レディチェアが長く愛される理由

1951年の誕生から70年以上にわたり、マルコ・ザヌーゾのレディチェアは戦後イタリアデザインを代表する作品のひとつとして評価を受け続けている。フォームラバーと弾性ストラップを本格的に家具へ導入した最初期の作品のひとつで、発表と同年に第9回ミラノ・トリエンナーレで金賞を受賞し、家具の素材・構造・製造工程を刷新する提案として注目を集めた。

ザヌーゾの設計意図は明快である。自動車産業の生産技術と新素材の可能性を家庭用家具に応用し、工業的な量産と高い快適性を両立させること。座面・背もたれ・アームレストを独立した部品として製造し最終工程で組み立てるという、当時としては新しい分割生産方式がその考え方を表している。

このページでは、現在カッシーナがリエディションとして生産する720 Ladyの正規品について、仕様・価格・正規品とリプロダクトの違い・使用感・メンテナンス・購入方法まで、購入判断に必要な情報を網羅的に解説する。

正規品の基本情報:仕様・サイズ・素材

正式名称 720 Lady(レディ ラウンジチェア)/ 720 Lady Armchair
デザイナー マルコ・ザヌーゾ / Marco Zanuso(イタリア、1916–2001)
デザイン年 1951年
オリジナルメーカー Arflex(アルフレックス)/ イタリア
現行製造ブランド Cassina(カッシーナ)/ イタリア(2015年よりリエディション)
コレクション Cassina I Maestri Collection
製造国 イタリア
フレーム スチールロッド(内部フレーム)、弾性ウェビング
アームレスト芯材 ポプラ合板
パッド CFC不使用ポリウレタンフォーム(コールドモールド成形)、フレキシブルポリウレタンフォーム、ポリエステル中綿
パッド密度 座面・背もたれ・アームレストで異なる密度を使い分け(体圧分散設計)
脚部 スチールロッド(3種の仕上げ:マットバサルト / ブラスクローム / ブラッククローム)
脚先 ブラックプラスチック
サイズ(1人掛) W770 × D840 × H780 mm(座面高:460mm)
サイズ(2人掛) W1350 × D840 × H780 mm(座面高:460mm)
張地 ファブリックまたはレザー(複数グレード・カラーから選択可)、取り外し不可。Raf Simonsによるファブリックコレクションを含む
張地カテゴリ(ファブリック) Cat.E(Eremo, Perbacco)/ Cat.F(Annapurna, Champ, Fortuny, Marocco, Rox, Tensing 等)/ Cat.L(Lincoln, Linus, Lipari, Ortigia 等)/ Cat.O(Otterlo, Otterlo Stripe, Uni Melange)
張地カテゴリ(レザー) Cat.X(Scozia)/ Cat.Y(Extra)/ Cat.Z(Natural, Natural 08, Natural 15, Natural ZZ)
特別仕様 アイコニックエディション(ブラック&ホワイトチェック柄、マットバサルト脚)
参考価格(税込目安) 1人掛:約913,000円〜 / 2人掛:約1,144,000円〜(張地グレードにより変動)
販売形態 受注輸入(カッシーナ・イクスシー経由)
受賞歴 1951年 第9回ミラノ・トリエンナーレ 金賞(メダリア・ドーロ)
主要収蔵美術館 ニューヨーク近代美術館(MoMA)、メトロポリタン美術館

正規品とリプロダクトの違い

レディチェアには、海外を中心にリプロダクト(ジェネリック製品)が複数流通している。ザヌーゾのオリジナルデザインに基づく外観の再現を謳うものが多いが、正規品であるカッシーナの720 Ladyとの間には、素材品質・構造・仕上げ・体験のすべてにおいて本質的な差異が存在する。

素材の違い

正規品のパッドには、カッシーナが自社の研究開発拠点「Cassina LAB」で検証したCFC不使用のコールドモールド成形ポリウレタンフォームが使用されている。座面・背もたれ・アームレストそれぞれに異なる密度のフォームを使い分ける体圧分散設計は、ザヌーゾがオリジナルで追求した快適性の思想を現代の素材技術で再現したものである。アームレスト芯材にはポプラ合板を用い、フレームにはスチールロッドと弾性ウェビングを組み合わせている。一方、リプロダクト品では汎用的なウレタンフォームが一律の密度で使用されるケースが多く、素材のグレードや耐久性において大きな開きがある。

