LC5 ソファベッド
LC5は、近代建築の巨匠ル・コルビュジエが1934年、パリの自邸であるイムーブル・モリトールのリビングルームのためにデザインしたソファである。従来のソファの概念にとどまらず、昼寝のできるデイベッドとしての機能を備えた、私的かつ先駆的な家具であった。ピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンとの協働によるLCシリーズのなかでも、建築家自身の生活空間から生まれた一脚として知られている。
概要
LC5の正式名称は「5 Canapé, Appartement Le Corbusier」。1934年に原型が生まれ、後年カッシーナによって復刻された(復刻の系譜は後述)。現行モデルはフェザーを用いたクッションを採用し、快適性を重視した構造となっている。パリ16区ヌンジェセ・エ・コリ通り24番地に現存する当時のオリジナルが、カッシーナによる復刻作業の原点となった。
特徴・コンセプト
LC5の設計には、「住宅は住むための機械である」というル・コルビュジエの建築思想が反映されている。アームレスのすっきりとしたシルエット、スチールチューブによる軽快なフレーム構造、そして背クッションを倒すことでベッドに変化する仕掛け——これらは機能性と造形の統合を追求したモダニズムの姿勢を示している。
フレームはスレッド状の脚部が水平方向に走り、座面を支える台座と背面のクッションホルダーを兼ねる合理的な構造をとる。背もたれが低く抑えられたプロポーションは、居住空間における圧迫感を和らげ、視覚的な軽やかさをもたらす。クロームスチールの輝きとクッションのボリュームが、端正な存在感を空間に与えている。
LC5.F(ソファベッド仕様)では、3つの背クッションがそれぞれ独立してフレーム後方へ回転する機構を備える。この操作により座面の奥行きが広がり、一人用のベッドとして使用できる。布団やマットレスを必要としない、ソファの延長としてのデイベッドという発想は、限られた居住空間における多機能性への解答であった。
誕生の背景 — 自邸のためのソファ
LC5が生まれた舞台は、パリ16区とブローニュ=ビヤンクールの境界に立つ集合住宅イムーブル・モリトール(24, rue Nungesser-et-Coli)である。1931年から1934年にかけてル・コルビュジエとピエール・ジャンヌレが設計したこの建物は、全面ガラスのファサードを特徴とし、ル・コルビュジエ自身が最上階の2フロアを自邸兼アトリエとして使用した。LC5は、この住居と仕事場が一体となった空間のために構想された、生活の場に根ざした家具であった。
この自邸は、2016年にユネスコ世界遺産へ登録された17のル・コルビュジエ建築作品群のひとつに含まれており、修復を経て一般公開されている。オリジナルのLC5は現在もこの空間に据えられている。
カッシーナによる復刻の系譜
カッシーナは1964年にル・コルビュジエ作品群の独占的製造ライセンスを取得し、LCシリーズの復刻を開始した。LC5については、以下の段階を経て現在の姿に至っている。
- 1974年 — シャルロット・ペリアンの協力のもと、クローム仕上げの1サイズで最初の復刻が実現。
- 1998年 — 背クッション回転式のソファベッド仕様「LC5.F」として製品化。
- 2014年 — オリジナルデザインの再研究に基づく現行仕様を発表。フェザークッションを採用し、2人掛・3人掛の2サイズ展開に。
- 現行 — 環境配慮のサステナブル仕様「LC5 Durable」も展開。リサイクルポリエステルの中綿を用いた循環型素材による製造を進めている。
イ・マエストリ・コレクションの一点として、製品にはデザイナーの刻印とシリアルナンバーが付与される。
評価と位置づけ
LC5は、LC2やLC3、LC4といったLCシリーズのなかでも、ル・コルビュジエの私的な生活空間から生まれた作品として特別な位置を占めている。1928年にサロン・ドートンヌで発表されたLC2(プティ・コンフォール)やLC3(グラン・コンフォール)が公的な発表の場から生まれたのに対し、LC5は建築家が自らの暮らしのために設計した家具である。
デザイン史においては、ソファとベッドの機能を一体化させた着想の先駆性が評価されており、「住宅は住むための機械」という命題を居住空間のスケールで示した家具のひとつとして、建築・デザイン関連の文献に取り上げられている。
ヴィンテージ市場では、とりわけLC5.Fの回転式背クッション仕様が、現行モデルでは採用されていない機構を備える希少性から、コレクターの関心を集めている。
基本情報
| 正式名称 | LC5 ソファベッド / 5 Canapé, Appartement Le Corbusier(LC5 Sofa Bed) |
|---|---|
| デザイナー | ル・コルビュジエ(Le Corbusier, 1887–1965, スイス/フランス)、ピエール・ジャンヌレ(Pierre Jeanneret, 1896–1967, スイス)、シャルロット・ペリアン(Charlotte Perriand, 1903–1999, フランス) |
| デザイン年 | 1934年 |
| ブランド | Cassina(カッシーナ)/ イ・マエストリ・コレクション |
| 製造国 | イタリア |
| 分類 | ソファ / デイベッド |
| フレーム | スチールチューブ、ポリッシュドクローム仕上げまたはセミマット塗装(全7色:グレー、ライトブルー、グリーン、ブラウン、マッド、アイボリー、ブラック) |
| クッション | フェザー+ポリウレタンコア(現行仕様)/ リサイクルポリエステル中綿(Durable仕様) |
| 張地 | レザーまたはファブリック(多色展開) |
| サイズ(2人掛) | W1730 × D780 × H730 mm(座面高 450mm) |
| サイズ(3人掛) | W2550 × D780 × H730 mm(座面高 450mm) |
| 参考価格(税込目安) | 2人掛:約¥1,386,000〜 / 3人掛:約¥1,881,000〜(素材・仕様により変動) |
| 復刻履歴 | 1974年初回復刻 / 1998年 LC5.F発表 / 2014年現行仕様発表 |