ワンコレクション ─ デンマーク西海岸から世界へ、フィン・ユールの遺産を守る家具メーカー
ワンコレクション(OneCollection)は、1990年にデンマーク・リンケビング(Ringkøbing)でイヴァン・ハンセン(Ivan Hansen)とハンス・ヘンリク・ソーレンセン(Hans Henrik Sørensen)によって設立された家具メーカーである。当初「ハンセン&ソーレンセン(Hansen & Sørensen)」の名で創業した同社は、2001年にデンマークモダンの巨匠フィン・ユール(Finn Juhl)の全家具デザインに関する独占的製造権を取得し、その名作群を現代に蘇らせたことで世界的な注目を集めた。以来、「ハウス・オブ・フィン・ユール(House of Finn Juhl)」ブランドを擁する唯一の正規製造元として、50点を超えるフィン・ユールの歴史的デザインを忠実に再生産するとともに、現代の優れたデザイナーとの協働により独自のコンテンポラリーコレクションを展開している。
ユトランド半島西海岸のリンケビング・フィヨルドを望む本社と自社工房を拠点に、デンマーク国内での生産にこだわり続けるワンコレクションは、ニューヨーク国連本部の信託統治理事会議場(フィン・ユール・チャンバー)の家具納入、オックスフォード大学新キャンパスへの供給、デンマーク・ゴストルップ地域病院の内装プロジェクトなど、世界各地の重要施設に家具を提供してきた。伝統的な北欧の職人技と現代的なデザイン思考を融合させ、世代を超えて受け継がれる家具づくりを追求する姿勢は、デンマークデザインの精神を体現するものとして高く評価されている。
ブランドの特徴とコンセプト
直感と勇気に導かれた独自の哲学
ワンコレクションの企業哲学は、創業者の二人が掲げる明快な信条に集約される。すなわち、新たな椅子の制作であれ、空間のインテリアであれ、著名ブランドの育成であれ、その取り組みが最初から「ポジティブなエネルギー」を放つものでなければ着手しない、という原則である。この直感的かつ大胆なアプローチは、時にアカデミックな慣習から逸脱するものであったが、それこそがワンコレクションの独自性を形成する源泉となった。
同社は、デンマークの豊穣な家具デザイン史への深い造詣を創造の土壌としている。創業者たちは家具やデザインに関する書籍・雑誌の収集を通じて知見を蓄え、とりわけデンマークのデザイン誌『Mobilia』の全号を所有するほどの愛好家であり、この歴史への敬意がコレクション全体に一貫した品格を与えている。
デンマーク国内生産へのこだわり
ワンコレクションは、デンマーク国内での家具生産を重視する姿勢を一貫して守り続けている。リンケビングの自社工房で25年以上にわたり生産を続けてきた同社は、2022年にヴァイエン(Vejen)に所在する創業100年超の老舗工場ショウ・アナセン・モーベルファブリック(Schou Andersen Møbelfabrik)を買収し、国内生産能力をさらに強化した。デンマーク国内から400社以上の家具工場が姿を消したとされる近年の状況において、ワンコレクションは自らの選択によって国内の製造技術と職人の技能を守り、次世代へと継承することを目指している。
四つの事業領域
ワンコレクションは、OC(OneCollection)ブランドのもと、オフィス&コンファレンス、ホスピタリティ&カルチャー、レジデンシャル、ケアの四つのカテゴリーで製品を展開している。とりわけケア分野への進出は、身体的な制約を抱える方々に対しても、デザインの力で尊厳ある暮らしを提供したいという理念に基づくものであり、フィン・ユールの家具が持つ感覚的で品格ある佇まいをその指針としている。
ブランドヒストリー
1990年:地下室からの出発
1990年12月1日、イヴァン・ハンセンとハンス・ヘンリク・ソーレンセンは「ハンセン&ソーレンセン」を設立した。最初のオフィスはソーレンセンの母親の自宅の洗濯室で、机と椅子が二脚あるだけの質素な空間であった。デザイナーのソーレン・ホルスト(Søren Holst)が手がけた小さな家具シリーズとキャンドルホルダーを、エンジンの始動にレンチが必要な中古バンに積み込み、デンマーク国内の市場開拓に乗り出した。
1991年〜1990年代:成長と国際展開
1991年、スカンジナビア家具見本市への初出展を果たし、国際市場への第一歩を踏み出した。ハンセンの父が木と砂で製作したブースは、ソーレン・ホルストとの本格的な協働の始まりでもあった。その後、より適切なオフィスへ移転し、新しいバンを導入して北欧を中心に輸出市場を拡大。3XNielsen、Schmidt Hammer Lassen、CUBO、Arkitemaといったデンマークの著名建築事務所との協働を通じ、ホルステブロ裁判所、コペンハーゲンの建築家会館、王立図書館、ベルリンのデンマーク大使館など多くの重要プロジェクトの家具供給を手がけた。
