レディチェア
1951年、建築家マルコ・ザヌーゾがイタリアの家具メーカー、アルフレックスのために発表したアームチェアである。レディチェアは、発泡ポリウレタンとフォームラバーを本格的に採用した最初期のアームチェアのひとつで、従来の金属スプリングに代わって強化弾性ストラップによるサスペンションを用いている。同年の第9回ミラノ・トリエンナーレで金賞(メダリア・ドーロ)を受賞した。
有機的な曲線を描く上部構造と、細身の金属脚が対比をなす造形が特徴で、70年以上を経た現在もカッシーナによるリエディションが生産されている。
デザインの背景 ― ピレリとアルフレックス
レディチェアの原点は1948年にさかのぼる。タイヤメーカーのピレリ社は、新たに開発したフォームラバー素材の家具への応用を模索し、その研究をマルコ・ザヌーゾに委託した。この研究から、ピレリの新部門としてアルフレックス社が設立され、レディチェアはその初期を代表するモデルとなった。
ザヌーゾは、座面・背もたれ・アームレストをそれぞれ独立した部品として製造し、最終工程で組み立てるという生産方式を採用した。身体の各部位にかかる圧力に応じてパッドの密度を変える手法も取り入れ、従来のバネと詰め物による椅子張り技法とは異なるアプローチで、イタリアにおける工業的な家具生産の一例となった。
デザインの特徴 ― 技術と造形
レディチェアの特徴は、新素材の採用が造形に直結している点にある。フォームラバーとナストロコード(ゴム引き織物テープ)の組み合わせにより、金属スプリングを用いない軽量で柔軟な構造が実現された。この構造が、包み込むような有機的な曲線のシルエットを可能にし、それまでの重厚な応接椅子とは異なる、軽快な佇まいを生み出している。
座面、背もたれ、アームレストが流れるようにつながる一体的なフォルムは、身体を受け止める曲面で構成されている。ボリューム感のある上部構造を細身の金属脚が支える対比が、レディチェアの視覚的な魅力の中心である。構造がすべて座面・背もたれ・アーム部分に内包され、外部にフレームを露出させない設計となっている。
エピソード ― 第9回ミラノ・トリエンナーレと金賞受賞
1951年、レディチェアは第9回ミラノ・トリエンナーレに出品された。同展は戦後イタリアのデザインと産業の融合を示す重要な国際展であり、レディチェアは素材・技術・造形の提案として評価され、金賞(メダリア・ドーロ)を獲得した。
この受賞は、フォームラバーという新素材が家具の領域でも通用することを示し、戦後イタリアの工業デザインを国際的に知らしめる契機となった。同時に発表されたスリープ・オ・マチック・ソファも評価され、ザヌーゾとアルフレックスの名が広く知られるようになった。
カッシーナによるリエディション
2015年、イタリアの家具ブランドであるカッシーナがレディチェアのリエディションを発表した。「720 Lady」の型番で現在も生産されるこのリエディションは、オリジナルのデザインを継承しつつ、現代の製造技術と素材を反映している。
カッシーナ版では、CFC不使用のポリウレタンフォームとポリエステル中綿によるパッドが用いられ、ポプラ合板のアームレストとスチールロッドのフレームで構成される。脚部の仕上げはマットバサルト、ブラスクローム、ブラッククロームの3種から選択でき、張地にはベルギー出身のデザイナー、ラフ・シモンズによるファブリックコレクションを含む豊富なオプションが用意されている。ブラック&ホワイトのチェック柄をあしらったアイコニックエディションも展開されている。
評価と影響
レディチェアは、戦後イタリアデザインを代表する作品のひとつとして知られている。その評価は、新素材を用いた点だけでなく、素材の特性から出発して形態と生産プロセスの双方を組み立て直した点にある。
レディチェアは、ニューヨーク近代美術館(MoMA)およびメトロポリタン美術館の収蔵品となっており、20世紀デザインを代表する椅子のひとつとして評価されている。
受賞歴
- 1951年
- 第9回ミラノ・トリエンナーレ 金賞(メダリア・ドーロ)
基本情報
| 正式名称 | レディチェア / Lady Chair(型番:720 Lady) |
|---|---|
| デザイナー | マルコ・ザヌーゾ / Marco Zanuso(イタリア、1916–2001) |
| デザイン年 | 1951年 |
| オリジナルメーカー | Arflex(アルフレックス)/ イタリア |
| 現行メーカー | Cassina(カッシーナ)/ イタリア(2015年よりリエディション) |
| 主要素材 | スチールロッドフレーム、ポプラ合板(アームレスト)、CFC不使用ポリウレタンフォーム、ポリエステル中綿、弾性ウェビング |
| サイズ | W770 × D840 × H780 mm(座面高:460mm) |
| 脚部仕上げ | マットバサルト / ブラスクローム / ブラッククローム(3種) |
| 張地 | ファブリックまたはレザー(複数グレード・カラーから選択可、ラフ・シモンズによるファブリックコレクションを含む)、取り外し不可 |
| 特別仕様 | アイコニックエディション(ブラック&ホワイトチェック柄、マットバサルト脚) |
| 製造国 | イタリア |
| 主要収蔵美術館 | ニューヨーク近代美術館(MoMA)、メトロポリタン美術館 |