ゲリドン ― 構造の誠実さが宿る、ジャン・プルーヴェの木製円形テーブル

ゲリドン(Guéridon)は、フランスの建築家・エンジニア・デザイナーであるジャン・プルーヴェが1949年にパリの大学都市(Cité Internationale Universitaire de Paris)のためにデザインした円形ダイニングテーブルである。20世紀モダンデザインの巨匠として知られるプルーヴェが、金属ではなく木という自然素材を主体に選びながらも、その構造主義的な設計哲学を明快に表現したテーブルとして、今日もなお高く評価されている。

プルーヴェは自らを「コンストラクテュール(constructeur=建設者)」と称し、素材の力学的特性を最大限に活かす設計を一貫して追求した人物である。ゲリドンにおいてもその姿勢は明瞭であり、建築物の柱から着想を得た3本の脚が天板にかかる荷重を合理的に分散させ、機能と構造がそのまま形になっている。2002年よりプルーヴェ家との緊密な協業のもと、スイスの家具メーカーであるヴィトラ(Vitra)がこの名作テーブルの復刻生産を手がけており、オリジナルの設計思想を忠実に継承しながら現代の暮らしに届けられている。

特徴・デザインコンセプト

ゲリドンの最大の特徴は、その明快かつ説得力のある構造原理にある。天板の中心から放射状に広がる3本の無垢材の脚は、上部が幅広く下部に向かって先細りとなる独特のフォルムを持ち、天板の縁から突き出るようにして視覚的にも構造的にもテーブルを支えている。この脚のシルエットは、建築における柱が荷重を受け止め地面へと伝達する原理を家具のスケールに翻案したものであり、プルーヴェの建築的語彙がそのまま表現されている。

脚部と天板の接合には、ディープブラックのパウダーコート仕上げが施されたスチールチューブのクロスバーが用いられている。木材の温もりと金属の精緻さが交わるこのディテールは、プルーヴェが生涯にわたって探究した異素材の組み合わせによる構造的合理性を端的に示すものである。モダンなテーブルが必ずしもスチールとガラスで構成される必要はないこと――ゲリドンは、木という素材によってその命題に明快な答えを示している。

天板は円形で、直径900mmと1050mmの2サイズが展開されている。素材にはナチュラルオーク、ダークステインオーク、アメリカンウォールナットの3種の無垢材が用意されており、いずれもオイル仕上げまたはナチュラルラッカー仕上げが施されている。無垢材ならではの木目の表情や経年変化を愉しむことができる点も、このテーブルの魅力のひとつである。

エピソード

パリの大学都市と食堂のために

ゲリドンは、パリの大学都市の食堂用テーブルとしてデザインされた。学生たちが日々の食事をともにする場に置かれることを想定し、堅牢さと実用性が求められた。プルーヴェは、大勢の人間が日常的に使用しても揺れや歪みが生じにくい安定した構造を実現するため、天板にかかる力を3本の幅広い脚で効率的に分散させる設計を採用した。この合理的な構造原理が、結果としてゲリドン特有の彫刻的な美しさを生み出すこととなった。

戦時下の木材への転換

ゲリドンの原型であるゲリドン・バ(Guéridon Bas)は1940年代前半に遡る。第二次世界大戦下の金属不足により、プルーヴェは従来のスチール中心の家具設計から木材を主体とした設計へと転換を迫られた。この制約が却って新たな創造の契機となり、木の特性を活かした構造表現の探究が始まった。ゲリドンは、その試行錯誤の成果が1949年に結実した作品である。

アトリエ・ジャン・プルーヴェのカタログに

1951年には、アトリエ・ジャン・プルーヴェのカタログにおいて「カフェテリア」の名称で掲載された。当初は円形のほかに四角形の天板や、木材以外の素材による天板のバリエーションも存在していたとされる。プルーヴェ自身がデザイナーであると同時に製造者でもあった時代の作品であり、設計と生産が分かちがたく結びついた彼のものづくりを示すテーブルでもある。

ヴィトラによる復刻

2002年、ヴィトラはプルーヴェ家との協力のもと、プルーヴェの家具作品の復刻プロジェクトを開始した。ゲリドンもその対象に含まれ、オリジナルの設計図と構造原理に忠実でありながら、現代の製造技術と品質管理基準のもとで生産されている。ドイツのヴァイル・アム・ラインにあるヴィトラの工場で製造される現行品は、プルーヴェの設計思想を次世代へと継承する重要な役割を担っている。

評価

ゲリドンは、ジャン・プルーヴェの家具作品群のなかでも、木材による構造表現の到達点として広く認知されている。建築的な構造原理を家具のスケールに凝縮し、装飾を排した明快なフォルムのなかに力学的な美しさを宿らせた本作は、20世紀モダンデザインの重要作品のひとつとして位置づけられている。

プルーヴェのオリジナル作品はオークション市場でも高く評価され、ゲリドンのヴィンテージ品も世界中のコレクターから注目を集めている。ヴィトラによる現行の復刻品は、そのオリジナルの設計を日常の空間で使える形で受け継いでいる。

住空間から商業空間、カフェやレストランに至るまで、多様な環境に自然に溶け込む汎用性の高さも評価されている。プルーヴェのスタンダードチェアやシテ・アームチェアといった名作椅子との組み合わせはもとより、北欧デザインやミッドセンチュリーモダンの家具とも調和する懐の深さを持つテーブルである。

基本情報

製品名 ゲリドン / Guéridon
デザイナー ジャン・プルーヴェ / Jean Prouvé(1901–1984、フランス)
デザイン年 1949年
ブランド ヴィトラ / Vitra
製造国 ドイツ(EU)
分類 ダイニングテーブル / カフェテーブル
サイズ Ø900 × H740 mm / Ø1050 × H740 mm
天板素材 ナチュラルオーク(無垢、オイル仕上げ)、ダークステインオーク(無垢、ナチュラルラッカー仕上げ)、アメリカンウォールナット(無垢、オイル仕上げ)
脚部素材 天板と同色の無垢材(オイル仕上げ)、スチールチューブ・クロスバー(パウダーコート仕上げ、ディープブラック)
参考価格 ¥342,100〜¥399,300(税込、サイズ・素材により異なる)