概要
ロビン・デイ(1915-2010)は、イギリスの家具デザイナーである。1949年からヒル社の設計を担い、1963年に射出成形のポリプロピレンで椅子の座面を一体成形する方式を実現した。金型の費用は大きいが1脚あたりの単価が下がるため、公共施設や学校で使える価格に収まる。同社と組んで、材料の選定から金型の開発までを一体で進めた点に特徴がある。
バイオグラフィー
1915年5月25日、イギリス・バッキンガムシャー州ハイ・ウィカムに生まれた。同地は家具製造の集積地である。1931年にハイ・ウィカム美術学校に進み、1934年から奨学金を得てロンドンの王立芸術大学(RCA)で学んだ。
1940年、RCAでテキスタイルを学んでいたルシエンヌ・コンラディと出会い、1942年に結婚した。二人はそれぞれ家具とテキスタイルの分野で活動し、正式な共同制作は行っていない。
1948年、建築家クライヴ・ラティマーとの共同で、ニューヨーク近代美術館の「低コスト家具デザイン国際競技」の収納部門に入選する。この受賞が、1951年のロイヤル・フェスティバル・ホールの座席設計の委託につながった。
1949年からS. ヒル社の設計を始め、雇用されずに顧問という立場を保ちながら、約20年にわたり同社の設計の大半を担当した。1963年にポリプロピレンチェアを発表している。
1980年代にヒル社が売却された後は一時距離を置いたが、1990年代から作品への関心が高まった。2010年11月9日、95歳で没している。
デザインの思想と方法
デイが条件として置いたのは、多くの人が買える価格で供給できるかという点である。この条件は、材料と製法の選択を先に決めることを要求する。彼が各時代の新しい材料に取り組み続けたのは、造形上の関心よりも、単価を下げる方法を探すためだった。
製造工程から材料を選ぶ
1963年のポリプロピレンチェアでは、材料そのものが新しかった。1954年に発明され1957年に商業化されたばかりで、家具に使われた例がない。デイとヒル社は石油化学会社と協力して、椅子の大きさの部材を一体で成形できるかを検証した。金型に多額の投資を要するが、量産すれば1脚の単価が大きく下がる——この計算が成立するかどうかが、設計の前提になっている。
座面を一つの部材にする
成形の要点は、座面と背もたれを継ぎ目なく一体でつくることにある。接合部がないため部品点数が減り、組み立ての工程も短くなる。強度は肉厚ではなく、縁の折り返しと面の湾曲で確保する。材料を最小限に抑えながら座り心地を成立させるという課題への解答にあたる。
座面と脚を分離する
成形した座面は、脚部を替えることで用途が変わる。4本脚、スタッキング用、回転式、劇場の連結座席と、同じ座面を複数の製品に展開できる。金型を一つつくれば、脚部の違いで製品群が構成できるという関係が、投資の回収を可能にした。
家具の下を見通す
戦後の住宅は部屋が小さく、重厚な家具は空間を圧迫する。デイは細い鋼の棒で脚を構成し、座面を床から離すことで、家具の下が見通せる状態をつくった。素材の使用量を減らすことと、部屋を広く見せることが同じ処理で両立している。
代表作にみる方法
収納家具(1948年)
クライヴ・ラティマーとの共同で、ニューヨーク近代美術館の低コスト家具の競技に応募した収納の設計である。同じ競技の座席部門にはチャールズ・イームズらが入選している。低価格で量産できることを条件とする競技であり、以後のデイの仕事の方向を決めた。
ヒレスタックチェア(1951年)
ヒル社との協働の最初の量産品である。ブナの成形合板による座面と背もたれを、A字形の無垢材のフレームに載せる。座と背を分離することで、それぞれを小さな部材で成形でき、積み重ねも可能になる。
ロイヤル・フェスティバル・ホールの座席(1951年)
ロンドンのコンサートホールの全座席を設計した仕事である。講堂の座席、演奏者用の椅子、レストランとホワイエの家具と、要求の異なる複数の系列を一つの語彙で構成した。プレス加工した鋼と成形合板を組み合わせ、自動車産業の加工方法を家具に用いている。
675チェア(1952年)
ロイヤル・フェスティバル・ホールの椅子を簡略化した量産品である。肘掛けを省き、部材を減らして軽量化した。1990年代後半に再評価され、2000年に新しい仕様で生産が再開されている。
ポリプロピレンチェア(1963年)
座面と背もたれを一体で射出成形した椅子である。金型への投資は当時で約6,000ポンドに達したが、量産により1脚の単価は大きく下がった。1967年に肘掛け付き、1971年に学校用の5サイズ、1972年に屋外でも使える仕様と展開し、複数の脚部に対応する。世界各地で数千万脚が生産された。
