概要
トム・ディクソン(1959年生まれ)は、イギリスのデザイナーである。溶接を独学で習得し、1980年代に廃材の金属から家具を制作した。1991年のSチェアは、鋼の骨組みに藺草を巻いた椅子で、カッペリーニが製品化している。1998年から2008年までハビタットのデザインディレクターを務め、2002年に自身のブランドを設立した。
バイオグラフィー
1959年5月21日、チュニジアのスファックスに生まれた。4歳のときにイギリスへ移っている。美術学校に入るが半年で離れ、設計の専門教育は受けていない。
1980年代前半、バンドでベースを弾きながら生活していた。事故でバイクを修理する必要が生じ、溶接を独学で習得している。以後、廃材の金属を溶接して家具を制作するようになった。
1980年代後半、ロンドンで制作した家具が注目を集めた。1989年にはカッペリーニが製品化を始めている。
1998年から2008年まで、ハビタットのデザインディレクターを務めた。2002年に自身のブランド「トム・ディクソン」を設立し、以後は照明と家具を自社で展開している。2000年に大英帝国勲章(OBE)を受けた。
デザインの思想と方法
ディクソンの出発点は、設計図ではなく手元の材料である。廃材として集まる金属は寸法も形も一定でない。溶接を習得したことで、その場にある部材を接いで形をつくれるようになった。作りながら決めるという進め方が、以後の仕事にも通じている。
作りながら形を決める
1980年代の家具は、図面を経ずに直接制作された。廃材の形が構成を規定するため、同じものは作れない。この進め方では、設計と製作が分かれない。
骨組みに巻く
Sチェアは、鋼の丸棒で骨組みをつくり、そこに藺草を巻いて座面と背とする。骨組みは荷重を受け、巻いた材料は表面と座り心地を担う。役割を分けることで、それぞれを最小限の量で済ませられる。巻く材料は藺草のほか、籐、革などに置き換えられる。
金属の表面を仕上げとする
2000年代の照明では、真鍮や銅の表面をめっきや塗装で覆わずに用いる。金属そのものが色と反射を持つため、追加の仕上げが要らない。回転成形やスピニングといった加工方法も、外形に痕跡を残す。
自社で製造と流通を持つ
2002年に設立した自身のブランドでは、設計から製造、販売までを扱う。外部のメーカーの製品計画に合わせる必要がないため、材料と工法の選択の幅が広い。
カッペリーニの歴史や他の製品について詳しくはカッペリーニ ブランドページをご覧ください。
代表作にみる方法
ヴィクトリアン・レイリング・チェア(1986年)
ヴィクトリア朝の鉄柵の廃材を溶接して構成した椅子である。既存の部材の形がそのまま椅子の輪郭を決める。V&Aが収蔵している(収蔵番号W.16-2011)。
Sチェア(1991年)
鋼の丸棒で骨組みをつくり、藺草を巻いて座面と背とした椅子である。側面から見るとS字を描き、床に接するのは基部のみになる。巻く材料は藺草のほか籐や革にも置き換えられる。カッペリーニが製品化し、ニューヨーク近代美術館とV&Aが収蔵している。→S チェア
ファットチェア(1991年)
鋼の丸棒に藺草を編み込んだ座面を持つ椅子である。Sチェアと同じ時期の作品で、巻くのではなく編む構成をとる。V&Aが収蔵している(収蔵番号W.5-1993)。
ジャック(1996年)
ポリエチレンの一体成形による照明である。三方向に腕が伸びる形で、積み重ねて構造体にもできる。座具としても使える。V&Aが4点を収蔵している。
ビート ライト(2000年代)
インドの真鍮の手叩き加工を用いた吊り照明である。外側は黒く塗り、内側は真鍮のまま磨いて反射面とする。産地の手仕事の工程をそのまま用いた例にあたる。→ビート ライト
評価と影響
ディクソンは一般に、1980年代のロンドンで、設計の専門教育を経ずに制作から出発した設計者として言及される。溶接という技術の習得が、そのまま仕事の方法になった経緯が特徴にあたる。
1998年から2008年までのハビタットでのデザインディレクションは、量産の家具を扱う立場であり、自身の制作とは条件が異なる。2002年に設立した自社ブランドでは、設計から流通までを一体で扱っている。
近年は照明が主要な製品群となっている。金属の表面を仕上げで覆わず、加工の痕跡を残すという方向が一貫している。
受賞・収蔵
受賞
- 2000年 大英帝国勲章(OBE)
収蔵
以下の収蔵が確認できる(MoMA=ニューヨーク近代美術館、V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、AIC=シカゴ美術館)。
- MoMA Sチェア(1991年) 収蔵番号 457.1997
- V&A 自画像(1986年) 収蔵番号 E.321-1986
- V&A ヴィクトリアン・レイリング・チェア(1986年) 収蔵番号 W.16-2011
- V&A Sチェア(1987年) 収蔵番号 W.6-1993
- V&A ファットチェア(1991年) 収蔵番号 W.5-1993
- V&A パイロンチェアの図面(1991年) 収蔵番号 E.454-1999
- V&A ジャック ライト(1996年) 収蔵番号 W.8-1997、W.9-1997、W.10-1997、W.11-1997
- V&A フレッシュ・ファット・プラスチック(2002年) 収蔵番号 C.48-2002
- AIC パイロンチェア(1992年設計) 収蔵番号 2015.80
作品一覧
| 発表年 | 区分 | 作品名 | ブランド |
|---|---|---|---|
| 1986年 | 椅子 | ヴィクトリアン・レイリング・チェア | — |
| 1991年 | 椅子 | S チェア | Cappellini |
| 1991年 | 椅子 | ファットチェア | Cappellini |
| 1992年 | 椅子 | パイロンチェア | Cappellini |
| 1996年 | 照明 | ジャック | Eurolounge |
| 2002年 | 什器 | フレッシュ・ファット | Tom Dixon |
| 2000年代 | 照明 | ビート ライト | Tom Dixon |
| 2000年代 | 照明 | コッパー シェイド | Tom Dixon |
| 2000年代 | 照明 | メルト ペンダント | Tom Dixon |
| 2000年代 | 照明 | ヴォイド ペンダント | Tom Dixon |
| 2000年代 | 椅子 | ウイングバックチェア | Tom Dixon |
| 2010年代 | 什器 | エッチ ティーライトキャンドルホルダー | Tom Dixon |
プロフィール
| 生年 | 1959年5月21日 |
|---|---|
| 出身地 | チュニジア・スファックス |
| 国籍 | イギリス |
| 活動拠点 | ロンドン |
| 分野 | 照明、家具、インテリア |
| 主な協働ブランド | Tom Dixon、Cappellini、Habitat |
Reference
- Tom Dixon(公式)
- https://www.tomdixon.net/
- Tom Dixon | Cappellini
- https://www.cappellini.com/ww/en/designers.html
- The Museum of Modern Art Collection
- https://www.moma.org/collection/works/2325
- Victoria and Albert Museum Collections
- https://collections.vam.ac.uk/