バイオグラフィー
1910年、ハンガリーのタポルツァに生まれる。ブダペストの美術学校で学んだ後、1931年にパリへ移住。当初はインテリアデザイナーおよび舞台美術家として活動を開始する。第二次世界大戦中、フランスのレジスタンス運動に参加し、捕虜となる経験を経て、1945年に解放される。戦後、パリに「アトリエ・マテゴー」を設立し、独自の金属加工技術を用いた家具デザインの制作に本格的に着手。1950年代から1960年代にかけて、その革新的なデザインでフランスを代表するデザイナーとしての地位を確立する。2001年、パリにて91歳で逝去。
デザイン哲学とアプローチ
マテゴーのデザイン哲学の核心には、「軽やかさ」と「強度」の両立という命題がある。彼は、金属という素材が本来持つ冷たさや重厚さを払拭し、透明感と詩情を宿らせることに成功した。その思想の具現化が、1948年に特許を取得したパンチングメタル技法「リジチュール(Rigitulle)」である。
リジチュールとは、鋼板に規則的な穿孔を施し、独特の網目模様を生み出す技術である。この技法により、金属は堅牢さを保ちながらも視覚的な軽快さを獲得し、光と影の繊細な戯れを演出する。マテゴーは「素材に呼吸をさせる」という表現を好んで用い、金属を有機的な存在へと昇華させることを志向した。
また、彼のデザインには鮮やかな色彩が特徴的に用いられる。白、黒、黄、赤、緑といった原色を大胆に採用し、工業素材でありながら温かみと遊び心を感じさせる作品を数多く生み出した。この色彩感覚は、戦後フランスの楽観的な空気と、地中海沿岸のリゾート文化への憧憬を反映したものといえる。
作品の特徴
マテゴーの作品群は、いくつかの顕著な特徴によって識別される。第一に、前述のリジチュール技法による穿孔パターンが、視覚的なシグネチャーとして機能している。第二に、曲線と直線を巧みに組み合わせた有機的なフォルムが挙げられる。彼の椅子やテーブルは、幾何学的な構造でありながら、どこか人体の輪郭を思わせる柔らかさを帯びている。
第三の特徴は、その軽量性である。パンチングによって素材を減じることで、持ち運びや配置換えが容易な家具を実現した。これは、戦後の住宅事情において実用的な価値を持つと同時に、家具という存在の重々しさを解放する美学的意義をも担っていた。
さらに、屋内外を問わず使用可能な汎用性も見逃せない。金属素材と穿孔による排水性は、テラスやガーデンでの使用を可能とし、戦後のレジャー文化の発展と呼応した。
主な代表作とエピソード
コパカバーナ・チェア(Copacabana Chair)1955年
ブラジル・リオデジャネイロの著名な海岸にちなんで名付けられたこのラウンジチェアは、マテゴーの代表作として最も広く知られる。リジチュール技法を用いた座面と背もたれが、三脚構造のスチールフレームに支えられ、波打つような曲線を描く。その名の通り、南米のリゾート地を彷彿とさせる開放感と優雅さを備え、屋外での寛ぎの時間を演出するために設計された。当時のフランス社会における異国への憧れと、戦後の平和な生活への渇望が、この椅子の形態に凝縮されている。
ナガサキ・チェア(Nagasaki Chair)1954年
日本の都市名を冠したこのトリポッドチェアは、東洋的な簡素さと西洋のモダニズムが融合した傑作である。三本の細い脚が放射状に広がり、パンチングメタルの座面を支える構造は、見る者に緊張感と安定感を同時に与える。名称の由来については諸説あるが、原爆投下後の復興を遂げつつあった長崎への敬意を込めたものとする解釈が有力である。この椅子は、マテゴーが素材と構造の関係性を極限まで追求した成果として評価されている。
ジャヴァ・ランプ(Java Lamp)1954年
インドネシアの島の名を持つこのフロアランプは、リジチュール技法の照明器具への応用を示す秀逸な例である。パンチングメタルのシェードを通して漏れる光は、まるで木漏れ日のような繊細な陰影を室内に投げかける。この詩的な光の演出は、マテゴーのデザインが単なる機能の充足を超え、空間全体の情緒を醸成することを目指していたことを証している。
サテライト・デスク(Satellite Desk)1953年
宇宙時代の幕開けを予感させるこの執務机は、コンパクトながらも機能的な設計で知られる。天板下の収納スペースと、パンチングメタルで構成された軽やかな構造体が、限られた空間での作業を快適にする。「サテライト」という名称は、当時勃興しつつあった宇宙開発への関心を反映したものであり、未来への楽観的な展望がデザインに投影されている。
トロピーク・コレクション(Tropiques Collection)1950年代
熱帯地方をテーマにした一連の家具群で、プランター、シェルフ、マガジンラックなどが含まれる。リジチュールパネルと曲げ加工された金属フレームの組み合わせにより、植物との調和を意識したデザインが展開された。室内に緑を取り込むライフスタイルの先駆けとして、現代のボタニカルインテリアの源流をなすコレクションといえる。
功績・業績
マテゴーの業績は、デザイン史において複数の次元で評価される。第一に、リジチュール技法の開発は、金属加工における革新として位置づけられる。この技術は単なる装飾的手法にとどまらず、構造的強度と軽量化を両立させる工学的解決策でもあった。
第二に、彼は戦後フランスのデザインシーンを国際的に発信する役割を果たした。1950年代のミラノ・トリエンナーレへの出品や、各国での展覧会を通じて、フランス・デザインの存在感を高めることに貢献した。
第三に、彼の作品は量産と手工芸の中間領域を開拓した。アトリエ・マテゴーでの制作は、完全な工業生産でも純粋な一品制作でもなく、職人的技術と工業的効率を融合させた独自のアプローチであった。この姿勢は、後のデザイナーズファニチャーの生産モデルに影響を与えている。
2011年には、デンマークの家具ブランド「グビ(GUBI)」がマテゴーのアーカイブを取得し、代表作の復刻生産を開始した。これにより、長らくヴィンテージ市場でのみ入手可能であった彼の作品が、新たな世代のユーザーに届けられることとなった。