ヘンリク・テングラーとの出会い
ソーレン・ホルストとの緊密な協力関係に加え、コペンハーゲン北部出身の若きデザイナー、ヘンリク・テングラー(Henrik Tengler)との出会いがワンコレクションの軌跡を大きく変えた。テングラーがコンファレンスチェアのデザインを持ち込んだ当初、両者の相性は必ずしも良好ではなかったが、テングラーの粘り強さと情熱が認められ、やがて製品化された「チェアマン(Chairman)」は、累計60,000脚以上を売り上げる同社最大のベストセラーとなった。1999年には、ホルストおよびテングラーとの協働が評価され、名誉ある「モーベルプリーセン(Møbelprisen:家具賞)」を受賞している。
1999年〜2001年:フィン・ユールとの邂逅
1999年、フィン・ユールの未亡人ハンネ・ヴィルヘルム・ハンセン(Hanne Wilhelm Hansen)から、亡き夫を追悼する展覧会のためにソファ「モデル57」を1台製作してほしいとの依頼が届いた。建築家ボード・ヘンリクセン(Bård Henriksen)の仲介によりもたらされたこの依頼を、フィン・ユールを敬愛する二人は即座に引き受けた。完成したソファを見たハンネは深く感銘を受け、続いて「ポエト」ソファと「ペリカン」チェアの復刻を許可。やがてハンネは全デザインの権利譲渡を申し出、2001年、ワンコレクションはフィン・ユールの家具に関する独占的製造権を正式に取得した。
当時、フィン・ユールの家具は美術・デザイン史の専門家以外にはほとんど忘れ去られた存在であった。デンマークの家具商からは「それは売れない」と断言され、ヴィンテージ品のみが本物と見なされる風潮のなか、新たに製造された復刻品は当初「疑わしいコピー」として懐疑的に受け止められた。しかし、ワンコレクションは情熱と信念を原動力に、フィン・ユールの忘れられた名作群を一つひとつ丁寧に世に送り出し、その芸術的価値を再び世界に認知させることに成功した。
2007年〜2017年:ブランドの確立
2007年、社名を「ハンセン&ソーレンセン」から「ワンコレクション(Onecollection)」へと変更。フィン・ユールコレクションの成功を受け、2017年には「ハウス・オブ・フィン・ユール(House of Finn Juhl)」を独立ブランドとして立ち上げ、フィン・ユールのデザイン遺産を専門的に販売・マーケティングする体制を整えた。同ブランドは現在、50点を超える復刻デザインを擁し、世界50か国以上で販売されている。
2013年:国連信託統治理事会議場の改修
2013年4月25日、ニューヨーク国連本部の信託統治理事会議場(フィン・ユール・チャンバー)が大規模改修を経て再び開場した。この議場は、1950年から1952年にかけてフィン・ユールが設計したもので、デンマークの海外における最も重要な文化遺産のひとつに数えられる。改修にあたり、デンマーク文化省の主導のもとデザインコンペティションが実施され、デザインデュオのカスパー・サルト&トーマス・シグスゴー(Kasper Salto & Thomas Sigsgaard)が優勝。ワンコレクションが新たな「カウンシルチェア」の製造を担い、デンマーク皇太子妃メアリー、当時の国連事務総長潘基文の臨席のもと、改修完了の式典が催された。
2022年:新本社と生産拡大
2022年、リンケビング・フィヨルドを見渡す高さ8.5メートルの新本社が竣工した。コルテン鋼と木製パネルを外装に用い、豊かな自然光を取り込む大きな窓を配したこの建築は、ワンコレクションのアイデンティティと価値観を体現している。同年、ヴァイエンのショウ・アナセン・モーベルファブリックを買収し、4世代にわたる無垢材家具製造の伝統を引き継ぐとともに、フィン・ユールコレクションの一部をこの工場でも生産する計画を始動させた。
主なインテリアとその特徴
ハウス・オブ・フィン・ユール コレクション
ワンコレクションの中核をなすのが、「ハウス・オブ・フィン・ユール」ブランドのもとで展開されるフィン・ユールの復刻コレクションである。フィン・ユールは同時代のデザイナーたちとは異なる独自の道を歩み、家具を彫刻作品のように造形した。その流麗な曲線と有機的なフォルムは、座と構造体が分離した革新的なデザイン言語として知られる。
ペリカンチェア(Pelican Chair, 1940年)
1940年のキャビネットメーカーズギルド展で初めて披露されたペリカンチェアは、フィン・ユール初期の重要作である。その大胆な有機的フォルムは発表当時、物議を醸し「疲れた動物のようだ」と評する声もあったが、現在ではデンマークデザイン史における画期的な作品として再評価されている。ワンコレクションは2001年のケルン国際家具見本市でこの名作を復刻し、世界的な反響を呼んだ。
