概要

ポリプロピレンチェアは、ロビン・デイが設計し、1963年にヒリーが発売したスタッキングチェアである。当時まだ家具に使われていなかったポリプロピレンを射出成形し、座と背を継ぎ目のない1枚のシェルにまとめた。シェルは金属製の脚部に留める構成で、脚を替えれば食堂から講堂、競技場の観客席まで同じシェルが使える。金型を作り直した1964年のMark IIが標準仕様として定着し、以後は形状を変えずに生産が続いている。現行品はポリサイド(Polyside)の名で販売されている。

特徴・コンセプト

ポリプロピレンという選択

1950年代前半にアメリカでチャールズ&レイ・イームズやエーロ・サーリネンが試みた一体成形の椅子はファイバーグラスを用いており、成形に手間がかかるうえ材料費も高かった。1954年に見いだされたポリプロピレンは軽く、たわみがあり、薬品や水分に侵されにくい。なにより射出成形との相性がよく、一つの金型から週におよそ4,000枚のシェルが取れ、1枚あたりの成形は1分30秒ほどで終わる。金型そのものは当時のヒリーにとって6,000ポンド前後の負担だったが、数が出れば1脚あたりの費用は小さくなる。ヒリーがデイに求めたのは、最小限の材料で快適な座をつくり、成形にかかる時間を短く抑えることだった。

縁を巻き込んで剛性を得る

薄い樹脂の板は、縁に力がかかると容易にたわむ。デイはシェルの周縁を外側へ丸く巻き込み、断面の形によって剛性を確保した。この処理があるため、座から背までを一続きの面として一体成形しても、着座時のねじれに耐える。腰と背中に沿う曲面は、型の形状としてあらかじめ与えられている。

脚部を載せ替える接合

脚部との接合は、シェルの裏側に成形した取り付け座を介して行う。留め具が座面側に出ないため、上から見たときに面の連続が途切れない。脚部にはエナメル塗装、黒いナイロン被覆、クロムめっきを施したスチールパイプなどが用意され、4本脚のほか、回転脚や連結用のビームにも同じシェルが載る。初期の4本脚はP5と呼ばれ、前脚と後脚が交わる位置を左右各1か所の溶接でまとめた細身の形をしている。脚を内側に寄せているため、積み重ねて一斉に片付けられる。

エピソード

材料との出会いと依頼

1950年代の終わり、石油化学企業のシェルがポリプロピレンの生産を始め、用途を広げるために設計競技を催していた。デイはその審査に招かれ、この材料が量産家具に向くと考えた。ポリプロピレン自体は1954年にジュリオ・ナッタが見いだしたもので、当時の家具産業では使われていなかった。同じころヒリーは、一体成形のシェルを持つ椅子を製品化したいとデイに持ちかけている。

600脚のサンプルとMark II

製品化には3年を要した。形を画面上で検証する手段がない時代で、試作は手作業でつくられ、金型を切ってからでなければ強度や座り心地の試験ができない。1963年の発売に際して、ヒリーは600脚を官公庁の購買担当や建築家、デザイナーに送り、使ってみての意見を集めた。その結果、剛性を得るために加えた構造上の変更が座り心地を損ねていることがわかり、幅を広げ、縁の処理を強めた改良版がつくられた。ヒリーは新しい金型への投資を決め、この二代目がMark IIとして1964年から標準になった。以後、形状に変更は加えられていない。

30か国へのライセンス生産

1970年代初頭までに、ヒリーは30か国にライセンシーを持つに至った。英国で製作した金型を、材料や工法を含む指示書とともに送り出す方法をとり、ライセンス生産でも造形と品質を保っている。ここで得た収入は輸入関税や輸送費の負担を吸収し、開発の原資にもなった。

P5フレームの廃止と復刻

1980年代初頭、契約用途で求められる耐久試験の水準が上がり、P5はより頑丈な脚部に置き換えられた。家庭用としては使い続けられる強度があったものの、ヒリーは併売せず取りやめる判断をしている。デイはこの決定を晩年まで惜しんだ。2015年、デイの生誕100年に合わせ、ヒリーはロビン&ルシアン・デイ財団と協働してP5を復刻し、初期生産の色(ライトグレー、チャコール、オレンジ)に合わせた版をジョン・ルイスで発売した。

評価と影響

発売当時、建築誌『The Architects' Journal』は、戦後の英国における量産椅子の設計としてもっとも重要な進展だと評している。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館は、1世紀前のミヒャエル・トーネットによる曲木の椅子に近いほど広く行き渡った製品として説明し、2021年の展示解説では累計1,400万脚以上が販売され、現在も生産が続いているとしている。

1968年のメキシコ市オリンピックでは競技場の座席に使われた。2009年には、ロイヤルメールが発行した「British Design Classics」10種の切手の1つに選ばれている。

同じ成形の考え方に基づく製品も続いた。1967年に肘付きのポリプロピレン・アームチェア、1970年に4-4000イージーチェアが加わり、1970年代初頭には学校向けのSeries Eが発売されている。樹脂のシェルと交換可能な脚部という組み合わせは、用途の異なる場所へ同じ部品で展開できる方法として、以後の低価格スタッキングチェアに受け継がれた。

受賞歴・収蔵

  • 1965年 — Mark IIに対しDesign Centre Award
  • 2017年 — ポリサイドとアームチェアに対しDesign Guild Mark

ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館は、S. Hille & Co.が製造したPolypropylene Chair (Mark II)を3脚収蔵している(収蔵番号CIRC.15-1966、CIRC.15A-1966、CIRC.15B-1966)。

基本情報

名称 ポリプロピレンチェア / Polypropylene Chair(現行品名: ポリサイド/Polyside)
デザイナー ロビン・デイ(Robin Day)
ブランド ヒリー(Hille)
発表年 1963年(1964年よりMark II)
デザインの成立国 イギリス
分類 ダイニングチェア/スタッキングチェア
シェル 射出成形ポリプロピレン
脚部 スチールパイプ(エナメル塗装、ナイロン被覆、クロムめっきなど)
サイズ(現行ポリサイド) 幅530mm×奥行505mm×高さ745mm/座面高440mm

Reference

Hille - Robin Day Polyside and Armchair
https://www.hille.co.uk/robin-day-polyside-and-armchair
Hille - The History of Hille
https://www.hille.co.uk/history
Victoria and Albert Museum - Polypropylene Chair (Mark II) CIRC.15B-1966
https://collections.vam.ac.uk/item/O21635/polypropylene-chair-mark-ii-chair-day-robin/
Victoria and Albert Museum - Polypropylene Chair (Mark II) CIRC.15-1966
https://collections.vam.ac.uk/item/O21633
The Robin and Lucienne Day Foundation - Polypropylene chairs and armchairs
https://www.robinandluciennedayfoundation.org/lives-and-designs/1960s/polypropylene-chairs-and-armchairs-robin-day
Museum of Design in Plastics - 60 years old, the Polyside Chair, Robin Day, 1963
https://www.modip.ac.uk/blog/2023/04/60-years-old-polyside-chair-robin-day-1963
The Furniture Makers' Company - Robin Day Polyside (Design Guild Mark)
https://www.furnituremakers.org.uk/guild-mark-holder/robin-day-polyside/
Dezeen - Robin Day's 1960s stackable Polyside chair relaunches
https://www.dezeen.com/2015/09/20/robin-day-1960s-stackable-polyside-chair-relaunches-john-lewis-hille/
Royal Mail 500 Years - British Design Classics (2009)
http://500years.royalmailgroup.com/gallery/british-design-classics-2009/