Hille(ヒリー)

Hilleは、英国ウェールズ南部のエブー・ヴェイルに工場を置く家具メーカーである。1906年にロンドン東部で18世紀家具の修復と複製を行う工房として始まり、第二次世界大戦後にモダンデザインの量産へ転じた。1949年からRobin Dayを設計者に迎え、成形合板のスタッキングチェア、次いで1963年に射出成形のポリプロピレン椅子を送り出している。学校や公共施設、交通機関に納める座席を主な領域とし、現在はウェールズの自社工場で生産を続けている。

事業と製造の実体

Hilleは製品の設計と製造を自社で行う製造業者である。生産拠点はウェールズ南部エブー・ヴェイルのラサウ工業団地にあり、約41,000平方フィートの建屋に射出成形の設備と金属加工、エポキシ塗装、組立の工程が収まっている。樹脂の成形から金属脚の製作、塗装、組立までを一つの敷地で完結させる構成で、外注に頼るのは材料と一部の部材にとどまる。

成形部門は型締力140トンから980トンまでの射出成形機を備え、ガスアシスト成形と二色成形にも対応する。屋外で使う座席のために熱可塑性樹脂の紫外線安定化を扱ってきた点も、同社が公表する技術の一つである。自社製品の成形だけでなく、包装材、白物家電、建材、電気部品、自動車部品、競技場の座席といった分野の受託成形も引き受けている。

この体制に至るまで、加工技術は段階的に入れ替わってきた。成形合板の椅子を主力としていた1950年代、脚部のスチールパイプや平鋼は外部の業者から購入していた。1957年にサフォーク州ヘイヴァリルへ金属加工の工場を開き、金属部品の製作を自社に取り込む。1960年代にポリプロピレンの射出成形が加わってからは、樹脂のシェルと金属脚を組み合わせる構成が主力製品の形を決めるようになった。

ポリプロピレンは1954年に発明された当初、家具には使われていなかった。Hilleは石油化学のShellと組んで材料の条件を詰め、およそ6,000ポンドを投じて成形型を作っている。最初の型で成形したシェルに不足が見つかった際には型を作り直しており、樹脂成形への投資が以後の製品系列の方向を決めた。

1970年代初頭には、30か国にライセンス生産の許諾先を持つ体制ができあがった。輸入関税と輸送費を避けるために、英国で製作した成形型を許諾先へ送り、材料と製造方法を定めた手順書を添えて品質を揃える方式を採っている。許諾から得た収入は開発費に充てられた。

沿革

複製家具の工房として

1906年、ロシアから移住したSalamon Hille(1870–1940)がロンドン東部で工房を開いた。仕事は18世紀の英国家具の修復と複製で、量より質を優先する方針のもと、家具商Hamptonsなどに納めた。工房はステップニーからベスナルグリーン、オールドストリートへ移り、1914年ごろには彫刻師と指物師を中心に80人ほどを雇う規模になっている。1932年にSalamonが退いて娘のRay Hilleが事業を引き継ぎ、同じ年に有限責任会社へ改組した。

戦災と輸出への転換

1940年にSalamonが死去し、同じ年、ロンドン北部の住居と工場、倉庫が空襲で失われた。木材の配給制限で新規の製造が難しくなるなか、Ray HilleはVictoria and Albert Museumの学芸員の紹介でCity Guildhallsから被災家具の修復を請け負い、古い家具から取った材を使い直して仕事を続けた。1945年にリー・ブリッジ・ロードへ移転する。国内向けの高級家具を作れない制度が戦後も続いたため、同社は米国を中心とする輸出に活路を求め、以後、輸出は事業の柱の一つとなった。

施設向け家具への転換

1949年、Ray Hilleの義理の息子にあたるLeslie JuliusがRobin Dayに接触した。Dayはその年、ニューヨーク近代美術館の低価格家具の国際設計競技で、Clive Latimerとの共同作により収納部門の一位を得ていた。これを機にHilleは、小売店向けの家具から、建築家が仕様を決める施設向けの家具へ軸足を移す。1951年にはRoyal Festival Hallの家具を受注した。

1950年にハイノールトへ移した工場は、翌1951年の金融危機を受けてワトフォードの旧醸造所へ移らざるを得なくなる。1952年にメイフェアへ展示室を設けて建築家や内装設計者を迎える場とし、1953年には英国内5か所とグルノーブルに展示室を持つまでになった。1958年にはGatwick空港の家具を手がけている。1961年、ワトフォードの敷地にErnő Goldfinger設計の事務所棟Hille Houseが完成した。同じ年、Ray Hilleの次女Cherill Scheerが経営に加わっている。

ポリプロピレン椅子と製品系列の拡大

1963年のPolyside発売にあたり、Cherill Scheerは官公庁の調達担当者と建築家、設計者にコウノトリの線画を送り、続いて見本の椅子600脚を届ける売り込みを行った。この椅子は同社の主力となり、1967年に肘付き、1970年に4-4000 Easy Chair、1972年に教育市場向けのSeries Eが加わる。1981年にはVictoria and Albert Museumで同社を扱う展示が開かれ、あわせて記念の書籍が刊行された。

