モデル2097 ── 伝統的シャンデリアを再定義した光の彫刻

1958年、イタリア照明デザインの巨匠ジーノ・サルファッティは、故郷ヴェネツィアの伝統的なシャンデリアに着想を得ながら、その本質だけを抽出した独創的な照明器具を世に送り出した。モデル2097は、華美な装飾を削ぎ落とし、光源そのものの美しさを前面に押し出すことで、古典と現代を架橋する作品である。中央のスチール製支柱から放射状に伸びる細い真鍮のアームが、それぞれの先端に裸電球を灯すその姿は、機能美と詩情を併せ持つ照明彫刻として、半世紀以上にわたり世界中の空間を照らし続けている。

特徴・コンセプト

モデル2097の設計思想は、サルファッティが生涯を通じて追求した「合理的照明(illuminazione razionale)」の理念に貫かれている。光そのものを素材として捉え、器具は光を最も効果的に空間へ届けるための装置であるべきだという信条のもと、伝統的なヴェネツィアン・シャンデリアからガラスのプリズムや装飾的要素を取り除き、構造の本質のみを残す大胆な試みがなされた。

本作の最大の特徴は、各電球からソケットコードが中央の支柱へと自由に垂れ下がる独特の造形にある。通常の照明器具であれば隠蔽される配線を、あえてデザインの一部として可視化することで、カーブを描くコードが伝統的シャンデリアの曲線美を想起させる。この意図的な「見せる配線」は、工業的な率直さと有機的な優美さを同時に実現する画期的なアプローチであった。

ミラーポリッシュ仕上げのスチール製本体と真鍮製の放射状アームによる構造は、幾何学的な秩序と制御された混沌が共存する独自の美学を形成している。各アームの先端に取り付けられた裸電球は、間接的かつ温かみのある光を放ち、空間全体を包み込むような雰囲気を生み出す。アレクサンダー・カルダーのモビールにも比せられるその彫刻的存在感は、点灯時のみならず、消灯時においても空間の主役となる。

エピソード

ヴェネツィアン・シャンデリアの脱構築

モデル2097の発想の出発点となったのは、ヴェネツィアの伝統的なムラーノガラスのシャンデリアである。サルファッティはその構造を解体し、装飾を取り除いて骨格だけを残すことで、ヴェネツィアの美的伝統を現代に再解釈した。

アルテルーチェからフロスへ

モデル2097は、サルファッティが1939年に設立した自身の照明会社アルテルーチェにおいて1958年に発表された。アルテルーチェは実験的な照明デザインの拠点として、多くのイタリア人デザイナーが関わる場でもあった。1973年、サルファッティはアルテルーチェをフロスに売却する。フロスはアルテルーチェのカタログを引き継ぎ、モデル2097を含むサルファッティの照明を現在に至るまで生産し続けている。

評価

モデル2097は、20世紀を代表する照明デザインのひとつとして国際的に高く評価されている。サルファッティの照明作品はニューヨーク近代美術館(MoMA)のコレクションにも複数収められており、モデル2097も彼の代表作として広く知られている。

1958年の発表から半世紀以上が経過した今日においても、本作は世界中のインテリアデザイン誌や建築専門誌で頻繁に取り上げられ、住宅空間のみならず高級ホテル、レストラン、商業施設など多様な空間で採用され続けている。ミッドセンチュリーらしさを備えながらも、ミニマル、インダストリアル、コンテンポラリーといった多様なインテリアスタイルに調和する点が、長く支持される理由となっている。

受賞歴・栄誉

モデル2097そのものに対する個別の受賞記録は公式には確認されていないが、デザイナーであるジーノ・サルファッティは1954年および1955年にコンパッソ・ドーロ賞を受賞し、ミラノ・トリエンナーレの名誉賞も授与されている。サルファッティの作品群はMoMAの展覧会に6回にわたり出品されており、1954年の「The Modern Movement in Italy: Architecture and Design」展から2013年の「Shaping Modernity 1880-1980」展まで、イタリアモダンデザインの代表作として継続的に紹介されてきた。2012年にはミラノ・トリエンナーレデザイン美術館において、サルファッティの生誕100周年を記念する大規模な回顧展が開催され、200点を超える照明作品が展示された。

基本情報

作品名 モデル2097 / Model 2097
デザイナー Gino Sarfatti(ジーノ・サルファッティ / 1912–1985 / イタリア)
デザイン年 1958年
ブランド Flos(フロス / イタリア)
分類 ペンダントライト / シャンデリア
素材 スチール(本体)、真鍮(アーム)
サイズ 2097/18:Ø約69cm × H約51cm / 2097/30:Ø約88cm × H約71cm / 2097/50:Ø約100cm × H約88cm
重量 2097/18:約3.6kg / 2097/30:約5.6kg / 2097/50:約10.0kg
光源 E14口金(LED対応:2.7W、2700K、150lm、調光可能)
仕上げ クローム、真鍮、マットブラック、マットホワイト
製造国 イタリア
主な所蔵・展示 デザイナー(サルファッティ)の照明作品がニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