概要

スタックは、ロウ・エッジズのシェイ・アルカライが設計し、エスタブリッシュド&サンズが2008年に発表した引き出しの収納である。箪笥にあたる外枠と背板を持たず、色の異なる引き出しを縦に積み上げた形をとる。各段は前後どちらへも引き出せるため、どの面から見ても引き出しの出入りが不揃いに映る。8段と13段の2種があり、発表から生産が続いている。2026年には塗装色が追加され、寸法を縮めたSide Stackが加わった。

特徴・コンセプト

通常の引き出し収納では、箱型の外枠が引き出しを受け止め、背板が奥を塞ぐ。この構成のもとでは引き出せる向きは手前の一方向に限られ、段数と高さも枠の寸法に縛られる。スタックはこの前提を外し、引き出しの側面に取り付けたレールを内部のフレームで受ける構成をとった。外枠と背板がないため、奥行方向の両端が開いたままになり、前後のどちらからでも引き出せる。

段ごとに色を変える配色は、この構造から必要になったものでもある。枠がないぶん外形を決めるのは引き出しそのものであり、どこまで引き出されているかが立面の凹凸としてそのまま現れる。設計者は、引き出しは半端に開いた状態のほうが面白く見えると述べている。色を段ごとに変えると、出入りの差が輪郭だけでなく面の並びとしても読める。

引き出しの本体にはバーチの合板と繊維板を用い、ラッカー塗装で仕上げる。枠を持たない構造では引き出し1つ1つが外装を兼ねるため、面の平滑さと寸法の安定が外観を左右する。塗装の系統は技術資料でNCSとRALの番号により段ごとの色が指定されており、現行はブルー、グリーン、レッド、オリーブ、ブラッシュの5つが並ぶ。このほかに、マホガニー、ウォールナット、パイン、エルム、マグノリアと段ごとに樹種の異なる突板を張る木目の系統と、このブランド向けに特別に染めたアッシュを用いる灰緑の系統がある。

荷重の扱いには制約がある。公式の技術資料は1段あたりの耐荷重を5kgまでとし、引き出しの中で重量を偏らせないこと、片側だけに重い物を置かないことを求めている。左右の釣り合いで自立する構造のため、偏った荷重が転倒につながるためである。同じ資料は、引き出しの面板を交換できるように設計してあるとも記している。外装が引き出しそのものである以上、傷や欠けは外観に直結する。

接地部のキャスターは、ねじで上下させる仕組みになっている。8段でおよそ70kg、13段でおよそ110kgあるため、車輪を下ろして設置位置まで転がし、決まったところで車輪を上げて床に据える。据え付けたあとに動かして使う家具ではなく、重量物を持ち上げずに配置するための機構である。

試作から製品化まで

アルカライが引き出しに取り組んだきっかけは、共同設立者のヤエル・メールの助言だった。椅子の設計がうまくいかなかった彼に、メールは動く家具は引き出しだけだと言って主題を変えることを勧めたという。アルカライは機構と動きに関心を寄せており、この主題が以後の仕事の中心になった。

スタックの原型が公に出たのは2007年のロンドン・デザイン・フェスティバルである。マルティーノ・ガンパーが企画し、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートの出身者を集めてケンジントンの邸宅で開かれた展示Gradualに、無塗装の粗い木地のまま床から天井まで届く高さの一台が置かれた。来場者は引き出しが機能する理由を尋ね、仕掛けを知りたがったとアルカライは述べている。この試作では、左右の側面に沿って2本の金属フレームが隠されていた。

この会場で試作を見たエスタブリッシュド&サンズの創業者アラスデア・ウィリスが製品化を持ちかけた。アルカライは同じ設計を研磨と塗装で仕上げた版も用意しており、およそ半年後の2008年、ミラノサローネで製品として発表された。製品では引き出しを受ける仕組みが中央のフレームへ整理され、ボールベアリングのレールで各段を支える方式になっている。

評価と影響

発表の翌2009年1月、ニューヨーク近代美術館が本作を収蔵した。ミラノでの発表から1年に満たない時期にあたる。収納家具の構造を外枠の側から問い直した例として扱われることがある。

2015年には、材料と質感、色を変えた特注版をまとめたStack-Upが展開された。製造元は2026年に塗装色としてオリーブとブラッシュを加え、あわせて同じ構成で寸法を縮めたSide Stackを発表している。5段でおよそ455mmの高さに収め、素材を木から鉄とアルミニウムに替えて粉体塗装で仕上げたもので、サイドテーブルや手元の収納として位置づけられている。

収蔵

ニューヨーク近代美術館は、2008年のスタックを建築・デザイン部門に2点収蔵している(収蔵番号77.2009.1-2、取得は2009年1月14日、Fund for the Twenty-First Centuryによる取得)。同館の記録では素材を塗装合板と鋼、寸法を180×56.8×62.2cmとしており、13段の仕様にあたる。

基本情報

商品名 スタック / Stack
デザイナー ロウ・エッジズ/シェイ・アルカライ(Raw Edges / Shay Alkalay)
ブランド エスタブリッシュド&サンズ(Established & Sons)
発表年 2008年
デザインの成立国 イギリス
カテゴリ 収納家具 / キャビネット
主要素材 バーチ合板、繊維板、クリアラッカー塗装、鋼、ボールベアリングレール、キャスター
サイズ 8段:W565 × D615 × H1080 mm/13段:W565 × D615 × H1780 mm
重量 8段:約70kg/13段:約110kg
積載 1段あたり5kgまで
バリエーション 8段/13段。塗装はブルー、グリーン、レッド、オリーブ、ブラッシュ。ほかに木目(突板)とセージ

Reference

Established & Sons - Stack
https://establishedandsons.com/products/stack
Established & Sons - STACK Technical Specification
https://storage.googleapis.com/establishedandsons/downloads/STACK-Raw-Edges-Shay-Alkalay-c2008-EstablishedandSons-Technical-Specification.pdf
Established & Sons - STACK Product Manual (2026)
https://storage.googleapis.com/establishedandsons/downloads/WEB-2026-STACK_PRODUCT_MANUAL-1.pdf
Established & Sons - Stacks of Talent
https://establishedandsons.com/journal/stacks-of-talent
Established & Sons - Milan: A retrospective - part one
https://establishedandsons.com/journal/milan-a-retrospective
Established & Sons - Side Stack
https://establishedandsons.com/products/side-stack
The Museum of Modern Art - Shay Alkalay, Stack (77.2009.1-2)
https://www.moma.org/collection/works/126041
Salone del Mobile.Milano - Raw-Edges: Design should be for everyone
https://www.salonemilano.it/en/articles/raw-edges-design-should-be-everyone
Icon - London Design Festival (icon 053, November 2007)
https://www.iconeye.com/back-issues/london-design-festival-icon-053-november-2007
Dezeen - Stack by Shay Alkalay
https://www.dezeen.com/2008/05/01/stack-by-shay-alkalay/