グラスホッパー チェアは、フィン・ユールが1938年に設計したラウンジチェアである。後脚と肘掛けが背面の床の一点へ収束し、跳ぼうとするバッタの脚を思わせる姿をつくる。

1938年に2脚だけが製作され、以後81年にわたり生産されなかった。ハウス・オブ・フィン・ユールが2019年に復刻している。

特徴・コンセプト

この椅子の構造上の要点は、後脚と肘掛けが別の部材ではないという点にある。背面から伸びた材が上へ回って肘掛けとなり、前方へ抜ける。荷重の経路が一本の線として現れている。

見た目は単純だが、製作は難しい。角度が入り組み、接合部が複雑な形状をとるためである。フィン・ユールは家具職人でも家具設計者でもなく、建築を学んだ人物だった。技術的な制約を知らなかったことが、この造形を可能にしたとも言われる。

復刻版はオークまたはウォールナットのフレームに、ファブリックまたはレザーの張りを組み合わせる。個体ごとに通し番号が付されるが、番号は3から始まる。1番と2番は1938年のオリジナル2脚に充てられている。

背景

1938年7月、27歳のフィン・ユールはコペンハーゲン北部の小さなアパートで自宅用の家具を試作していた。王立芸術アカデミー建築科に在籍していたが、建築家ヴィルヘルム・ラウリッツェンの事務所に採用されたため学業は終えていない。

その夏に描いたバッタのようなアームチェアを、家具職人ニールス・ヴォッダーに持ち込んだ。同年秋の家具職人組合展に出品するためである。2脚が製作され、ヴォッダーのスタンドに並べられた。傍らには移動式のバーキャビネットが置かれ、壁にはカクテルの図が掛けられていた。

当時の展示は重厚で伝統的な家具が主流であり、この構成は大胆に過ぎた。来場者はこの椅子を理解も歓迎もしなかった。ヴォッダーの損失を抑えるため、フィン・ユールは2脚とも自分で買い取っている。商業的な関心が得られなかったため、生産には至らなかった。

フィン・ユールの死後、2001年にハウス・オブ・フィン・ユールが全設計の独占権を取得した。2019年、ミラノ・サローネで復刻版が発表されている。

評価

グラスホッパーは、フィン・ユールが家具という形で造形上の自由を試みた最初の例にあたる。以後の長い設計群の出発点として位置づけられている。オリジナルの2脚は、デンマークの家具設計における収集対象として扱われる。

実務では、背面まで造形が成立しているため、壁に付けずに置ける。一方、後脚が床の一点へ収束する構造のため、接地面が小さく、柔らかい床材では跡が残りやすい。

同じフィン・ユールの作品では、チーフテンチェアがより大きく重い構成をとり、モデル45チェアが軽快な線で構成される。

基本情報

デザイナーフィン・ユール / Finn Juhl
設計年1938年
製作ニールス・ヴォッダー(1938年、2脚のみ)
現行メーカーハウス・オブ・フィン・ユール / House of Finn Juhl(2019年に復刻)
カテゴリーラウンジチェア
素材オークまたはウォールナット(フレーム)、ファブリックまたはレザー(張り)
初出1938年 コペンハーゲン家具職人組合展
備考復刻版の通し番号は3から始まる