プラットナー ラウンジチェア / Platner Lounge Chair

1966年、建築家ウォーレン・プラットナーが発表したプラットナー コレクションは、100本以上のスチールワイヤーロッドを一本一本溶接し、構造と装飾を同時に成立させるという前例のない手法によって、ミッドセンチュリーモダンの歴史に新たな章を刻んだ。なかでもラウンジチェアは、床面から立ち上がるワイヤーが優美な曲線を描きながら座る人を包み込む、コレクションの思想を最も端的に示す一脚である。

プラットナーは、ルイ15世様式に見られるような装飾的で優雅なデザインを、合理的な構造のうえに再構築することを目指した。テクノロジーに偏ることなく、手工芸に傾くこともなく、両者の間に新しい美の在り方を見出そうとしたのである。その結果誕生したこのラウンジチェアは、半世紀以上にわたりKnoll(ノル)社によって生産され続け、20世紀デザインを代表するアイコンとして世界中の住宅、ホテル、美術館に置かれている。

デザインの特徴とコンセプト

プラットナー ラウンジチェアの最大の特徴は、ニッケルメッキを施したスチールワイヤーロッドが描く彫刻的なフォルムにある。垂直方向のワイヤーロッドが円形および半円形のフレームに溶接され、一脚あたり1,000箇所以上の溶接を経て完成する。この緻密な構造は、内と外の空間に建築的な対話を生み出し、光が透過することで時間帯や角度によって異なる表情を見せる。

ワイヤーの集合体は、Knoll社のカタログにおいて「光沢のある麦の束」に例えられ、その繊細でありながら力強い造形美は、構造そのものが装飾として機能するという独自の設計思想を形にしている。モールド成形されたファイバーグラスのシェルにラテックスフォームのクッションを組み合わせた座面は、見た目の軽やかさとは裏腹に、深く包み込まれるような安心感のある座り心地を提供する。

構造と装飾の融合

プラットナーは、支持構造と対象物を分離するのではなく、すべてを一体として設計するという哲学を追求した。床から立ち上がり、座る人を包み込み、支えるという一連の機能が、一つの連続した形態のなかで実現されている。この設計思想は、師であるエーロ・サーリネンのペデスタルシリーズの精神を継承しつつも、ワイヤーという新たな素材語彙によって独自の表現領域を切り拓いたものといえる。

光と空間の演出

密に配列されたワイヤーロッドは、視線を完全に遮ることなく空間を緩やかに区切る役割を果たす。光が差し込むと、ワイヤーは繊細な影のパターンを床面や壁面に投げかけ、チェアの存在が空間全体の演出装置として機能する。この光と影の対話は、同時代のハリー・ベルトイアのワイヤー家具とは異なるアプローチでありながら、素材の本質を活かした空間創造という点で共通の志向を持つ。

エピソード

4年の歳月を要した開発

プラットナーがKnoll社にコレクションの構想を持ちかけたのは1962年のことである。しかし、数百本のワイヤーロッドを精密に曲げ、正確に配置して溶接するという製造工程は極めて複雑であり、プラットナー自身が製造技術と工具を考案する必要があった。構造的な健全性と視覚的な美しさを両立させるために、開発には約4年の歳月が費やされ、1966年にようやくコレクションとして世に出ることとなった。この開発はグラハム財団からの助成金の支援も受けて進められた。

ゴールドフレームの実現

デザイン当初、プラットナーはゴールドフレームでの製作を構想していたが、1960年代の技術では実現が困難であった。発売50周年を記念して2015年に18金メッキのゴールドフレームが加わり、デザイナー本来の構想がようやく実現した。

映画と文化への浸透

プラットナー コレクションは、その彫刻的な美しさから映画やテレビドラマの美術においても高い人気を誇る。2008年の映画『007 慰めの報酬』、2022年の映画『TAR/ター』、2021年の映画『ハウス・オブ・グッチ』などに登場しており、近年ではApple TV+の人気ドラマ『セヴェランス』のセットデザインにおいて、プラットナーがデザインしたデスクが重要な役割を果たしている。こうした登場は、このデザインが幅広い場面で受け入れられていることを示している。

評価と受賞歴

プラットナー ラウンジチェアを含むプラットナー コレクションは、発表当初こそ装飾的な性格が強すぎるとの指摘も一部にあったが、時を経るにつれてその技術的・視覚的・批評的な評価が広く定まっていった。

プラットナー コレクションの作品は、カーネギー美術館、アトランタのハイ美術館、ニューヨークのクーパー・ヒューイット国立デザイン博物館などの永久コレクションに収蔵されている。また、Knoll社の製品は40点以上がニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションに含まれている。

1966年
アメリカ建築家協会(AIA)国際賞 — プラットナー アームチェアに対して

基本情報

正式名称 プラットナー ラウンジチェア / Platner Lounge Chair(Model 1715)
デザイナー Warren Platner(ウォーレン・プラットナー)/ アメリカ / 1919–2006
デザイン年 1962年(デザイン)/ 1966年(発表・製造開始)
ブランド Knoll(ノル)/ アメリカ
素材 フレーム:ニッケルメッキ スチールワイヤーロッド(メタリックブロンズ、18金メッキも選択可)/ シェル:モールド成形ファイバーグラス / クッション:モールドラテックスフォーム
サイズ W950mm × D650mm × H770mm / 座面高:480mm
重量 約9kg
フレーム仕上げ ポリッシュドニッケル / メタリックブロンズ(塗装仕上げ)/ 18金メッキ(2015年追加)
張地 Knoll社指定ファブリック各種(Cato、Classic Boucle、Knoll Velvet、Hourglass 等)、レザー
付属品 床面保護用クリアプラスチックリング
認証 GREENGUARD 室内空気品質認証
保証 5年保証(Knoll正規品)
参考価格 海外定価:約5,996〜8,771 USD(仕上げ・張地による)/ 国内参考価格:約1,012,000〜1,320,000円(税込目安)