の中心になった。
2020年代の展開は既存設計の作り直しと新しい品目の追加が並んでいる。Jasper MorrisonのCrateはデイベッドと棚へ広がり、Carlo Nasonの1960年代の設計はGelato(2025年)とMedusa(2026年)として作り直された。2026年にはRaw EdgesのStackに横型のSide Stackと棚のPlates、床材のGridWorkが加えられ、Nao TamuraのFEZ、Nathan MartellのLAYUPが発表されている。
現行の品揃えは、量産を前提とする中核のコレクションと、少量生産のSignature/Limitedに分かれる。後者にはAmanda LeveteのDriftとDrift Concrete、Zaha HadidのNektonとAqua Table、Surface Table、Jo NagasakaのUdukuriが属する。
収蔵
ロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館は、Barber Osgerbyが設計しEstablished & Sonsが製造したDe La Warr Pavilion Chairを2点収蔵している(収蔵番号W.30-2008、W.31-2008)。1点は布張りを持つ仕様、もう1点は張り地のない仕様で、同館の記録では材質をアルミニウムとナイロン、技法を鋳造とプレス加工としている。
現在の展開
事業の中心は住宅向けとコントラクトの双方にある。床材GridWorkのように最小受注面積を設けた受注生産の品目は、内装の工事案件を前提とした設計になっている。販売は各国の取扱店を通じて行われ、公式サイトは問い合わせと取扱店の検索を担う構成を取る。
現在の経営陣は、創作・生産・事業運営を欧州・アジア・米国の拠点にまたがる一つの体制として動かす方針を公表している。資本と業務の重心は欧州大陸とアジアへ移った一方、登記上の法人と創業国の表示は英国のままである。
基本情報
| ブランド名 | Established & Sons(エスタブリッシュド&サンズ) |
|---|---|
| 創業 | 2005年(英国) |
| 法人設立 | 2004年10月8日(設立時の商号はFURNITURECO LIMITED、2005年5月4日に現商号へ変更) |
| 創業者 | Alasdhair Willis、Sebastian Wrong、Mark Holmes、Tamara Caspersz、Angad Paul |
| 登記上の所在地 | 英国ロンドン(ESTABLISHED & SONS LIMITED、登記番号05253867) |
| 業務拠点 | オランダ・アーネム |
| 資本関係 | 2024年3月よりGlobal Design DistributionとJNBYが過半数を保有 |
| 事業内容 | 家具・照明・生活雑貨の企画、製品化および販売(製造は外部に委託) |
| 公式サイト | https://establishedandsons.com/ |
Reference
- Established & Sons - About
- https://establishedandsons.com/about
- Established & Sons - Established & Sons' Next Chapter
- https://establishedandsons.com/journal/established-sons-next-chapter
- Established & Sons - Extremely Collectible
- https://establishedandsons.com/journal/extremely-collectible
- Companies House - ESTABLISHED & SONS LIMITED (05253867)
- https://find-and-update.company-information.service.gov.uk/company/05253867
- Victoria and Albert Museum - De La Warr Pavilion Chair (W.31-2008)
- https://collections.vam.ac.uk/item/O168978/
- Dezeen - Established & Sons under new ownership following death of co-founder Angad Paul
- https://www.dezeen.com/2016/12/12/established-sons-under-new-ownership-following-death-co-founder-angad-paul/
- Dezeen - Slow furniture production "not affordable anymore" says Sebastian Wrong
- https://www.dezeen.com/2018/03/28/sebastian-wrong-established-sons-slow-furniture-production-not-affordable/
- Design Week - Established & Sons co-founder Sebastian Wrong resigns
- https://www.designweek.co.uk/issues/may-2012/established-sons-co-founder-sebastian-wrong-resigns/
- GDD - GDD and JNBY Announce Strategic Investment in Established and Sons
- https://round-mandolin-mxen.squarespace.com/events/gdd-jnby-es