ナガサキチェアは、ハンガリー出身のデザイナー、マチュー・マテゴーが1954年のサロン・デ・アルティスト・デコラトゥールで発表した代表作である。アルネ・ヤコブセンのアントチェアと並ぶ、数少ない3本脚の椅子のひとつとして知られている。

マテゴーが独自に開発した穿孔シートメタルの技法「リジチュール」により、金属でありながら軽やかさと透明感をもつ椅子となっている。

リジチュール技法

ナガサキチェアを特徴づけるのが、マテゴーが考案した「リジチュール(rigitulle)」と呼ばれる技法である。金属パイプと穿孔(せんこう)シートメタルを組み合わせたこの手法は、第二次世界大戦中に金属加工工場で働いた経験のなかで着想された。1952年に特許を取得したリジチュールは、布地のように曲げ・折り・成形が可能で、金属でありながら透明感と軽量感、そして古びない現代性を家具に与える。

ナガサキチェアはこのリジチュールを用いた代表作であり、工業素材である金属に繊細な表現をもたらした点で、戦後フランスのデザインに新たな地平を開いた。

デザインの特徴とコンセプト

ナガサキチェアの最も特徴的な要素は、その構造的大胆さにある。3本の脚という非常に珍しい構成を採用し、座面と背もたれには穿孔シートメタルを用いることで、視覚的な軽やかさと構造的な強度を両立させている。座面と脚を繋ぐ小さなあぶみ状の連結部は、機能性と造形美を兼ね備えた独創的なディテールとして評価されている。

座面と背もたれは鞍のようにアーチを描き、全体に軽快な印象を与える。このグラフィカルな構造は、ル・コルビュジエのロンシャン礼拝堂を想起させると評されることもある。金属という工業的素材でありながら、有機的なフォルムと繊細な穿孔パターンにより、温かみと親しみやすさを感じさせる稀有な作品である。

名称の由来

ナガサキという名称の由来について明確な記録は残されていないが、1950年代のヨーロッパで日本への関心が高まっていた時代背景を反映していると考えられている。マテゴーは各地を旅して工業技術や造形の着想を集め、それを自らのデザインに取り入れたことで知られ、この椅子の名称もそうした異文化への関心の表れと見られている。

評価と現代における位置づけ

ナガサキチェアは発表当時から高く評価され、国際的な注目を集めた。リジチュール技法による独特の質感と造形が、当時のデザイン界で新鮮なものと受け止められた。

今日、ナガサキチェアは20世紀デザイン史における重要作品として、ヴィトラ・デザイン・ミュージアムの永久コレクションに収蔵されている。

2000年代以降、デンマークの家具ブランドGUBIによって復刻版が製造され、現代の住空間でも用いられている。ダイニングチェア、バースツール、アームチェアなど複数のバリエーションが展開されており、1950年代のデザインでありながら今日でも新鮮さを保っている。

基本情報

デザイナー マチュー・マテゴー
デザイン年 1954年
分類 チェア
オリジナル製造元 アトリエ・マテゴー(ソシエテ・マテゴー)
現行製造元 GUBI(デンマーク)
材質 粉体塗装スチール、穿孔シートメタル(リジチュール)
サイズ 高さ74cm × 幅58cm × 奥行54cm(座面高45cm)
初公開 1954年サロン・デ・アルティスト・デコラトゥール
コレクション ヴィトラ・デザイン・ミュージアム永久コレクション