概要
トリニダードチェアは、デンマークを代表するデザイナー、ナナ・ディッツェルが1993年に発表したチェアである。カリブ海のトリニダード島で見た植民地時代の建築装飾、いわゆるジンジャーブレッド様式の透かし細工に着想を得た椅子で、フレデリシア社が製造する。デンマークのID賞(1995年)を受賞している。
成形合板の背もたれに、透かしの切り込みを入れる。8脚まで積み重ねられる。
デザイン哲学とコンセプト
透かしという方法
着想には、トリニダード島の建築に見られる糸鋸細工の木彫装飾がある。板に切り込みを入れて透かすことで、面が影と光に分かれる。
装飾は通常、面に模様を加えることで生まれる。透かしでは逆に素材を取り除き、残った部分と空隙の関係が模様になる。加える工程がないため、重量も減る。
曲面への切削
湾曲した合板に切り込みを入れるには、刃の角度を面に合わせて動かす必要がある。手作業では曲面上で一定の幅を保ちにくいが、数値制御の切削なら曲面に沿って同じ形の切り込みが得られる。
切り込みには実用上の効果もある。背に空気が通り、多数を並べた空間では音の反射が減る。閉じた面では音が跳ね返るが、開口があれば背後へ抜ける。
デザインの特徴
構造と素材
トリニダードチェアの構造は、スチールパイプフレームとCNCミルで精密に加工された成形合板の組み合わせで構成される。背もたれと座面は、リベットによってフレームに固定され、交換可能なプラスチック製のグライドが装着されている。フレームは、クロームメッキ仕上げまたはパウダーコーティング仕上げが選択可能であり、成形合板部分は、ラッカー仕上げまたはオイル仕上げの各種木材から選択できる。アッシュ材、オーク材、ウォルナット材などが選べる。
アームレスバージョンは8脚までスタッキング可能であり、省スペース性に優れている。また、座面の布張りまたはレザー張りのオプションも用意されており、用途や好みに応じたカスタマイズが可能である。全体の寸法は、幅約48.5センチメートル、奥行約57センチメートル、高さ約85センチメートル、座面高約45.5センチメートルであり、重量は約4キログラムと軽量である。切り込みで素材を抜くぶん、同じ寸法の椅子より軽い。
光と影の表情
背もたれの切り込みは、光を受けると床や壁に影の模様を落とす。閉じた面では単一の影ができるが、開口があれば模様として分かれる。光の角度によって影の形も変わる。
エピソードと影響
成立の経緯
ディッツェルは1989年からフレデリシア社と協働していた。トリニダードチェアはその一連の仕事のなかで発表されている。
設置の条件
音の反射を抑える性質と積み重ねへの対応は、多数を並べる場所での条件にあたる。座面を布またはレザーで張る仕様もある。
評価と影響
面に切り込みを入れて空隙をつくる扱いは、同じディッツェルによるハンギングエッグチェアの編み構造とも通じる。あちらは編み目のあいだが空くのに対し、こちらは連続した面から抜いている。
金属板に穴を開けるナガサキチェアも同じ方向にあたる。素材が木か金属かで、抜いたあとの強度の補い方が変わる。4館の公開データでは、トリニダードチェアの収蔵は確認できていない。
ナナ・ディッツェルの設計思想や経歴について詳しくはナナ・ディッツェルプロフィールページをご覧ください。
フレデリシアの歴史や他の製品について詳しくはフレデリシアブランドページをご覧ください。
基本情報
| デザイナー | ナナ・ディッツェル(Nanna Ditzel) |
|---|---|
| 発表年 | 1993年 |
| メーカー | フレデリシア(Fredericia Furniture) |
| 生産国 | デンマーク |
| 分類 | チェア(スタッキングチェア) |
| 素材 | スチールパイプフレーム、成形合板(CNC加工) |
| 寸法 | W485×D570×H850×SH455mm(概寸) |
| 重量 | 約4kg |
| スタッキング | 8脚まで可能(アームレスバージョン) |
| 受賞歴 | デンマークID賞(1995年) |