ジーノ・サルファッティ
ジーノ・サルファッティ(Gino Sarfatti、1912年9月16日 - 1985年3月6日)は、20世紀のイタリアを代表する照明デザイナーであり、企業家である。1939年に照明ブランド「アルテルーチェ(Arteluce)」を設立し、生涯に700点を超える照明を設計した。装飾よりも機能を重んじる合理的な設計と、新素材・新技術への旺盛な探究心で知られ、代表作のモデル2097は現在もフロス(Flos)から生産が続いている。
バイオグラフィー
1912年、ヴェネツィアに生まれる。父リッカルドは食品を扱う商人、母はトリエステの家系の出身であった。1930年、航空・造船工学(aeronaval engineering)を学ぶためジェノヴァ大学に入学するが、1935年に国際連盟がイタリアへ経済制裁を科したことで家業が傾き、23歳で学業を断念してミラノへ移る。ミラノでは当初ガラス製品の販売に携わっていたが、ムラノガラスの花瓶に古いコーヒー器具の反射板を組み合わせて照明を仕立てた経験をきっかけに、照明の製作と設計へと関心を深めていった。
1936年、アルド・ヴァルカレンギらとともに照明会社「ルーメン(Lumen)」を興したのち、1939年2月に独立してアルテルーチェを設立する。アルテルーチェはミラノの店舗を拠点に、フランコ・アルビニやイコ・パリージ、ヴィットリアーノ・ヴィガノら当時のイタリアを牽引するデザイナーが集う場ともなった。1943年、ファシスト政権下の人種法により、ユダヤ系であった父を持つサルファッティは家族とともにスイスへ避難を余儀なくされる。解放後の1946年にミラノへ戻って事業を再建し、1950年には研究のため渡米している。1973年、事業を好調のうちにフロスへ譲り、コモ湖畔に退いた。1985年3月6日、同地で没した。
デザインの思想とアプローチ
正規の美術・デザイン教育を受けなかったサルファッティは、照明を工学的・技術的な課題として捉えた。光は使い手が照らしたいものに奉仕するものであり、器具そのものは目的ではないという考えのもと、まず電球を支える構造を決め、そのうえで全体の形をまとめる手順で設計を進めたとされる。この姿勢は「合理的な照明(rational lighting)」という言葉でしばしば語られる。
素材と技術への探究も一貫していた。1950年代にはプレキシガラスやメタクリレートといった新素材を採り入れ、1970年代初頭にはハロゲン電球を照明にいち早く用いている。スイッチや配線、反射板に至るまで器具のあらゆる要素を吟味した点も特徴である。多くの製品には型番が付され、円盤状のシェードを持つ「2072(ヨーヨー)」や、光源が四方へ突き出す「2076(花火)」のように、愛称で呼ばれるものも少なくない。
代表作
1958年に発表した「モデル2097」は、ヴェネツィアの伝統的なシャンデリアを最小限の要素へと解釈し直した吊り下げ型の照明である。中央の金属パイプから放射状に細いアームが伸び、その先に電球がそのまま取り付けられ、垂れ下がる配線以外に装飾を持たない。18灯・30灯・50灯などの構成があり、彼の代表作としてフロスから現在も生産されている。
1954年の「モデル1063」は、細い支柱に蛍光灯を組み合わせた極めて簡素なフロアランプで、その後のイタリアのフロアランプ設計に影響を与えた。1959年に始まる「レ・スフェレ(Le Sfere)」のシリーズは、月の光に着想を得た乳白ガラスの球体を金属リングで支える照明群で、そのうちのウォールランプ「モデル238/1」は、孫のアレッサンドロ・サルファッティが率いるアステップ(Astep)によって復刻されている。
功績と評価
アルテルーチェとサルファッティは、イタリアの権威あるデザイン賞コンパッソ・ドーロを1954年(モデル559)と1955年(モデル1055)に二度受賞したほか、1954年のミラノ・トリエンナーレではモデル1063・1065がグランプリを獲得し、名誉ディプロマも受けている。豪華客船ミケランジェロ号・ラファエロ号の照明や、建築家カルロ・モリーノが手がけたトリノのレージョ劇場のための照明など、大規模な空間の仕事も数多く担った。
フロスへの事業譲渡後は表舞台から退いたこともあり、その業績は一時語られる機会が減った。しかし2012年、生誕100年を機にミラノのトリエンナーレ・デザイン美術館で回顧展が開かれ、約200点の照明が紹介されたことで、その仕事は改めて広く注目を集めるようになった。今日、代表作の多くはフロスや、2014年にコペンハーゲンで設立されたアステップを通じて生産が続けられている。イタリアの工業デザイン史において、照明という領域を一つの表現として確立した設計者として評価されている。
- 生年
- 1912年9月16日(イタリア・ヴェネツィア)
- 没年
- 1985年3月6日(イタリア・コモ湖畔)
- 国籍
- イタリア
- 活動分野
- 照明デザイン、製造・企業経営
- 主な拠点
- ミラノ(アルテルーチェ)
| 年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1950年 | ペンダントライト | Model 2065 | Astep |
| 1950年 | テーブルランプ | Model 537 | Astep |
| 1951年 | テーブルランプ | Model 548 | Astep |
| 1954年 | フロアランプ | Model 1063 | Arteluce |
| 1955年 | フロアランプ | Model 1055 | Arteluce |
| 1958年 | シャンデリア | Model 2097 | Flos |
| 1959年 | ウォールランプ | Model 238/1(Le Sfere) | Astep |
| 1963年 | シーリングライト | Model 2042 | Arteluce |
| 1968年 | フロアランプ | Model 1095 | Astep |
Reference
- Flos - Gino Sarfatti
- https://flos.com/en/us/designers/gino-sarfatti.html
- Astep - Gino Sarfatti
- https://astep.design/designers/gino-sarfatti/
- Astep - Our Story
- https://astep.design/our-story/
- Domus - Alessandro Sarfatti: Astep
- https://www.domusweb.it/en/news/2016/04/13/alessandro_sarfatti_astep.html