シェルフ112 / Wall Shelf 112
1936年、フィンランドの建築家アルヴァ・アアルトは、住まいの壁面を機能的かつ美的な空間へと変容させる一枚の棚を設計した。シェルフ112(Wall Shelf 112)である。バーチ材の積層合板を曲げて形成された三角形のループがブラケットとなり、堅牢な天板を両端で支えるその構造は、アアルトが生涯にわたって探求した「ラメラ曲げ木」技法を代表する造形である。発表から90年近くを経た現在もなお、フィンランドのアルテック社によって当時の設計に忠実に製造され続けており、北欧モダンデザインの名作として世界中の住空間と公共空間を彩っている。
概要
シェルフ112は、アルヴァ・アアルトが1930年代から40年代にかけてデザインした壁付けコレクション――壁付け棚、壁付けドロワー、コートラック、ミラー――の一つとして誕生した。日常生活の多様なニーズに応える壁付けアイテムという発想は、当時としては先進的であり、発売と同時にアルテックの人気商品となった。現在生産されているのは主に112Bモデルであり、奥行き25cmのコンパクトな棚板と、棚板と同じ奥行きのブラケットの組み合わせが、視覚的にも構造的にも統一感のある佇まいを生み出している。
有機的な曲線を描くブラケットと木の質感により、収納にとどまらず壁面に表情を添える役割も果たす。書籍や花器、ランプなど、飾る対象を選ばない汎用性の高さも特徴である。
特徴・コンセプト
シェルフ112の最も際立った特徴は、天板を支える三角形のラメラループにある。この部材は、数ミリの厚さに裁断したバーチ材の長い板を、木目の方向を揃えて重ね合わせ、加圧しながら曲げる「ラメラ曲げ木」という技法によって成形される。合板でありながら無垢の一本木のような滑らかな表面と、力強い曲線を同時に実現するこの技法は、アアルト自身が1930年代に確立し、以後のフィンランドデザインの礎となったものである。
112Bモデルのラメラループは、成形時に二人の職人の力を必要とするほどの張力を持ち、一本の継ぎ目だけで三角形を完成させる。この三角形のブラケットは、棚板の下に配置すればオーソドックスな壁付け棚として、上に配置すればブックエンド付きの本棚として機能する。一つのプロダクトに二通りの使い方を内包するこの設計思想は、アアルトが一貫して追求した「合理性と柔軟性の両立」を示している。
同様の三角ループ構造は、アアルトによる109ワードローブや115アンブレラスタンドにも採用されており、シェルフ112はアアルトの壁付けファニチャーシリーズにおける中核的存在として位置づけられる。
エピソード
シェルフ112を含む壁付けアイテムシリーズは、アアルトが自身の建築プロジェクトにおける住空間の仕上げとして構想したものである。1935年にアルテックを共同創業した直後の時期にあたり、「家具を販売するだけではなく、展示会や啓蒙活動によってモダニズム文化を促進する」というアルテック設立の理念が色濃く反映されている。
これらの壁付けアイテムは、現在も組み立て式のコンパクトな梱包で提供されている。持ち運びやすく設置しやすいこの形態は、「良いデザインをより多くの人々へ届ける」というアルテックの思想を受け継ぐものである。
ニューヨーク近代美術館(MoMA)のデザインストアでも取り扱われており、アルヴァ・アアルトとアルテックの双方がMoMAの永久コレクションに作品を収蔵されていることからも、シェルフ112が単なる生活用品を超えた文化的意義を持つプロダクトであることがうかがえる。
バリエーション
シェルフ112には、棚板の奥行きが異なる二つのバリエーションが存在する。112Aは奥行き36cmの大型モデル、112Bは奥行き25cmの標準モデルである。現在のアルテック公式ラインナップでは112Bが主力製品として位置づけられ、ナチュラルバーチ(クリアラッカー)、ホワイトラッカー、ブラックラッカーの3色に加え、限定色としてハニーステイン仕上げが展開されている。
評価
シェルフ112は、発表以来「壁面収納の原型」として評価され、建築家やインテリアデザイナーに広く支持されてきた。少ない構成要素で機能と美を両立させた点が評価の中心であり、なかでもラメラループのブラケットは、アルテックを象徴する意匠として知られている。
また、90年近く生産が続いていることは、長く使い続けられる家具としての価値を示しており、近年あらためて評価されている。
基本情報
| 正式名称 | シェルフ112(壁付け棚 112) / Wall Shelf 112 |
|---|---|
| デザイナー | アルヴァ・アアルト / Alvar Aalto(フィンランド、1898–1976) |
| デザイン年 | 1936年 |
| ブランド | アルテック / Artek |
| 製造国 | フィンランド |
| カテゴリ | 収納家具(壁付け棚) |
| 主要素材 | ブラケット:バーチ無垢材ラメラ曲げ木 / 棚板芯材:バーチ無垢材フレーム、バーチ合板、ハニカム構造 / 棚板表面:バーチ材突板 |
| サイズ(112B) | W90 × D27 × H24.5 cm(棚板奥行き:25cm) |
| 耐荷重 | 壁面の素材・固定方法により異なる(取扱説明書に従い施工) |
| カラー | ナチュラルバーチ(クリアラッカー)、ホワイトラッカー、ブラックラッカー ※限定色あり |
| 仕様 | 組み立て式(キャリーアウェイ梱包)、壁面ビス固定 |