一族の撤退と現在の体制まで

1983年、Hille一族は事業を売却した。買い手は金属家具メーカーのErgonomで、以後しばらくはHille-Ergonomの名で設計と製造が続く。会社はその後も持ち主が何度か変わった。2008年、1970年代から同社の樹脂座席の成形を請け負ってきたBrian Fosterが事業を取得し、Hille Ltdが設立された。この時点で成形部門はエブー・ヴェイルに、金属加工・塗装・組立の部門はイングランド北部のバーンリーに分かれていた。2012年に後者をエブー・ヴェイルへ移し、Fosterは全工程が一つの建屋に入るのは創業以来はじめてだと述べている。

デザイナーとの協働

Hilleは社内に設計部門を持たず、外部の設計者に製品開発を委ねてきた。起点は1949年のRobin Dayの起用である。Dayは社員にならず顧問の立場のまま、20年あまりにわたって同社の製品のほとんどを設計した。担当は家具にとどまらず、便箋や帳票の書体、車両の表示、展示会の構成、販促物、そして1949年に作られた社章にも及んでいる。

1967年には設計を学ぶ学生を対象とする奨学制度を設け、試作と小ロットの生産を引き受ける体制を整えた。Cherill Scheerの回想によれば、1960年代前半に美術学校の卒業展を回って王立芸術学院の学生4人を選んでおり、そのなかにSea Urchin Chairを設計したRoger Deanがいた。同じ流れで加わったFred Scottは、1974年に折りたたみ椅子、1979年に事務椅子Supportoを設計している。

近年の教育向け椅子SEシリーズは、Richard Snell、David Rowe、Birmingham City University、成形業者のBKF Plasticsとの共同開発として公表されている。2012年の業界紙の報道では、この教育用椅子の開発に20万ポンドを投じたとされる。

主な製品群

製品群は、素材と加工法の切り替えに沿って広がってきた。1950年のHillestakは座と背に成形合板を用い、積み重ねられる椅子として講堂や食堂に納められ、海外でもライセンス生産された。1954年のQ Stakでは合板のシェルを一体で成形して部品数を減らしている。1958年のGatwick Chairのように、施設の受注が新しい系列を生むこともあった。

1963年のポリプロピレンチェアは、一つの樹脂シェルを複数の脚部に載せ替えられる構成を採った。1967年の肘付き、1970年の4-4000 Easy Chair、1972年のSeries Eはいずれもこの構成の延長にある。Series Eは学校での使用を前提に、年齢に応じた5種類の座高を揃えた。

1983年の売却後もRobin Dayとの関係は続き、1990年のToro、1991年のWoodroといった連結式のベンチが加わった。いずれもロンドンの鉄道駅の待合空間で使われている。

受賞・収蔵

Victoria and Albert Museumは、同社が製造した家具を複数所蔵している。Robin Day設計の収納家具(1950–51年、収蔵番号CIRC.384 to S-1974)、The Q Rod Chair(Hille of London製造、CIRC.239-1960)、Polypropylene Chair (Mark II)(S. Hille & Co.製造、CIRC.15B-1966)、Fred Scott設計のSupporto(Hille International製造、W.3-1981)がこれにあたる。

2017年には、PolysideとArmchairの製造に対しDesign Guild Markが与えられている。

現在の展開

現在の事業は、学校や大学向けの椅子と机、病院や公共施設の座席、駅や競技場の連結座席が中心で、住宅向けの販売は主力ではない。Robin Dayの設計品は、権利を管理するRobin and Lucienne Day財団の許諾のもとHille Educational Productsが生産している。2015年には同財団と組み、1980年代に契約試験の基準が上がったことで姿を消していたP5脚部を復元し、初期生産の色に合わせてPolysideとArmchairを復刻した。

環境面では、エブー・ヴェイルの敷地内に樹脂の再生設備を置いている。2012年の時点では、耐用年数を終えた競技場の座席を回収して再生する仕組みの検討が進められていると公表していた。

基本情報

ブランド名 Hille(ヒリー)
創業 1906年(ロンドン東部)
創業者 Salamon Hille(1870–1940)
社名の変遷 S. Hille & Co.、Hille of London、Hille Internationalを経て、現在の事業主体はHille Ltd(2008年設立)
本社・工場所在地 英国ウェールズ、エブー・ヴェイル(ラサウ工業団地)
事業内容 教育・公共施設向け家具の設計、製造および販売、熱可塑性樹脂の受託成形
公式サイト https://www.hille.co.uk

Reference

Hille - History of Hille
https://www.hille.co.uk/history
Hille - Robin Day Polyside and Armchair
https://www.hille.co.uk/robin-day-polyside-and-armchair
Hille - Plastic Injection Moulding
https://www.hille.co.uk/trade-moulding
BIFMO - Hille, Salamon & Ray; Hille & Co. Ltd
https://bifmo.furniturehistorysociety.org/entry/hille-salamon-ray-hille-co-ltd-1906-1984
The Robin and Lucienne Day Foundation - Licensees: Hille Ltd
https://www.robinandluciennedayfoundation.org/licensees/hille-ltd
Commercial News Media - New Hille formed in Ebbw Vale (2012年2月13日)
https://www.commercialnewsmedia.com/archives/4185
Victoria and Albert Museum - Polypropylene Chair (Mark II)
https://collections.vam.ac.uk/item/O21635/polypropylene-chair-mark-ii-chair-day-robin/
Victoria and Albert Museum - Supporto Chair by Fred Scott
https://collections.vam.ac.uk/item/O144055/supporto-chair-scott-fred/
Companies House - HILLE LIMITED (06631733)
https://find-and-update.company-information.service.gov.uk/company/06631733