構造の違い

ザヌーゾが考案した分割生産方式——座面・背もたれ・サイドをそれぞれ独立して製造し、最終工程で精密に組み立てる——は、正規品においてカッシーナのイタリア工場で忠実に踏襲されている。弾性ウェビングによるサスペンション構造の張力設定、各部品の嵌合精度、縫製の一貫性は、長年の製造知見に基づく品質管理のもとで実現されている。リプロダクト品では、この製造プロセスが簡略化される傾向にあり、内部構造の差異は経年使用における耐久性と座り心地の持続性に直接影響する。

ディテールの違い

正規品の張地は、ラフ・シモンズがカッシーナのために手がけたファブリックコレクションを含む、厳選されたテキスタイルおよびレザーから選択可能であり、いずれもイタリアの熟練した職人によるカバーリングが施される。ステッチの均一性、エッジの処理、脚部の表面仕上げ(電気メッキまたは塗装)の精度は、量産品でありながら手仕事の品質基準を維持している。リプロダクト品では、これらの細部の仕上げに差が出やすい。

体験の違い

正規品は、部位ごとに異なる密度のフォームを採用することで、身体の各部位に最適な支持力を提供している。座面はしっかりとした沈み込みで体重を受け止め、背もたれは柔らかく身体を包み込み、アームレストは適度な硬さで腕を支える。この精緻な体圧分散設計により、長時間の着座でも疲労感が少ない。リプロダクト品ではフォーム密度が均一であることが多く、この体験の差は実際に座り比べると明瞭に感じられる。

価値の違い

カッシーナの正規品は、I Maestri Collectionに属する正統なリエディションとしてのブランド価値を有しており、中古市場においても安定したリセールバリューが期待できる。正規販売店を通じた購入であれば、カッシーナのアフターサービスや修理対応を受けることが可能である。リプロダクト品にはこうしたブランド保証やアフターケアの体制は付帯しない。

比較項目 正規品(Cassina 720 Lady) リプロダクト一般
製造 カッシーナ・イタリア工場(分割生産・組立方式を忠実に継承) 各国の自社工場(製造プロセスは簡略化される場合あり)
フレーム スチールロッド+弾性ウェビング+ポプラ合板(アームレスト) スチールフレーム(仕様は製品により異なる)
パッド CFC不使用コールドモールド成形ポリウレタンフォーム、部位別密度設計 汎用ウレタンフォーム(均一密度が多い)
張地選択肢 ファブリック・レザー計10カテゴリ以上(Raf Simonsコレクション含む) 限定的な素材・カラー選択
脚部仕上げ マットバサルト / ブラスクローム / ブラッククローム(電気メッキ・塗装) クローム仕上げ等(仕上げ精度は製品による)
参考価格帯 約91万円〜(税込、張地グレードにより変動) 約5万〜15万円程度
保証・修理 カッシーナ・イクスシーによるアフターサービス、張替え・修理対応 メーカーによる限定的な保証(12ヶ月程度が多い)
リセールバリュー 安定した中古市場価値 一般的に低い
デザイン正統性 カッシーナ I Maestri Collection 正規リエディション 第三者によるジェネリック製品

使用感と暮らしへの取り入れ方

座り心地

レディチェアの座り心地は、包み込むような柔らかさとしっかりとした支持感を兼ね備えている。座面に腰を下ろすと、適度な沈み込みの後にフォームの弾力が身体を受け止め、背もたれは自然な姿勢で上体を支える。アームレストは肘を置く位置に無理なく手が届く高さに設計されており、読書やくつろぎの時間に快適な腕の置き場を提供する。座面高は約460mmで、ゆったりと腰掛けてくつろぐのに適している。

幅770mm・奥行840mmのゆとりあるサイズ感は、体格を選ばず快適に使用できる。ただし、書斎デスクに向かう作業用チェアとしてはやや低い座面高であるため、リビングやラウンジでのくつろぎ用途に最も適している。

空間別コーディネート提案

レディチェアは、有機的な曲線と細身の金属脚のコントラストにより、モダンからクラシックまで幅広いインテリアスタイルと調和する。リビングルームにおいては、ソファの対面やサイドに配置するアクセントチェアとして存在感を発揮する。コンパクトな1人掛サイズであるため、日本の住宅事情においても取り入れやすい。

書斎やプライベートルームでは、読書用のパーソナルチェアとして壁際やフロアランプの隣に配置すると、上質な寛ぎの空間が生まれる。2人掛モデル(W1350mm)はリビングの主役ソファとしても機能し、コンパクトなリビングダイニングでの使用にも適している。

生活スタイル別の提案

一人暮らしの場合、1人掛モデルはリビングの中心に据えるメインシートとしてもパーソナルチェアとしても機能する。ファミリーでの使用においては、リビングのアクセントチェアや読書コーナーの特等席として活用できる。取り外し不可の張地であるため、小さな子どものいる家庭では濃色系のファブリックやレザー張地を選ぶと汚れが目立ちにくい。オフィスやラウンジでの使用にも適しており、来客用のラウンジチェアとして品格のある空間を演出する。

