Artek(アルテック)

Artek(アルテック)は、1935年にフィンランドの首都ヘルシンキで設立された、北欧モダンデザインを代表する家具ブランドです。20世紀を代表する建築家アルヴァ・アアルトが、妻のアイノ・アアルトとともに、マイレ・グリクセン、ニルス=グスタフ・ハールの4人の若者によって創業されました。

ブランド名は「Art(芸術)」と「Technology(技術)」を掛け合わせた造語であり、芸術は技術を取り入れることで機能的になり、技術は芸術を取り入れることで洗練されたものになるという理念が込められています。この哲学は創業から90年を経た現在も変わることなく、すべての製品に息づいています。

フィンランド産のバーチ材を用いた温かみのある家具デザインは、シンプルでありながら有機的なフォルムを持ち、時代を超えて人々の暮らしに寄り添い続けています。世界的ベストセラーとなった「スツール60」をはじめ、数多くの名作家具が今なお世界中で愛用されています。

ブランドの特徴とコンセプト

芸術と技術の融合

Artekの根幹をなすのは、「Art」と「Technology」の融合というコンセプトです。芸術的な美しさと高度な技術力を統合することで、機能的かつ美しい製品を生み出すという理念は、1920年代に沸き起こった国際的なモダニズム運動の精神を継承したものです。アルヴァ・アアルトは、建築と家具を相互に補完し合うものと考え、自身が設計した建築空間に調和する家具をデザインすることで、この理念を実現しました。

自然素材への深いこだわり

Artekの製品は、フィンランドの豊かな自然が育んだバーチ材を主要な素材として用いています。バーチ材は緻密で光沢のある木肌を持ち、肌触りが良く見た目も上品で、傷や水に強いという特性を備えています。この自然素材ならではの温かみと質感が、Artekの家具に独特の優しさと存在感をもたらしています。時間の経過とともに深みを増す木材の表情は、使い手とともに成長し、愛着を育む家具となります。

有機的で人間中心のデザイン

Artekのデザインは、有機的なフォルムと人体への配慮が特徴です。硬直的な直線ではなく、自然の曲線を思わせる流麗なラインは、使う人の身体に優しく寄り添います。この人間中心のデザイン哲学は、結核療養所であるパイミオのサナトリウムのためにデザインされた家具に顕著に表れています。患者の療養を助けるため、呼吸しやすい角度を考慮したパイミオチェアは、機能性と美しさを両立した名作として知られています。

革新的な曲げ木技法「L-レッグ」

アルヴァ・アアルトが開発した独自の曲げ木技法「L-レッグ(エルレッグ)」は、Artekの技術革新を象徴するものです。木材に切れ込みを入れて曲げるこの技法により、当時主流であったスチールパイプに代わる、自然素材ならではの温かみを持つ家具の大量生産が可能となりました。この技術は安定した品質を保ちながら、スツール60をはじめとする名作家具の量産を実現し、良質なデザインを広く人々に届けることを可能にしました。

ブランドヒストリー

創業の背景(1930年代)

Artekの誕生は、アルヴァ・アアルトが1929年に設計コンペで勝ち取ったパイミオのサナトリウム建設に遡ります。この革新的な建築物には、当時のフィンランドに既存の家具がマッチしないことに気づいたアアルトは、建築空間に調和する家具を自らデザインすることを決意しました。1931年から1932年にかけて開発された最初の家具デザインは世界的な注目を集め、これが後のArtek創業へとつながります。

1935年、アルヴァ・アアルトとアイノ・アアルト夫妻、美術史家のマイレ・グリクセン、実業家のニルス=グスタフ・ハールの4人によって、Artekはヘルシンキで正式に設立されました。創業の目的は単に家具を販売することだけではなく、展示会や啓蒙活動を通じてモダニズム文化を促進することにありました。この先駆的な試みは、現代のライフスタイルショップの原型となりました。

戦後の発展と国際的評価

第二次世界大戦後、Artekの家具は国際的に高い評価を受けるようになります。特に1950年代から1960年代にかけて、北欧デザインが世界的なムーブメントとなる中で、Artekの製品は北欧モダンデザインの象徴として認知されました。アルヴァ・アアルトの有機的なフォルムは後の建築家やデザイナーたちの手本となり、彼がデザインした家具やガラスアイテムは、北欧デザインが世界に広まる上で重要な役割を果たしました。