評価・後世への影響
マテゴーの作品は、ニューヨーク近代美術館(MoMA)、パリ装飾美術館、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館など、世界有数の美術館・博物館のパーマネントコレクションに収蔵されている。これは、彼のデザインが単なる実用品を超えた芸術的価値を認められていることの証左である。
デザイン史における彼の位置づけは、シャルロット・ペリアン、ジャン・プルーヴェと並ぶ戦後フランス・モダニズムの旗手として定着している。特にプルーヴェとは、金属素材への革新的アプローチという点で共通項を持ちながらも、プルーヴェが建築的・構造的な厳格さを追求したのに対し、マテゴーは装飾的・詩的な表現を志向したという対比がしばしば論じられる。
現代のデザインシーンにおいて、マテゴーの影響は複数の側面で認められる。パンチングメタルを用いた家具や照明は、北欧デザインや日本のプロダクトデザインにも散見され、素材の表情を活かす手法として継承されている。また、彼が追求した「軽やかさ」の美学は、サステナブルデザインの文脈において再評価されつつある。資源効率と美的価値を両立させる姿勢は、現代のデザイン倫理とも響き合うものである。
コレクター市場においても、マテゴーの作品は高い評価を維持している。特に1950年代のオリジナル・ピースは、オークションにおいて高額で取引されることが珍しくない。同時に、グビによる復刻版の登場は、彼のデザインをより広い層に普及させ、その現代的意義を再確認させる契機となっている。
作品一覧
| 年月 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1950年 | 椅子 | Kyoto Chair | Atelier Matégot |
| 1951年 | シェルフ | Dedal Shelf | Atelier Matégot / GUBI |
| 1951年 | サイドテーブル | Kangourou Side Table | Atelier Matégot / GUBI |
| 1952年 | プランター | Flower Pot | Atelier Matégot |
| 1953年 | デスク | Satellite Desk | Atelier Matégot |
| 1953年 | テーブル | Soumba Table | Atelier Matégot |
| 1953年 | コートラック | Demon Coatrack | Atelier Matégot |
| 1954年 | 椅子 | Nagasaki Chair | Atelier Matégot / GUBI |
| 1954年 | 照明 | Java Lamp | Atelier Matégot |
| 1954年 | 照明 | Bagdad Floor Lamp | Atelier Matégot |
| 1954年 | 照明 | Shanghai Table Lamp | Atelier Matégot |
| 1954年 | 照明 | Ceylon Pendant | Atelier Matégot |
| 1954年 | サイドテーブル | Trolley | Atelier Matégot |
| 1955年 | 椅子 | Copacabana Chair | Atelier Matégot / GUBI |
| 1955年 | ソファ | Copacabana Sofa | Atelier Matégot |
| 1955年 | テーブル | Copacabana Table | Atelier Matégot |
| 1956年 | マガジンラック | Tropiques Magazine Rack | Atelier Matégot |
| 1956年 | プランター | Tropiques Planter | Atelier Matégot |
| 1957年 | シェルフ | Pilastro Shelf | Atelier Matégot |
| 1958年 | 椅子 | Palm Beach Chair | Atelier Matégot |
| 1958年 | ミラー | Eye Mirror | Atelier Matégot |
| 1959年 | 椅子 | Casablanca Chair | Atelier Matégot |
| 1960年 | 照明 | Bikini Wall Light | Atelier Matégot |
| 1960年 | シェルフ | Mategot Bookshelf | Atelier Matégot |
Reference
- GUBI - Mathieu Matégot Designer Page
- https://gubi.com/designers/mathieu-mategot
- 1stDibs - Mathieu Matégot Furniture
- https://www.1stdibs.com/creators/mathieu-mategot/furniture/
- Pamono - Mathieu Matégot Designer Profile
- https://www.pamono.com/designers/mathieu-mategot
- Design Museum Collection - Mid-Century French Design
- https://designmuseum.org/collections
- Centre Pompidou - Design Collections
- https://www.centrepompidou.fr/en/collections
- Victoria and Albert Museum - 20th Century Design
- https://www.vam.ac.uk/collections/furniture