評価と影響
デイは一般に、20世紀イギリスの家具設計において、量産と価格の条件から材料と製法を選ぶ方向を確立した人物と評価されている。造形の新しさではなく、単価を下げる方法の開発が仕事の中心にあった点が挙げられる。
ポリプロピレンによる一体成形の座面は、その後の樹脂椅子の基本的な製法となった。ジャスパー・モリソンのエアチェアや、その後の各社の樹脂椅子は、いずれもこの系譜に位置づけられる。
1990年代後半から作品への関心が戻り、複数の設計が再生産されている。2015年の生誕100年には各地で展示が行われた。2012年に娘のポーラ・デイが設立した財団が、設計の管理にあたっている。
受賞・収蔵
受賞
- 1948年 ニューヨーク近代美術館 低コスト家具デザイン国際競技 収納部門入選(クライヴ・ラティマーと共同)
- 1957年 ロイヤル・デザイナー・フォー・インダストリー(英国王立芸術協会)
- 1983年 大英帝国勲章(OBE)
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館)。
- MoMA ロイヤル・フェスティバル・ホール ラウンジチェア(1951年) 収蔵番号 259.2017
- V&A Qロッドチェア(1960年) 収蔵番号 CIRC.239-1960
- V&A テキスタイル「デルフィック」(1961-65年) 収蔵番号 T.463-2001
- V&A テキスタイル「ディスカス」(1962年) 収蔵番号 T.464-2001
- V&A ポリプロピレンチェア(マークII、1964年) 収蔵番号 CIRC.15A-1966
- V&A パイ モデル1108(1965年) 収蔵番号 CIRC.394-1967
- V&A ポリプロピレン アームチェア(1967年) 収蔵番号 W.12-2012
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド / 場所 |
|---|---|---|---|
| 1948年 | 収納 | 低コスト家具の収納案(クライヴ・ラティマーと共同) | — |
| 1951年 | 椅子 | ヒレスタックチェア | Hille |
| 1951年 | 座席 | ロイヤル・フェスティバル・ホール 座席 | ロンドン、イギリス |
| 1952年 | 椅子 | 675チェア | Hille / Case Furniture |
| 1952年 | 椅子 | リクライニングチェア | Hille |
| 1960年 | 椅子 | Qロッドチェア | Hille |
| 1963年 | 椅子 | ポリプロピレンチェア | Hille |
| 1964年 | ソファ | フォーラム シリーズ | Hille |
| 1967年 | 椅子 | ポリプロピレン アームチェア | Hille |
| 1971年 | 椅子 | Eシリーズ(学校用5サイズ) | Hille |
| 1972年 | 椅子 | ポロチェア(屋内外兼用) | Hille |
| 1981年 | 座席 | バービカン・アーツセンター 座席 | ロンドン、イギリス |
| 2001年 | 椅子 | ワンツリーチェア | — |
プロフィール
| 生没年 | 1915年5月25日〜2010年11月9日 |
|---|---|
| 出身地 | イギリス・ハイ・ウィカム |
| 国籍 | イギリス |
| 活動拠点 | ロンドン |
| 分野 | 家具、公共施設の座席 |
| 主な協働ブランド | Hille、Case Furniture、Twentytwentyone |
Reference
- Robin and Lucienne Day Foundation
- https://www.robinandluciennedayfoundation.org/
- Robin Day | Victoria and Albert Museum
- https://collections.vam.ac.uk/
- Robin Day | Design Museum
- https://designmuseum.org/
- The Museum of Modern Art Collection
- https://www.moma.org/collection/works/2325