チーフテンチェア ─ 支えるものと支えられるものを切り離した椅子
チーフテンチェア(Chieftain Chair)は、フィン・ユール(1912-1989)が1949年に設計したラウンジチェアである。同年のコペンハーゲン家具職人組合展覧会で、家具職人ニールス・ヴォッダーの製作により初めて公開された。ユールの手がけた椅子のなかで最も大きく、最も踏み込んだ一脚とされる。
現在はデンマークのハウス オブ フィン・ユール(旧ワンコレクション)が製造している。フレームはウォールナットまたはオーク。座面と背もたれはデンマーク国内で手作業により革張りされる。
特徴・コンセプト
この椅子の構成は、支える要素と支えられる要素をはっきり切り離す点にある。木のフレームが構造を担い、座面と背もたれはそこに浮かぶように取り付く。フィン・ユールが繰り返し用いた手法だが、チーフテンチェアではそれが最も明快に現れている。座った人がフレームの上に浮いて見えることを狙った構成である。
背もたれを支える垂直の部材は、後脚とステップジョイントで接続され、側面に三角形の輪郭を描く。幅広く張り出したアームレストと、背もたれの大きな曲面。ユールは近代美術と、異なる文化圏の器物や武具に関心を寄せており、1949年の展示でも、この椅子は同種の造形物とともに並べられていた。
寸法は幅1メートル、高さ92.5センチ。座面高は34.5センチと低い。大きさそのものが、この椅子の性格を決めている。設置には相応の面積と、周囲の余白が要る。
名称の由来
1949年の展覧会で、フレゼリク9世がこの椅子に腰を下ろした。それを見た記者が「王の椅子」と呼んではどうかと尋ねたところ、フィン・ユールはその呼び名を大げさだとして退け、「首長の椅子とでも呼んだほうがいい」と応じた。この呼称がそのまま定着した。ユール自身は後年、着想は異国の文化にあったと述べている。
設計から製作まで
ユールは後年、この椅子の設計を次のように振り返っている。1949年の春、自宅で午前10時ごろに4本の垂直線を引いたスケッチを描き始め、深夜2時か3時には彩色まで終えていた──ただし、実際にどれだけの時間をかけたのかは自分でも分からない、と。
製作を引き受けたのはニールス・ヴォッダーである。デンマークの建築ジャーナリスト、ヘンリク・ステン・モラーは、ヴォッダーがユールの家具職人となった理由について、他の誰もユールの家具を作りたがらなかったからだと記している。形が風変わりで、技術的にも面倒だと見なされていた。ヴォッダーの木工技術がなければ、この椅子の形は成立しなかった。
評価
1949年の展覧会で、デンマークの新聞ポリティケンの記者は、この椅子を「生きているようで、生命力に震えている」と評した。高価で繊細だが、ダービーの勝ち馬とはそういうものだ、とも書いている。デザイン批評家スヴェン・エリック・モラーは、フィン・ユールを世界随一の家具デザイナーだと言い切った。
同じ展覧会で、ユールはエジプシャンチェアも発表している。1975年のインタビューで、彼は1949年の展示の着想がパリのルーブル美術館での見聞に発することを認めている。
ニールス・ヴォッダーが製作したオリジナルは、現在のコレクター市場で高額に取引される。ただし個体差が大きく、製作年、材、状態、来歴によって価格は大きく変わる。
基本情報
| 名称(日本語) | チーフテンチェア |
|---|---|
| 名称(英語) | Chieftain Chair |
| デザイナー | フィン・ユール(Finn Juhl、1912-1989) |
| デザイン年 | 1949年 |
| オリジナル製作 | ニールス・ヴォッダー(Niels Vodder) |
| 現行メーカー | ハウス オブ フィン・ユール(House of Finn Juhl、旧ワンコレクション) |
| 型番 | FJ 4900 |
| 素材 | フレーム:ウォールナットまたはオーク / 張地:レザー |
| 寸法 | W1000 × D880 × H925 mm / 座面高 345 mm |
| 原産国 | デンマーク |