イームズ アルミナムグループ チェア ── 金属とファブリックが織りなす革新の座
1958年、チャールズ&レイ・イームズ夫妻は、それまでの椅子の概念を根底から覆す一脚を世に送り出した。アルミニウムのダイキャストフレームの間にファブリックやレザーを張り渡すという、シェル構造からの大胆な転換。このサスペンション構造は、20世紀の家具デザインを代表する到達点の一つとして、今なお世界中のオフィス、邸宅、美術館で使われ続けている。
概要
イームズ アルミナムグループ チェアは、チャールズ&レイ・イームズが1958年にデザインし、ハーマンミラー社が製造を開始した椅子のコレクションである。ヨーロッパではヴィトラ社が製造・販売を担い、以来半世紀以上にわたり途切れることなく生産が続けられている。ダイニングチェア、コンファレンスチェア、オフィスチェア、ラウンジチェア、そしてオットマンに至るまで、幅広いバリエーションを擁するこのコレクションは、住宅から企業のエグゼクティブオフィスまで、あらゆる空間に調和する普遍的な美しさを備えている。
特徴・デザインコンセプト
アルミナムグループの核心は、二つの要素のみで椅子を構成するという簡潔な構造にある。優美に湾曲したダイキャストアルミニウムの側面フレームと、その間に張り渡された一枚の座面パッド。この二つの要素が生み出す「サスペンション・シーティング」は、座る者の体形に自然と沿うしなやかな「ポケット」を形成し、厚い詰め物を用いることなく卓越した座り心地を実現した。
アルミニウムの側面プロフィールは人間の脊柱の曲線を参照して設計されており、着座時に背中から腰にかけて自然な支持を提供する。フレームを構成するダイキャストアルミニウムは砂型鋳造により成形され、軽量でありながら高い強度と耐候性を兼ね備えている。当時一般的であったソリッドウッドやスチールフレームの応接椅子が40〜60ポンド(約18〜27kg)の重量を有していたのに対し、アルミナムグループのアームチェアはわずか18ポンド(約8kg)という画期的な軽さを実現した。
座面と背もたれを一体化した連続的なファブリックパネルは、高周波溶着による水平方向のリブ加工が施され、レザー、ファブリック、メッシュなど多様な素材から選択可能である。この一枚張りの構造は、椅子における「被覆」を単なる外装ではなく、デザインの根幹をなす構造的要素へと高めたものであった。
エピソード
ミラー邸のための特別な依頼
アルミナムグループの誕生は、一つの友情から始まった。建築家エーロ・サーリネンとテキスタイルデザイナーのアレキサンダー・ジラードが、インディアナ州コロンバスに建設中であったJ・アーウィン・ミラー邸のためのアウトドア家具を探していた。しかし、この邸宅の建築的格調に見合う屋外用家具が市場に存在しないことに二人は苦慮していた。チャールズ・イームズは後年、その経緯を次のように回想している。友人であるジラードが素晴らしい邸宅を完成させたものの、それに相応しい屋外家具がないと嘆いていたことが、設計のきっかけとなったのだと。
イームズ夫妻は当初この椅子を「インドア・アウトドアグループ」あるいは「レジャーグループ」と呼び、屋内外の双方で使用可能な家具を目指した。しかし実際には屋外用途としては定着せず、1959年までにハーマンミラー社は名称を「イームズ アルミナムグループ」へと改めた。2015年にミラー家が邸宅をインディアナポリス美術館に寄贈した際、1958年に設置されたオリジナルのアルミナムグループ チェアは、半世紀以上を経てなお使われ続けていた。
封筒の裏に描かれた断面図
チャールズ・イームズによれば、この椅子の着想は封筒の裏に描いた一枚のスケッチから生まれたという。建築的な断面図のように描かれた、わずか2インチ四方のドローイング。その小さな断面図の中に、アルミナムグループの構造的原理のすべてが凝縮されていた。イームズ・オフィスのスタッフ、ロバート・ステイプルズが8つの木製プロトタイプを手彫りで製作し、ドン・アルビンソンとともに最終的な形状を追求した。最終的にチャールズとレイが選んだのは、最初に彫られたプロトタイプであり、ステイプルズ自身も驚いたという。
ソフトパッドグループへの発展
