概要
S Chairは、トム・ディクソンが1987年に設計したラウンジチェアである。名称はS字を描く輪郭に由来する。ロンドンの工房でスクラップメタルを溶接する手法から生まれ、当初は手作業で少数が製作された。1991年にイタリアのカッペリーニが量産を始めている。
特徴・コンセプト
細い骨組みを素材で覆う
溶接したスチールのフレームを、編んだ素材で覆う。フレーム自体は細い線で、そこに巻きつける素材が座面と背もたれの面をつくる。骨組みと表面が別の工程で作られるため、同じフレームに異なる素材を巻けば別の表情になる。オリジナルはラッシュ(marsh straw)を編んで覆っていた。
S字の輪郭
側面から見た輪郭がS字を描き、下部が細くくびれる。この形は接地面を小さくするが、床に接する部分に重心が集まるため倒れない。ディクソンは図面を用いず、工房での製作の過程で形を変えながらまとめたという。
素材を替えて展開する
カッペリーニによる量産以降、ラッシュ、籐、レザー、ファブリックなど多様な素材が用いられてきた。2016年の改訂版では、硬質・軟質のフォームとウールのカバーを採用し、鋳鉄のベースを組み合わせている。2020年には、再生ナイロンを用いたクロシェ編みの仕様も制作された。
エピソード
S Chairが生まれた1980年代、ディクソンはデザイナーのニック・ジョーンズ、マーク・ブレイジャー=ジョーンズとともに「クリエイティブ・サルベージ」を結成していた。スクラップメタルから家具や装飾品を生み出すグループである。S Chairもこの活動から生まれた。
当初はリサイクルされたタイヤのゴムをスチールフレームに巻きつける構想があったが、曲面の多いフレームにゴムを巻くことが難しく、最終的にラッシュへと素材が変更された。
ディクソンは後に、この椅子を意図的に大量生産を目的としない座具として構想したと語っている。カッペリーニが量産を実現する際、手編みのラッシュの仕様では一脚あたり長い時間の手作業を要した。
評価と影響
1980年代のロンドンにおけるデザイナー・メーカー運動を代表する一作として扱われる。細い骨組みに素材を巻くという構成は、素材を替えるだけで別の製品になるため、30年以上にわたって新しい素材を試す場になってきた。
美術館コレクション
ニューヨーク近代美術館は、ラッシュとスチールによるS Chairを収蔵番号457.1997で登録している(製造元からの寄贈。同館は制作年を1991年とし、寸法を102.6×49.5×55.9cmと記録している)。ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館は、1987年のS Chairを収蔵番号W.6-1993で登録している。
トム・ディクソンの設計思想や経歴について詳しくはトム・ディクソンプロフィールページをご覧ください。
カッペリーニの歴史や他の製品について詳しくはカッペリーニブランドページをご覧ください。
基本情報
| 名称 | S チェア / S Chair |
|---|---|
| デザイナー | トム・ディクソン(Tom Dixon) |
| ブランド | カッペリーニ(Cappellini/1991年〜) |
| 発表年 | 1987年 |
| デザインの成立国 | イギリス |
| 分類 | ラウンジチェア |
| 構造 | 溶接したスチールフレームを編んだ素材で覆う |
| 主要素材 | オリジナル:スチール+ラッシュ/量産版:ラッシュ、籐、レザー、ファブリック/2016年改訂版:鋳鉄ベース、フォーム、ウール |
| サイズ | 高さ約103cm × 幅約50cm × 奥行約56cm(MoMA登録記録) |
| 収蔵 | ニューヨーク近代美術館(457.1997)、ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(W.6-1993) |
Reference
- S Chair | MoMA
- https://www.moma.org/collection/works/3857
- S Chair | Victoria and Albert Museum
- https://api.vam.ac.uk/v2/objects/search?q=W.6-1993