チーフテンチェア ─ デンマークモダンの王座
チーフテンチェア(Chieftain Chair)は、1949年にフィン・ユールがデザインした、デンマークモダンデザインを象徴する傑作である。その堂々たる佇まいと彫刻的な美しさから「椅子の王」とも称され、20世紀の家具デザイン史において最も重要な作品のひとつに数えられている。発表から70年以上を経た現在もなお、世界中のデザイン愛好家やコレクターを魅了し続けている。
概要
チーフテンチェアは、デンマークの家具デザイナー、フィン・ユール(Finn Juhl, 1912-1989)が、卓越した家具職人ニールス・ヴォッダー(Niels Vodder)との協働により生み出した作品である。1949年のコペンハーゲン家具職人組合展覧会(Copenhagen Cabinetmakers' Guild Exhibition)で初めて発表され、その革新的なデザインは当時の家具界に衝撃を与えた。
本作品は、フィン・ユールの設計思想である「浮遊する座面と背もたれ」を最も完成度高く体現した椅子として知られる。木製フレームと座面・背もたれが視覚的に分離されることで、彫刻作品のような有機的な造形美を実現している。現在はデンマークのワンコレクション(Onecollection)社が正規ライセンスのもと製造を行っており、フィン・ユールの遺志を継承した高品質な製品が世界に届けられている。
特徴・コンセプト
チーフテンチェアの最大の特徴は、構造体としての木製フレームと、身体を受け止める座面・背もたれが視覚的に独立している点にある。フィン・ユールは建築家としての素養を活かし、フレームを「建築」として、クッションを「住人」として捉えるという独自の設計哲学を展開した。この革新的なアプローチにより、椅子は単なる機能的道具から、空間を構成する彫刻作品へと昇華された。
有機的な曲線を描くアームレストは、人体の動きを優しく受け止めるように設計されており、座る者に威厳と安らぎを同時にもたらす。フレームには厳選されたウォールナット材やチーク材が用いられ、熟練した職人の手によって丹念に仕上げられる。座面と背もたれには上質なレザーが張られ、経年変化とともに独自の風合いを醸し出す。
また、本作品はスカンジナビアモダニズムの核心である「民主的なデザイン」の理念と、芸術作品としての審美性を高度に両立させている点も特筆に値する。大量生産を前提としない手工芸的な製造プロセスは、一脚一脚に唯一無二の価値を付与している。
エピソード
「チーフテン(酋長)」という印象的な名称には、興味深い逸話が存在する。1949年の展覧会開催時、デンマーク国王フレゼリク9世がこの椅子に座られたことが、その名の由来となった。王侯にふさわしい威厳と風格を備えた本作品は、以後「酋長の椅子」として親しまれるようになった。
発表当初、チーフテンチェアは従来の家具デザインの常識を覆すものとして、一部の批評家から激しい批判を浴びた。特に、フレームと座面が分離されたデザインは「構造的に不安定」との指摘を受けることもあった。しかし、フィン・ユール自身はこれらの批判に動じることなく、自らの設計思想を貫き通した。その結果、本作品は時代を超えた普遍的価値を持つ傑作として認知されるに至った。
フィン・ユールとニールス・ヴォッダーの協力関係も特筆すべきものである。建築家としての理想を追求するフィン・ユールの構想を、ヴォッダーは卓越した木工技術によって具現化した。両者の信頼関係と技術的対話なくしては、チーフテンチェアの完成は不可能であったといえる。
評価
チーフテンチェアは、20世紀を代表する家具デザインのひとつとして、国際的に高い評価を受けている。ニューヨーク近代美術館(MoMA)、コペンハーゲンのデザインミュージアム・デンマーク、ロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館をはじめとする世界有数の美術館・博物館のパーマネントコレクションに収蔵されている。
デザイン史家からは、スカンジナビアモダニズムの到達点として位置づけられるとともに、オーガニックモダニズムの先駆的作品としても評価されている。イサム・ノグチやジョージ・ナカシマといった同時代のデザイナーたちにも影響を与えたとされ、その革新性は戦後の家具デザインの潮流を形作る一因となった。
現代においても、チーフテンチェアはコレクターズアイテムとして極めて高い価値を維持している。オリジナルのニールス・ヴォッダー製作品はオークションにおいて数千万円規模で取引されることも珍しくなく、デザイン家具市場における最高峰の存在として君臨している。
受賞歴・展示歴
- 1949年 コペンハーゲン家具職人組合展覧会にて初公開
- 1951年 ミラノ・トリエンナーレにて金賞受賞(フィン・ユール作品群として)
- 1954年 ミラノ・トリエンナーレにてグランプリ受賞(フィン・ユール作品群として)
- ニューヨーク近代美術館(MoMA)パーマネントコレクション収蔵
- デザインミュージアム・デンマーク パーマネントコレクション収蔵
- ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館 パーマネントコレクション収蔵
基本情報
| 名称(日本語) | チーフテンチェア |
|---|---|
| 名称(英語) | Chieftain Chair |
| デザイナー | フィン・ユール(Finn Juhl) |
| デザイン年 | 1949年 |
| オリジナル製作 | ニールス・ヴォッダー(Niels Vodder) |
| 現行メーカー | ワンコレクション(Onecollection) |
| 素材 | フレーム:ウォールナット材またはチーク材 / 張地:レザー |
| 寸法 | 幅 約102cm × 奥行 約91cm × 高さ 約94cm / 座面高 約36cm |
| 原産国 | デンマーク |
| 様式 | デンマークモダン / オーガニックモダニズム |