ウイングバックチェア
ウイングバックチェアは、イギリスのデザイナー、トム・ディクソンが手がけたラウンジチェアである。17世紀の英国邸宅で暖炉脇に置かれたウイングバックチェアと、18世紀のバルーンバックチェアという二つの古典的な座具に着想を得ながら、現代の素材と製造技術によって大胆に再解釈された。2007年にロンドンのショーディッチハウス・メンバーズクラブのために初めてプロトタイプが制作され、以来、改良を重ねながら生産が続けられている。
誇張された翼状のハイバックと、身体を包み込む彫刻的なフォルムが特徴で、伝統的な英国クラブチェアの威厳と包容力を、工業的な精度と素材によって再構築した点に本作の狙いがある。世界各地のホテルロビーやメンバーズクラブ、住宅で採用され、トム・ディクソンを代表する家具のひとつとなっている。
特徴・コンセプト
ウイングバックチェアの特徴は、その大胆で優雅なシルエットにある。伝統的なウイングバックが持つ高い背もたれと翼状の側面を誇張し、よりドラマティックな曲線へと展開させた。このフォルムは審美的な効果だけでなく、実用的な機能も備えている。翼部分は周囲の音を適度に遮り、ハイバックは休息時に頭部を支えるヘッドレストとしても働く。
構造は、スチールフレームを芯に硬質ポリウレタンフォームのシェルを組み合わせ、座面にポケットスプリングクッションを内蔵することで、彫刻的な外観と快適な座り心地を両立させている。脚部にはブラックステインまたはナチュラル仕上げのソリッドオーク材を用い、ミッドセンチュリーモダンを思わせる直線的で角度をつけた造形が、クラシカルなシルエットに現代的な軽やかさを添えている。
張地には、デンマークのテキスタイルメーカー、クヴァドラ社のファブリックを中心に、ウール、ブークレ、レザーなど多彩な選択肢が用意され、設置空間に応じた仕上げを選べる。
空間における彫刻としての存在
トム・ディクソンは本作について、空間の中央に置かれる「彫刻的介入」としての役割を意識して設計したと述べている。壁際に置かれることの多い従来のラウンジチェアと異なり、どの角度から見ても成立するシルエットを持つため、部屋の中心に独立して配置してもよい。翼が広がる背面の姿も、この椅子の見どころのひとつである。
誕生の背景
本作の誕生には、ロンドンの社交シーンを象徴する場所が関わっている。2007年、ソーホー・ハウス・グループの創設者ニック・ジョーンズが、イーストロンドンに開設するショーディッチハウス・メンバーズクラブの内装を、トム・ディクソンのデザイン・リサーチ・スタジオに依頼した。仕事と遊び、食事と社交が混ざり合うクラブ空間にふさわしい椅子として、6脚の異なる英国クラブチェアの原型を現代的に再解釈するというコンセプトが立てられた。
デザインの過程はアナログなものだった。大判の壁紙に実寸大のシルエットが描かれ、段ボールとグルーガンでマケット(模型)が手作りされたうえで、英国の名門アップホルスタリーメーカー、ジョージ・スミス社の工房でプロトタイプが制作された。複数の案のなかでウイングバックが最も高い評価を受け、ショーディッチハウスでデビューを果たした。
2009年にはトム・ディクソン自身のラインとして量産が始まり、2シーターソファとオットマンがコレクションに加わった。2015年には大規模なリエンジニアリングが行われ、よりシャープなシルエットへの洗練、人間工学に基づく快適性の向上、製造プロセスの近代化が図られた。スチールフレーム、成型硬質フォーム、ポケットスプリングシートという現行の構造は、この時に確立されている。その後、コンパクトな空間向けにスケールを縮小したマイクロウイングバックも加わった。
評価
ウイングバックチェアは、古典的な英国様式の家具を現代の文脈で再定義した作品として、デザインおよびインテリア分野で高く評価されている。単なる復刻ではなく、伝統の要点を踏まえたうえでの再解釈として、そのアプローチが受け入れられてきた。
ホスピタリティ分野では、ショーディッチハウスでのデビュー以降、各地の高級ホテルやレストラン、メンバーズクラブで採用され、コントラクト市場での実績を重ねている。住宅用としても、彫刻的な存在感と豊富な張地の選択肢が支持され、幅広い層に用いられている。トム・ディクソン自身も、Beat、Melt、S Chairと並ぶ代表作のひとつに本作を位置づけている。
基本情報
| 作品名(日本語) | ウイングバックチェア |
|---|---|
| 作品名(英語) | Wingback Chair |
| デザイナー | Tom Dixon(トム・ディクソン)/ イギリス |
| デザイン年 | 2007年(プロトタイプ)/ 2009年(量産開始)/ 2015年(リエンジニアリング) |
| ブランド | Tom Dixon |
| 製造国 | イギリス(初期)/ ヨーロッパ |
| 主要素材 | スチールフレーム、硬質ポリウレタンフォームシェル、ポケットスプリング(座面)、ソリッドオーク材(脚部) |
| 張地 | クヴァドラ社ファブリック(Hero、Hallingdal 65、Gentle、Divina Melange 等)、Tom Dixon レザー、ブークレ |
| サイズ(スタンダード) | W740 × D970 × H1280 mm / 座面高 465 mm |
| サイズ(マイクロ) | W730 × D730 × H1000 mm / 座面高 430 mm |
| 脚部仕上げ | ブラックステインドオーク / ナチュラルオーク |
| コレクション展開 | チェア(スタンダード / マイクロ)、ソファ、オットマン、ダイニングチェア |
| 参考価格帯 | 張地カテゴリーにより変動する受注生産品。最新価格は正規販売店にご確認ください |
ウイングバックチェアの仕様・購入方法・メンテナンスについて詳しくはウイングバックチェア購入ガイドをご覧ください。