DCW(ダイニングチェアウッド)── 成形合板が拓いた椅子
DCW(Dining Chair Wood)は、チャールズ&レイ・イームズが1946年に発表した成形合板製のダイニングチェアである。「D」はダイニングハイト、「C」はサイドチェア、「W」はウッドベースを意味し、名称そのものが構造と用途を表している。第二次世界大戦中に米海軍向けの合板スプリント(添え木)製造で培った三次元成形技術を、戦後の民生家具へ応用した椅子であり、Time誌が選んだ「20世紀最高のデザイン」としても知られる。
薄い木材のベニヤを熱と圧力で立体的に成形し、人体の輪郭に沿う座面と背もたれを実現している。座面・背もたれと脚部フレームはゴム製のショックマウントで結合され、適度な弾力と快適な座り心地をもたらす。1946年の発表以来、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久コレクションにも収蔵され、ミッドセンチュリーモダンを代表する椅子の一つとして知られている。
デザインの背景と誕生
DCWの原点は、イームズ夫妻がロサンゼルスの自宅アパートメントで行った合板成形の実験にある。二人は「カザム!マシン(Kazam! Machine)」と名付けた自作の装置を用い、薄いベニヤ板を接着剤とともに重ね、自転車のポンプで膨らませた圧力によって三次元的な曲面を形成する手法を編み出した。
1942年、二人は米海軍から合板製の脚用スプリントや担架の開発を受託し、熱と圧力による合板の三次元成形技術の精度を高めた。戦後、この技術を家具へ転用し、当初は一枚の合板から座面と脚部を一体成形するシングルシェルを目指したが、技術的な制約から座面・背もたれ・脚部を別々に成形してショックマウントで結合する構造へと方針を変えた。この判断が、結果として快適性と美しいプロポーションの両立をもたらした。
DCWの初期生産はエヴァンス・モールデッド・プライウッド・カンパニーが担い、1946年から市場に投入された。1949年にハーマンミラーがエヴァンス社のプライウッド部門を買収して製造を引き継いだが、1950年代に入ると金属脚のDCM・LCMの人気に押され、1953年に一度生産を終了する。その後1994年、ハーマンミラーはショックマウントの形状を楕円形から二つの円形に変更するなどの改良を加えたうえで復刻生産を開始し、現在に至っている。
プライウッドグループの一員として
DCWは単独ではなく、同時期に開発されたプライウッドグループの一員として発表された。同シリーズには、座面高を低くしてくつろいだ姿勢を実現するラウンジ版のLCW(Lounge Chair Wood)、金属脚のダイニング版DCM(Dining Chair Metal)、ラウンジ版LCM(Lounge Chair Metal)が含まれる。同一の座面・背もたれシェルに異なるベースを組み合わせるという発想は、後のプラスチックシェルチェアやワイヤーチェアにも受け継がれ、イームズオフィスのデザインを特徴づけるアプローチとなった。
特徴と構造
DCWの座面と背もたれは5層の硬材合板、脚部とバックブレースには8層の合板が用いられている。積層数を使い分けることで、座面の適度なしなりと脚部の構造的強度を同時に実現している。座面・背もたれと脚部フレームを結合するのはネオプレンゴム製のショックマウントで、着座時や姿勢を変えた際の衝撃を吸収し、滑らかで弾力のある座り心地を生む。
金属部品をショックマウント内部に限定したことで、視覚的にも触覚的にも木の素材感が全体を支配し、空間に穏やかな佇まいをもたらす。軽量でありながら堅牢な構造は、不要な材を削ぎ落とした結果として実現されたものであり、量産に適した合理性と有機的な造形美を両立させている。合板という比較的安価な素材の選択も、量産によるコスト低減を見据えたものであった。
評価
DCWは、成形合板技術を用いた量産家具の先駆けとして、ミッドセンチュリーモダンデザインの出発点に位置づけられている。素材技術、量産、人体へのフィットという複数の観点から評価され、以下のように収蔵・評価されている。
- Time誌「20世紀最高のデザイン」
- Time誌はイームズの成形合板チェアを20世紀最高のデザインに選出した。この評価は、DCWを含む成形合板チェアの画期性を示すものとして広く引用されている。
- MoMA永久コレクション
- ニューヨーク近代美術館(MoMA)は、DCWを永久コレクションに収蔵している。所蔵品番号70.1946として登録されたエヴァンス社製の初期モデルは、バーチ合板とゴム製ショックマウントで構成されたオリジナルの仕様を今日に伝えている。
- デザイン史における位置づけ
- 不要な材を排し、軽量かつ視覚的に軽やかなフォルムを実現したその手法は、モダンファニチャーデザインの基盤を築いたものとして一般に評価されている。
基本情報
| 正式名称(日本語) | DCW(ダイニングチェアウッド) |
|---|---|
| 正式名称(英語) | DCW (Dining Chair Wood) / Eames Molded Plywood Dining Chair Wood Base |
| デザイナー | チャールズ&レイ・イームズ(Charles & Ray Eames) |
| デザイナー国籍・生没年 | アメリカ / チャールズ:1907–1978年、レイ:1912–1988年 |
| デザイン年 | 1945–1946年 |
| 製造ブランド | ハーマンミラー(Herman Miller)※北米・アジア地域 / ヴィトラ(Vitra)※欧州・中東地域 |
| 初期製造 | エヴァンス・モールデッド・プライウッド・カンパニー(Evans Products Co., Molded Plywood Division)1946–1949年 |
| 製造国 | アメリカ合衆国(ハーマンミラー) / ヨーロッパ(ヴィトラ) |
| 主要素材 | 成形合板(座面・背もたれ:5層硬材合板、脚部・バックブレース:8層合板)、ネオプレンゴム製ショックマウント |
| サイズ(ハーマンミラー) | W495 × D552 × H730 mm / 座面高:457 mm |
| 重量 | 約9.1 kg |
| 耐荷重 | 136 kg |
| カラーバリエーション(ハーマンミラー) | ウォールナット、ナチュラルチェリー、ホワイトアッシュ、ライトアッシュ、サントスパリサンダー、エボニー、レッドステインアッシュ 等 |
| 保証 | ハーマンミラー:5年保証 |
| スタッキング | 不可 |
| カテゴリ | チェア(ダイニングチェア / サイドチェア) |