現代における継承と革新

創業者アルヴァ・アアルトは1976年に逝去しましたが、彼の精神はArtekに確実に受け継がれています。半世紀以上前にデザインされた製品の多くが、今日でも当時と同じ製法で生産され続けています。スツール60は1933年のデザイン以来、800万脚以上が販売され、一度も廃盤になることなく生産が続けられているロングライフデザインの象徴です。

2019年には日本とフィンランドの外交関係樹立100周年を記念して、東京・表参道にアジア初の直営店「Artek Tokyo Store」がオープンしました。日本の伝統技術である藍染を施したスツール60の限定モデルなど、両国の文化を融合した特別なコレクションも発表され、グローバルブランドとしての新たな展開を見せています。

2025年には創業90周年を迎え、Artekは現代のデザイナーとのコラボレーションや、サステナビリティへの取り組みを強化しながら、創業者の理念を未来へとつなぐ活動を続けています。

代表作品と特徴

スツール60(Stool 60)

1933年にアルヴァ・アアルトがデザインしたスツール60は、Artekを象徴するアイコン的存在です。3本の脚と円形の座面というシンプルな構造ながら、L-レッグ技法により実現された美しい曲線と、スタッキング可能な機能性を兼ね備えています。ヴィープリ図書館に初めて設置されて以来、90年以上にわたって世界中で愛され続け、800万脚以上が販売されるという記録的な成功を収めています。

このスツールの魅力は、その「普遍性」にあります。どのような空間にも自然に馴染み、スツールとして、サイドテーブルとして、あるいは花台としてなど、多様な用途で使用できる柔軟性を持ちます。Apple創業者のスティーブ・ジョブズも絶賛したというエピソードは、その完成されたデザインを物語っています。

アームチェア41「パイミオチェア」

1932年、パイミオのサナトリウムのためにデザインされたアームチェア41、通称パイミオチェアは、アルヴァ・アアルトの傑作として知られています。結核患者が呼吸しやすいよう考慮された座面の角度、カンチレバー構造による弾力性、そして流れるような有機的なフォルムは、近代家具デザイン史に革命をもたらしました。

このチェアは、当時主流であったスチールパイプの代わりに、ラメラ曲げ木という技法で成形されたバーチ材の合板を使用しています。自然素材ならではの温かみと、掃除のしやすさという実用性を両立させました。肘掛けを兼ねたフレームは、一つのフレームを半分に分割して両端に設置する独特の構造により、時を経ても形状が崩れにくい設計となっています。

ティートロリー900・901

アルヴァ・アアルトとアイノ・アアルト夫妻が旅の中で出会った、イギリスの紅茶文化と日本の優れた木工技術から着想を得てデザインされたティートロリーは、Artekの国際的な感性を象徴する作品です。1936年から1937年にかけて制作されたこのワゴンは、バーチ材の合板を曲げて作られた2つのループ状のフレームが特徴で、パイミオチェアと同じラメラ曲げ木技法が用いられています。

ティートロリー900は天板がタイル張りで、ティートロリー901はバーチ材の天板を持ちます。朝食やアフタヌーンティー、アペリティフなど、様々な場面で活躍する機能的なデザインは、本国フィンランドでも憧れの品として広く知られています。時を越えて受け継がれるその優美なフォルムは、どのような文化や暮らしにも自然に馴染む普遍性を持っています。

ゴールデンベル ペンダントライト(A330S)

1937年にデザインされたゴールデンベルは、Artekを代表する照明器具です。真鍮製のシェードが生み出す柔らかく温かみのある光は、アアルト夫妻が建築において重視した、自然光と照明の調和という理念を体現しています。ベルのような優美なフォルムは、シンプルでありながら存在感があり、住宅からレストラン、ホテルまで、世界中の様々な空間を照らし続けています。

テーブルコレクション

Artekのテーブルコレクションは、L-レッグ技法を用いた脚部と、様々な形状・サイズの天板を組み合わせることで、多様なニーズに応える製品群となっています。長方形の80Aテーブル、正方形の81Cテーブル、円形の90シリーズなど、用途に応じて選べる豊富なバリエーションは、Artekが追求した「標準化」と「柔軟性」の両立を示しています。シンプルで洗練されたフォルムは、住宅、オフィス、公共空間を問わず、あらゆる場所で活躍します。

主要デザイナー

アルヴァ・アアルト(Alvar Aalto / 1898-1976)

フィンランドのクオルタネに生まれたアルヴァ・アアルトは、「北欧の賢人」と称される20世紀を代表する建築家です。建築評論家ジーグフリート・ギーディオンによってこう例えられたアアルトは、生涯で200を超える建物を設計し、そのすべてが有機的なフォルム、素材、光の組み合わせが絶妙な名作として知られています。

