No.53 チェア──彫刻的な造形をもつラウンジチェア
1953年、フィン・ユールが家具職人ニールス・ヴォッダーのためにデザインしたラウンジチェアである。同年のコペンハーゲン家具職人ギルド展で発表され、当初はNV 53の名で知られた。フィン・ユールの作品のなかでも人気の高い一脚として、今日まで生産が続けられている。
張地を纏った座面が無垢材のフレームのなかに浮かぶように収まり、後脚は床面から一本の線を描いて立ち上がり、途切れることなくアームレストへと連なる。構造体と着座面を視覚的に切り離すフィン・ユールの手法が、この椅子では以前の作品よりも洗練された形でまとめられている。
誕生から70年以上を経た現在も、ハウス・オブ・フィン・ユール(Onecollection)によって正規に生産が続けられており、オリジナルの仕様を受け継ぐ一脚を入手できる。
フィン・ユールの設計思想や経歴について詳しくはフィン・ユール プロフィールページをご覧ください。
概要
No.53チェアは、フィン・ユール(Finn Juhl, 1912–1989)が1953年にデザインしたラウンジチェアである。正式にはNV 53(Niels Vodderの頭文字に由来)と名づけられ、同年のコペンハーゲン家具職人ギルド展(Københavns Snedkerlaugs Møbeludstilling)で発表された。オリジナルは家具職人ニールス・ヴォッダーの工房で製作された。
オリジナルはチーク材およびローズウッド材で製作されたが、これらの材は現在では使用されていない。ヴィンテージのオリジナル品は数が少なく、オークションで高値で取引されることが知られている。No.53チェアは、No.45チェア(1945年)やチーフテンチェア(1949年)と並び、フィン・ユールの代表的なラウンジチェアのひとつとして広く知られている。
特徴・コンセプト
「支える要素」と「支えられる要素」の分離
構造体(フレーム)と被支持体(座面・背もたれ)を視覚的に切り離すことは、フィン・ユールの家具に共通する手法である。No.53チェアでは、張地で覆われた座面と背もたれが無垢材のフレームの内側に浮かぶように配置され、構造と着座面の間に明確な余白が生まれている。
有機的なアームレストの造形
後脚は張地を纏わず、床面から一本の線を描くように立ち上がったのち、途切れることなく向きを変えてアームレストへと展開する。アームレストは座面を包み込むように回り込み、上向きの先端で終わる。丸みを帯びた部分から鋭い稜線へと移り変わるディテールが、木目の美しさを引き立てている。
造形と機能の両立
芸術性の高い造形をもちながら、フィン・ユールは椅子に求められる機能を疎かにしていない。ゆったりとしたプロポーションは着座する者を自然に迎え入れ、軽やかな佇まいはどの角度から眺めても整ったシルエットを描く。住宅のリビングはもとより、ホテルのラウンジや企業のレセプションエリアなど、単独で存在感を放つアクセントピースとしても適している。
エピソード
幻のクッションと水彩画
フィン・ユールは1953年にNo.53チェアの水彩画を描いており、そこにはオプションのクッションが描かれている。しかしこのクッションは長らく製品化されなかった。2020年にハウス・オブ・フィン・ユールが復刻を行った際、ユールの原画に基づいてクッション付きモデルが初めて実現された。クッションは椅子本体とは異なる色や素材で張り分けることもでき、当初の構想がようやく形になった。
製造ライセンスの移行
フィン・ユールの未亡人ハンネ・ヴィルヘルム・ハンセンがOnecollection(ハウス・オブ・フィン・ユール)にフィン・ユール家具の製造権を委ねた際、当時はNo.53シリーズを日本のメーカーであるキタニがライセンス生産していた。その後、2020年にハウス・オブ・フィン・ユールがNo.53シリーズの復刻を開始し、日本では2021年11月に販売が再開された。現行品は、フレームの木工加工を日本の工房が、張地の手張り仕上げをデンマーク・リングケビングの工房が担っている。
評価
No.53チェアは、フィン・ユールのラウンジチェアのなかでも人気が高く、需要の大きいデザインのひとつとして知られている。彫刻的な造形と座り心地を両立させた一脚として、デンマーク・モダンを代表する椅子に数えられている。ヴィンテージのオリジナル品は流通量が少なく、状態のよい個体はオークションで高値で取引されている。
基本情報
| 正式名称 | No.53 チェア / 53 Chair(FJ 53 Chair) |
|---|---|
| 旧称 | NV 53(Niels Vodder 53) |
| デザイナー | フィン・ユール(Finn Juhl, 1912–1989)デンマーク |
| デザイン年 | 1953年 |
| 初出展 | 1953年 コペンハーゲン家具職人ギルド展 |
| オリジナル製作 | ニールス・ヴォッダー工房(Niels Vodder Cabinetmaker) |
| 現行製造ブランド | ハウス・オブ・フィン・ユール(House of Finn Juhl / Onecollection) |
| 製造国 | フレーム木工:日本 / 張り仕上げ:デンマーク(リングケビング) |
| 型番 | FJ 5321(クッションなし)/ FJ 5325(クッション付き) |
| サイズ | W 710 × D 775 × H 730 mm / 座面高 375 mm |
| フレーム素材 | オーク無垢材 または ウォルナット無垢材(オイル仕上げ) |
| 張地 | ファブリック または レザー(デンマークにて手張り) |
| 金属部品 | 真鍮 |
| オプション | シートクッション(本体と異なる張地・色の選択可) |
| カテゴリ | ラウンジチェア |
| シリーズ展開 | 53 チェア(アームチェア)/ 53 ソファ(2シーター) |