経年変化とメンテナンス

素材ごとの経年変化

ファブリック張地の場合、使用に伴い座面や肘掛部分に自然な毛羽立ちや色の馴染みが生じる。上質なウールやコットン混紡のファブリックは、使い込むほどに柔らかさを増し、身体に馴染んだ座り心地へと変化していく。レザー張地においては、天然皮革ならではのエイジングにより光沢と深みが増し、使い手の生活と一体化した表情へと育っていく。

スチール脚部は、ブラスクローム仕上げの場合は経年による微細な酸化が味わいとなり、マットバサルトやブラッククロームは比較的変化が少なく落ち着いた外観を保つ。

日常メンテナンス

ファブリック張地は、週に1〜2回程度の掃除機がけ(弱モード、布用ノズル使用)でホコリや繊維くずを取り除く。液体をこぼした場合は速やかに清潔な布で軽く押さえるように吸い取り、擦らないよう注意する。レザー張地は、乾いた柔らかい布で定期的にから拭きし、半年に1回程度、レザー専用のコンディショナーで保湿する。直射日光やエアコンの温風が直接当たる場所は、退色や乾燥の原因となるため避けることが望ましい。

脚部のスチール部分は、柔らかい布での乾拭きで十分に美観を保てる。水拭きの場合は、仕上げの種類に応じて速やかに水気を拭き取ること。

専門メンテナンスと修理

カッシーナ・イクスシーでは、正規品に対する張替えサービスや修理対応を自社工場で受け付けている。長年の使用によりフォームがへたった場合のパッド交換、張地の張替え、脚部の補修などが可能である。張替えの費用は、選択する張地グレードと作業内容により異なるため、カッシーナ・イクスシーへの直接相談が推奨される。張替えを経ることで、数十年にわたる長期使用が実現できる点は、正規品を選ぶ大きな利点の一つである。

どこで買うか:正規販売店と購入方法

国内正規販売

日本におけるカッシーナの正規総代理店はカッシーナ・イクスシー(Cassina ixc.)である。720 Ladyは受注輸入品のため、注文後にイタリア本国工場で製造される。張地・脚部仕上げの選択を含むオーダーから納品まで、一般的に数ヶ月の期間を要する。

ショールーム

実物の確認は、カッシーナ・イクスシー青山本店(東京都港区南青山2-12-14 ユニマット青山ビル1〜3F)をはじめとする直営ショールームで可能である。展示状況は時期により異なるため、来店前の問い合わせが推奨される。三越伊勢丹グループの一部店舗でもカッシーナ製品の取り扱いがある。

オンラインストア

カッシーナ・イクスシー公式オンラインストア(cassina-ixc.jp)にて製品情報の確認および問い合わせが可能である。受注輸入品のため、張地やカラーの選定を含むオーダーについてはショールームまたは電話での相談が適している。

中古・ヴィンテージ市場

カッシーナによる2015年以降のリエディションの中古品は市場に少数流通しており、状態の良いものは定価に近い価格で取引されることもある。一方、1950年代のアルフレックス製オリジナルヴィンテージは、国際的なオークションハウスやヴィンテージ家具専門店(1stDibs、Pamono等)で高値で取引されている。ヴィンテージ品の購入にあたっては、張地やフォームの劣化状況、脚部の真鍮またはクロームの状態を必ず確認すること。

購入時チェックリスト

  • 正規品であることの確認(カッシーナ・イクスシー発行の保証書、製品ラベルの有無)
  • 張地グレード・カラー・脚部仕上げの選定(ショールームでの実物サンプル確認を推奨)
  • 設置場所のサイズ実測(1人掛:W770 × D840mm、2人掛:W1350 × D840mmの設置スペース+周囲の動線確保)
  • 搬入経路の確認(玄関幅・廊下幅・エレベーターサイズ・階段幅)
  • 納期の確認(受注輸入のため数ヶ月の製造期間が必要)
  • 配送・設置方法の確認(カッシーナ・イクスシーの専任配送スタッフによる搬入・設置が利用可能)
  • アフターサービスの内容確認(張替え、パッド交換、修理対応の可否と費用目安)

配送・設置に関する注意事項

受注輸入品のため、注文確定後のキャンセルや仕様変更は原則として不可となる。配送はカッシーナ・イクスシーの専任スタッフが搬入から設置まで行うサービスが利用可能であり、大型家具の取り扱いに慣れた専門スタッフによる丁寧な作業が期待できる。マンション高層階への搬入の場合は、エレベーターの寸法確認が必要である。

