ベイカーソファは、デンマークの建築家・家具デザイナーであるフィン・ユールが1951年に発表した二人掛けソファである。アメリカ・ミシガン州の家具メーカー、ベイカー・ファニチャー社のために設計されたこの作品は、フィン・ユールのアメリカデビューを飾った一脚として知られている。
二分割された大胆な背もたれ、木製フレームの上に浮かぶかのように配された座面と背のクッション——フィン・ユールが追究した「支える要素」と「支えられる要素」の分離という設計思想が、このソファでは明快に表れている。現在はデンマークのハウス・オブ・フィンユール(旧ワンコレクション)が正規復刻版を製造しており、2009年の復刻以来生産が続けられている。
特徴・デザインコンセプト
ベイカーソファの最も際立つ特徴は、二つのパートに分割された彫刻的な背もたれにある。オークまたはウォールナットの無垢材で構成されたフレームの上に、手縫いによる張り地を施した座面と背もたれが載せられ、構造体と身体を受け止める部分が視覚的に分離されている。この手法はフィン・ユールの設計手法の核心であり、ソファに軽やかさと浮遊感をもたらしている。
フィン・ユールは、同時代のモダニストが追求した直線的・構築的な造形とは距離を取り、近代彫刻から着想を得た有機的なフォルムを家具に取り入れた。ベイカーソファのなだらかな曲線と大胆な面の構成は、その造形志向を反映している。
背もたれを二つに分割した構造には、明確な機能上の意図がある。通常の姿勢では腰をしっかりと支え、両コーナーでは足を上げたリラックスした姿勢を可能にしながら、肘と頭を休ませられる——分割された背もたれは、こうした複数の座り方に応えるための解答であった。
素材と製造技術
フレームにはオークまたはウォールナットの無垢材が使用され、オイル仕上げによって木肌の自然な風合いが活かされている。張り地はファブリックまたはレザーから選択でき、座面と背もたれの上部・下部で異なる色やテキスタイルを組み合わせるスプリットアップホルスタリーにも対応する。クッション内部にはスプリングが内蔵され、座り心地と耐久性が確保されている。張り地は熟練の職人による手縫いで仕上げられる。
エピソード
ベイカーソファ誕生の背景には、フィン・ユールとアメリカとの出会いがある。1948年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)のインダストリアルデザイン部門ディレクターであったエドガー・カウフマン・ジュニアがスカンジナビアを訪れ、フィン・ユールの家具に強い関心を寄せた。カウフマンは1949年にインテリア専門誌『Interiors』にフィン・ユールを紹介する記事を寄稿し、この記事がミシガン州グランドラピッズの家具メーカーを率いるホリス・ベイカーの目に留まった。
ベイカーはフィン・ユールにモダン家具コレクションのデザインを依頼し、この協業から椅子、テーブル、サイドボード、デスクなどを含む24点の家具が生み出された。ベイカー・ファニチャー社はこれらを「Baker Modern」ラインとして販売し、後にデニッシュモダンと称される潮流がアメリカ市場へ広がる契機となった。当初アメリカの製造品質に懐疑的であったフィン・ユールは、グランドラピッズの工場を訪問した後にその技術力を認め、協業を承諾したと伝えられている。
復刻と再評価
フィン・ユールの没後、2000年にパートナーであったハンネ・ヴィルヘルム・ハンセンがワンコレクション社(現ハウス・オブ・フィンユール)にデザインの権利を譲渡した。2009年にベイカーソファが復刻され、原作の発表から約60年を経て現代に蘇った。復刻にあたっては、フィン・ユールが残した原図や水彩画のスケッチを参照し、旧来のキャビネットメーカーの手仕事の技術が再現されている。
評価
ベイカーソファは、フィン・ユールの作品群のなかでも美しいソファの一つとして広く知られている。構造と身体を受け止める部分を視覚的に分離する手法、近代彫刻から着想を得た有機的なフォルム、そして職人の手仕事による仕上がりが、半世紀以上を経てなお評価されている。
デザイン・ウィズイン・リーチ社は、ある要素が別の要素の上に浮遊するかのように見えるフィン・ユールの手法を指摘し、これがこのソファに視覚的な軽やかさを与えていると評している。このサイズのソファとしては軽快な印象は、背もたれが一枚の板ではなく二分割されていることによって生み出されている。
ハウス・オブ・フィンユールによる復刻版は、旧来のキャビネットメーカーの工房に通じる精緻なディテールと、現代的な耐久性の両立を目指して製造されている。
受賞歴
2009年に復刻されたベイカーソファは、翌2010年、英国のデザイン誌『Wallpaper*』が主催するWallpaper* Design Awards 2010において「Best Reissue(最優秀復刻デザイン)」部門を受賞した。発表から約60年を経た作品が国際的なデザイン賞に選ばれたことは、その復刻の完成度を示すものといえる。
基本情報
| 正式名称 | ベイカーソファ / Baker Sofa |
|---|---|
| デザイナー | フィン・ユール(Finn Juhl, 1912–1989 / デンマーク) |
| デザイン年 | 1951年 |
| 製造ブランド | House of Finn Juhl(旧 Onecollection)/ デンマーク |
| 復刻年 | 2009年 |
| サイズ | W195 × D80 × H98 cm(座面高:44cm) |
| フレーム素材 | オーク(クリアオイル仕上げ / ダークオイル仕上げ)またはウォールナット |
| 張り地 | ファブリック(各種テキスタイル対応)またはレザー / スプリットアップホルスタリー対応 |
| クッション構造 | スプリング内蔵 |
| 仕上げ | 手縫いによるアップホルスタリー |
| 受賞 | Wallpaper* Design Awards 2010「Best Reissue」部門 |
| 参考価格 | 約2,019,600円〜(税込目安・ファブリック仕様、為替や仕様により変動) |