ハンギングエッグチェアは、1959年にナナ&ヨルゲン・ディッツェル夫妻がデザインした、デンマークデザインを代表する吊り下げ式チェアである。天井から吊るされた卵型のシェルが座る者を包み込み、やわらかな揺れとともに半個室のようなプライベートな空間をつくり出す。アルネ・ヤコブセンがエッグチェア(1958年)を発表した翌年に生まれたこのデザインは、ラタンを用いた独自の解釈によって、後の吊り下げ式チェアの系譜の出発点となった。

ディッツェル夫妻は1950年から、著名な籐細工職人ロバート・W氏の工房でラタンの実験に取り組んでいた。ハンギングエッグチェアは、その探求のなかで生まれた、シェルとフレームを一体化させた初期のデザインのひとつである。やわらかな曲線を描くその姿は、有機的なフォルムと北欧デザインの実用性を併せ持っている。

デザインの特徴とコンセプト

ハンギングエッグチェアの最大の特徴は、座る者を包み込む卵型のシェル構造にある。楕円という形は自然界に広く見られる安定した形態であり、ディッツェル夫妻はこの形を座具に転用することで、プライバシーと快適さを両立させた。天井から吊り下げるという構造は、動きを取り入れた家具が注目された1950年代後半の空気を反映している。座る者は繭のような空間に身を寄せながら、ゆるやかな揺れとともに外を眺めることができる。

素材としてのラタンの選択も、この椅子の性格を決めている。ラタンは竹と混同されがちだが、中空の竹と異なり中実であり、しなやかでありながら丈夫で、世代を超えて使える耐久性を持つ。10〜15分ほど蒸すと手で成形できるため、伝統的な技法と簡素な道具だけで複雑な曲線を編み上げることができる。ディッツェル夫妻の実験的なアプローチは、この素材の可能性を引き出し、インテリアにおける籐家具の位置づけを大きく変えた。

シェルとフレームが分離せず一体となった構造は、家具と身体が一続きになったような、彫刻的なたたずまいを生む。高い天井を持つ空間ではとりわけ映え、床面を占有せずに縦方向の広がりを空間に加える点も、この椅子ならではの魅力である。

エピソード

ハンギングエッグチェアには、直接の前身がある。1951年にデザインされたラナチェアは、三本脚のベースに卵型のラタンシェルを載せた作品で、座面とフレームを一体化させるという発想を先取りしていた。夫妻はこの一体型構造の実験を重ね、その延長線上で1959年にハンギングエッグチェアを生み出した。

このチェアは、アルネ・ヤコブセンのエッグチェアの翌年に発表されている。ヤコブセンが1958年にコペンハーゲンのSASロイヤルホテルのために成形FRPとフォームによる回転式ラウンジチェアをつくったのに対し、ディッツェル夫妻は伝統的なラタンを選び、天井から吊るすという設置方法を採った。同じ「エッグ」という名を持ちながら対照的なこの二脚は、当時のデンマークデザインの幅広さを示している。

評価と影響

ハンギングエッグチェアは、スカンジナビアンデザインの古典として、またデンマークを代表するデザインのひとつとして、世界中の住宅やホスピタリティの空間で用いられてきた。その彫刻的なフォルムは、単なる座具を超えて空間を印象づける存在として評価されている。

このデザインが残した大きな足跡のひとつは、吊り下げ式チェアという流れを生み出したことである。チェーンで吊るしたラタンのバスケットを卵型に編み上げ、その中に身を沈めるという体験は、それまでにないものであり、現代のさまざまなハンギングチェアやスイングチェアの原型となった。あわせて、1950年代当時は必ずしも高級品とみなされていなかった籐家具の評価を押し上げた点でも、この椅子の意義は大きい。持続可能で耐久性の高い素材としてのラタンが再び注目される現在、その先駆けとして振り返られることも多い。

現在の生産

ハンギングエッグチェアは、現在デンマークの家具メーカーSika-Designが、デザイナーの子孫と協力しながらICONSコレクションの一部として生産を続けている。製品はインドネシアの熟練した籐細工職人の手によって編み上げられ、伝統的な製法が守られている。

室内用のラタン製に加えて、屋外向けのHanging Egg Exteriorも用意されている。アルミ製フレームに人工繊維を編んだAlu-Rattanとアートファイバーを用いたこのバージョンは耐候性に優れ、デザインを損なわずに屋外へ通年設置できる。

基本情報

デザイナー ナナ・ディッツェル、ヨルゲン・ディッツェル(Nanna & Jørgen Ditzel)
デザイン年 1959年
製造 Sika-Design(デンマーク/製作はインドネシア)
分類 チェア(ハンギングチェア)
素材 ラタン(籐)※屋外版はAlu-Rattan+アートファイバー
寸法 W 850mm × D 750mm × H 1250mm(座面高:約450mm)
コレクション Sika-Design ICONSコレクション
特徴 天井吊り下げ式、卵型シェル、ハンドメイド