コーディネート事例

ミッドセンチュリーモダン

レディチェアの出自であるイタリアン・ミッドセンチュリーの文脈に沿ったコーディネート。ウォールナット材のサイドテーブル、アルコランプ(フロス)やタイオ・テーブルランプ(アルテミデ)といった同時代のイタリアンライティング、テラッツォのフローリングやシンプルなラグとの組み合わせが自然に調和する。張地はRaf Simonsのコレクションから深みのあるレッドやブルーを選ぶと、時代の空気感を色濃く演出できる。

北欧×イタリアンミックス

北欧家具の端正な木質感とイタリアンデザインの彫塑的な造形を融合させるスタイル。オーク材のシェルフ(例:ストリング・システム)やハンス・J・ウェグナーのコーヒーテーブルと合わせ、レディチェアの有機的なフォルムが空間にアクセントを加える。張地はグレーやアイボリーなどのニュートラルカラーを選ぶと、異なるデザイン言語の共存が穏やかにまとまる。

コンテンポラリー・ミニマル

白や淡いグレーを基調としたミニマルな空間に、レディチェアをアイコニックエディション(ブラック&ホワイトチェック柄)で配置する提案。グラフィカルなパターンが空間に知的なリズムを生み出す。合わせる家具はカッシーナのLC10-P テーブル(ル・コルビュジエ)やUSMハラーのモジュラー収納など、直線的なデザインとの対比がレディチェアの曲線美を際立たせる。

よくある質問

正規品の価格はどのくらいですか?
カッシーナ・イクスシーにおける720 Ladyの参考価格は、1人掛が税込約913,000円〜、2人掛が税込約1,144,000円〜となっています(2025年時点の目安)。張地グレード(ファブリック/レザー)や脚部仕上げにより価格が変動しますので、最新の正確な価格はカッシーナ・イクスシーへ直接お問い合わせください。
どこで購入できますか?
日本ではカッシーナの正規総代理店であるカッシーナ・イクスシー(Cassina ixc.)を通じて購入できます。青山本店をはじめとする直営ショールーム、公式オンラインストア(cassina-ixc.jp)、および三越伊勢丹グループの一部店舗で取り扱いがあります。720 Ladyは受注輸入品となります。
実物を確認できる場所はありますか?
カッシーナ・イクスシー青山本店(東京都港区南青山2-12-14)をはじめとする直営ショールームで実物を確認できます。ただし、展示品の状況は時期により異なるため、来店前にお電話(03-5474-9001)での確認をお勧めします。
納期はどのくらいかかりますか?
720 Ladyは受注輸入品のため、注文確定後にイタリア本国工場で製造されます。張地・仕上げの選定を含むオーダーから納品まで、一般的に3〜4ヶ月程度の期間を要します。具体的な納期は注文時にカッシーナ・イクスシーにご確認ください。
メンテナンスはどのようにすればよいですか?
ファブリック張地は週1〜2回の掃除機がけ(弱モード)、レザー張地は定期的な乾拭きと半年に1回程度のレザー用コンディショナーでの保湿が基本です。直射日光や暖房の直風を避けることで、張地の退色や乾燥を防げます。カッシーナ・イクスシーでは張替えやパッド交換などの専門修理にも対応しています。
リプロダクトでも十分ですか?
リプロダクト品は正規品に比べて大幅に安価ですが、体圧分散設計のパッド、張地・仕上げの品質、耐久性、アフターサービス、リセールバリューのいずれにおいても差があります。短期間の使用であればリプロダクトも選択肢となりますが、長く使い込むことを前提とした場合、正規品の素材品質と修理対応の充実度は大きなアドバンテージとなります。
2人掛モデルもありますか?
はい。720 Ladyには1人掛(W770mm)と2人掛(W1350mm)の2サイズが用意されています。2人掛モデルはコンパクトソファとしても機能し、同じ張地・脚部仕上げでの統一感のあるコーディネートが可能です。
他に検討すべき名作チェアはありますか?
同じイタリアンモダンの系譜に属する名作ラウンジチェアとしては、同じマルコ・ザヌーゾによるアントロプスチェア(カッシーナ 721)やマルティンガーラ・アームチェアが挙げられます。また、異なるアプローチでの名作として、ジオ・ポンティのスーパーレジェーラ(カッシーナ 699)、マルセル・ブロイヤーのワシリーチェアなども検討に値します。当サイトでは各種名作チェアの紹介ページを順次公開しておりますので、あわせてご参照ください。