アルミナムグループのサスペンション構造は、後の多くのデザインの起点となった。1969年にはフレーム構造を共有しつつクッションを追加した「ソフトパッドグループ」が登場し、さらにイームズ・タンデム・スリング・シーティング(空港用座席)やイームズ・シェーズへと展開された。一つの構造原理が多様な用途の家具へと派生していく過程は、イームズ夫妻のデザイン哲学をよく表している。
テレビ番組と文化的アイコン
英国のクイズ番組「マスターマインド」では、解答者が着座する椅子としてアルミナムグループのソフトパッドバリアントが長年にわたり使用されてきた。知性と権威の象徴としてのこの椅子の存在感は、デザインの力が文化的コンテクストの中でいかに機能するかを示す好例である。
評価
アルミナムグループ チェアは、20世紀の家具デザインにおける最も重要な作品の一つとして広く認知されている。メトロポリタン美術館はラウンジチェアとオットマンを所蔵し、ミラー邸に置かれたオリジナルはインディアナポリス美術館の永久コレクションに収められている。主要な美術館に収蔵されていることは、この椅子が単なる実用的家具の域を超え、工業デザインの達成として評価されてきたことを示している。
また、ヴィトラ社はアルミナムグループのアルミニウムパーツに対して30年間のメーカー保証を付与しており、構造的な品質と耐久性の高さがうかがえる。67%のリサイクル素材を使用し、使用後は90%がリサイクル可能であるなど、環境面への配慮もなされている。
発表から半世紀以上を経た21世紀においても、オフィスチェアの代表格として、またモダンデザインの高い地位を象徴する存在として広く支持されている。
バリエーション
アルミナムグループは、用途と環境に応じた豊富なバリエーションを展開している。ヴィトラ社の型番体系を基準に主要モデルを以下に示す。
ダイニング/コンパクトチェア
EA 101 / EA 103 / EA 104は、コンパクトな座面と短い背もたれを特徴とし、とりわけ端正な着座姿勢を促す。ダイニングシーンに適した佇まいを持つ。
コンファレンスチェア
EA 105 / EA 107 / EA 108は、中程度の高さの背もたれを備えたコンファレンス向けモデルである。EA 105はアームレストなし、EA 107は固定脚、EA 108は回転脚を持つ。
オフィスチェア
EA 117 / EA 118 / EA 119は、チルトメカニズムを備えたオフィスワーク向けモデルである。使用者の体重に合わせて調整可能なリクライニング機構を持ち、長時間の執務に対応する。EA 119はハイバック仕様で、エグゼクティブチェアとしての風格を備える。
ラウンジチェア&オットマン
EA 124(ラウンジチェア)とEA 125(オットマン)は、高い背もたれとヘッドクッション、調整可能なチルト機構を組み合わせた、くつろぎのためのモデルである。
ホームオフィスチェア
EA 131 / EA 132は、キャスターを持たない4スターベースのモデルで、いわゆるオフィスチェアの印象を抑えた、住空間に自然と溶け込むデザインとなっている。
基本情報
| 名称(日本語) | イームズ アルミナムグループ チェア |
|---|---|
| 名称(英語) | Eames Aluminium Group Chair |
| デザイナー | チャールズ・イームズ(Charles Eames, 1907–1978)& レイ・イームズ(Ray Eames, 1912–1988) |
| 協力 | ドン・アルビンソン(Don Albinson) |
| デザイン年 | 1958年 |
| ブランド | ハーマンミラー(米国)/ ヴィトラ(欧州) |
| 分類 | チェア(ダイニング、コンファレンス、オフィス、ラウンジ) |
| 主要素材 | ダイキャストアルミニウム(フレーム)、レザー/ファブリック/メッシュ(座面・背もたれ) |
| フレーム仕上げ | ポリッシュ仕上げ、クローム仕上げ、パウダーコート(ディープブラック) |
| 代表的サイズ(コンファレンスチェア EA 108) | W 59 × D 58 × H 83 cm |
| 代表的サイズ(サイドチェア) | W 58.4 × D 55.9 × H 83.8 cm、座面高 46.4 cm |
| 美術館収蔵 | メトロポリタン美術館、インディアナポリス美術館(オリジナル) |
| 保証 | アルミニウムパーツ30年保証(ヴィトラ)、5年保証(ハーマンミラー) |