ヘルシンキ工科大学を卒業後、1923年にユヴァスキュラ市で自身の建築事務所を開設。当初は古典主義的なスタイルでしたが、1920年代後半から機能主義的なアプローチへと移行します。ヴィープリ図書館(1927-1935)やパイミオのサナトリウム(1929-1933)といった代表作は、モダニズム建築の傑作として国際的に高く評価されました。

建築家としてだけでなく、プロダクトデザイナーとしても卓越した才能を発揮したアアルトは、建築と家具を相互に補完し合うものと考えました。自身が設計した建築空間に調和する家具をデザインすることで、トータルな空間体験を創出しました。1930年代に日本文化から大きな影響を受け、自然との調和や繊細な美意識を自身のデザインに取り入れました。アアルトが生み出した有機的なフォルムは後の建築家の手本となり、北欧デザインが世界に広まる上で重要な役割を果たしました。

アイノ・アアルト(Aino Aalto / 1894-1949)

アイノ・アアルト(旧姓マルシオ)は、建築家であり、アルヴァ・アアルトの最初の妻として、創造的パートナーシップを築きました。1924年に結婚した二人は、建築と家具デザインの両面で緊密に協働し、Artekの創業メンバーの一人として、ブランドの方向性を形作る重要な役割を果たしました。

アイノ独自のデザインとしては、イッタラ社のガラス製品「ボルゲブリック」(後に彼女の名を冠して「アイノ・アアルト」と改名)が知られています。このシンプルで機能的なグラスは、1932年のミラノ・トリエンナーレで金賞を受賞し、今日でも生産され続けています。アルヴァとともに旅をする中で、イギリスの紅茶文化や日本の木工技術に触れ、それらがティートロリーなどのデザインに反映されました。1949年に54歳で逝去するまで、アイノはArtekの発展に尽力しました。

イルマリ・タピオヴァーラ(Ilmari Tapiovaara / 1914-1999)

イルマリ・タピオヴァーラは、フィンランドを代表する工業デザイナーの一人です。Artekのために1946年にデザインした「ドムスチェア」は、彼の代表作として知られています。このチェアは当初、ヘルシンキ工科大学の学生寮ドムス・アカデミカのためにデザインされました。軽量でスタッキング可能、かつ耐久性に優れたこのチェアは、教育施設や公共空間で広く採用され、機能的でありながら美しいデザインの模範となりました。タピオヴァーラのデザインは、民主的で手の届きやすい良質なデザインという、Artekの理念を体現しています。

Artekが提案するライフスタイル

Artekの家具は、単なる機能的なオブジェクトを超えて、暮らしの質を高める存在です。創業当初から掲げられた「展示会や啓蒙活動によってモダニズム文化を促進する」という理念は、今日においても変わることなく受け継がれています。Artekのショールームや直営店では、家具を販売するだけでなく、それらがどのように生活空間を豊かにするかを体験できる場が提供されています。

Artekの製品は、フィンランドの自然が育んだ素材を用い、職人の手仕事によって丁寧に作られています。大量生産を可能にしながらも品質を損なわない技術革新、時代を超えて使い続けられる普遍的なデザイン、そして使うほどに愛着が深まる自然素材の経年変化。これらすべてが、持続可能なライフスタイルへの提案となっています。

本国フィンランドでは、家庭から公共施設まで、あらゆる場所でArtekの家具を目にすることができます。それは単なる「北欧ブランド」という枠を超えて、フィンランド人の暮らしと文化に深く根ざした存在だからです。日本においても、伝統的な日本家屋から現代的なマンションまで、Artekの家具は不思議なほど自然に溶け込みます。それは、自然との調和や本質への探求という、両国が共有する価値観によるものかもしれません。

基本情報

ブランド名 Artek(アルテック)
設立年 1935年
創業者 アルヴァ・アアルト、アイノ・アアルト、マイレ・グリクセン、ニルス=グスタフ・ハール
本社所在地 フィンランド ヘルシンキ
創業の理念 Art(芸術)とTechnology(技術)の融合。家具販売だけでなく、展示会や啓蒙活動によってモダニズム文化を促進すること
代表的な技術 L-レッグ(エルレッグ)曲げ木技法、ラメラ曲げ木技法
主要素材 フィンランド産バーチ材(白樺)
日本での展開 2019年4月27日、東京・表参道にアジア初の直営店「Artek Tokyo Store」オープン
公式サイト https://www.artek.fi/
日本公式サイト https://www.artek.fi/jp/