45チェア(45 Chair, 1945年)
1945年にデザインされた45チェアは、フィン・ユールの代表作のひとつであり、座面と背もたれがフレームから浮遊するかのような構造が特徴的である。ウォールナットまたはオーク材のフレームにレザー張りを施したこの椅子は、構造と美の見事な調和を示すものとして広く知られている。2025年にはデザインから80周年を迎え、同時期にデザインされた45ソファの復刻も発表された。
チーフテンチェア(Chieftain Chair, 1949年)
「酋長の椅子」の異名を持つチーフテンチェアは、フィン・ユールの最も壮麗な作品のひとつである。彫刻的なフォルムと流麗な曲線は、伝統的な家具デザインの枠組みを超えた芸術作品としての風格を湛えている。
ポエトソファ(Poet Sofa, 1941年)
「詩人のソファ」と呼ばれるこの作品は、フィン・ユール独自の有機的造形美を二人掛けソファの形態で体現した名作である。ワンコレクションによる復刻は、ペリカンチェアとともに同社のフィン・ユール事業の礎となった。
モデル57ソファ(Model 57 Sofa, 1957年)
ワンコレクションとフィン・ユールの関わりの原点となった作品である。1999年にハンネ・ヴィルヘルム・ハンセンの依頼で製作された1台のソファが、その後の全コレクション復刻へとつながる歴史的な出発点となった。
ニューハウン・デスク、グラスホッパーチェアほか
コレクションにはこのほか、ニューハウン・デスク(Nyhavn Desk)、グラスホッパーチェア(Grasshopper Chair)、リーディングチェア(Reading Chair)、モデル108ダイニングチェア、ベイカーソファ(Baker Sofa)、サイドボード(1955年)、フルソ・シェルフ(Hulsø Shelf, 1949年)など、多岐にわたるデザインが含まれている。
OCコンテンポラリーコレクション
カウンシルチェア(Council Chair, 2011年)── カスパー・サルト&トーマス・シグスゴー
ニューヨーク国連本部の信託統治理事会議場のためにデザインされたカウンシルチェアは、特許取得済みの3Dベニヤ技術によるフォームプレス成形を用い、人間工学に基づく快適な座り心地を実現している。オークまたはウォールナットの3Dベニヤにレザーまたはテキスタイルの張地を組み合わせ、ポリッシュドアルミニウムのスウィベルベースを配したこのチェアは、フィン・ユールのデザイン遺産を現代に継承する新たな名品として、国連のみならずオックスフォード大学新キャンパスにも採用されている。現在はラウンジチェア、サロンチェアなどのファミリー展開も行われている。
チェアマン(Chairman, 1992年)── ヘンリク・テングラー
ヘンリク・テングラーが1992年にデザインし、ワンコレクションの最初期から生産が続くコンファレンスチェアである。ブラッシュドステンレススチールのフレームと木製の背もたれを組み合わせたこのチェアは、累計60,000脚以上を販売し、同社の経営基盤を支えた重要な製品である。デラックス版では全面張りの上質なレザーが用いられる。
タイムチェア(Time Chair, 2012年)── ヘンリク・テングラー
バウハウス期のコスモポリタンな機能主義を意識してデザインされたコンファレンスチェアである。12mmスチールチューブの構造が繊細な表情と堅牢な強度を両立させ、大きめのクッションが構造体と被支持体の間に心地よい対比を生み出している。
eZoneデスク(eZone Desk, 2004年)── ヘンリク・テングラー
ヘンリク・テングラーが2004年にデザインしたワークデスクで、信頼性と耐久性に優れたオフィス家具として長年にわたり多くのユーザーに支持されている。
デニーチェア(Dennie Chair, 1956年)── ナナ&ヨルゲン・ディッツェル
ナナ・ディッツェルとヨルゲン・ディッツェルが1956年にフリッツ・ハンセンのためにデザインしたイージーチェアで、大規模な量産は行われていなかった。ナナ・ディッツェルの逝去後、娘のデニーがワンコレクションに復刻を依頼し、チェア、フットスツール、サイドテーブルのシリーズとして現在再生産されている。クロムまたはブラック塗装のスチールフレームに、ファブリックまたはレザーの張地を選択できる。
ベッシチェア(Bessi Chair, 2000年)── エルラ・ソールヴェイグ・オスカルスドッティル
アイスランド出身のデザイナー、エルラ・ソールヴェイグ・オスカルスドッティルによるスタッキングチェアで、コンパクトかつ軽量な表情がミニマリズムと機能性を一体化させている。
主要プロジェクト
ワンコレクションの家具は、世界各地の著名な施設に納入されている。ニューヨーク国連本部フィン・ユール・チャンバーの改修(2013年)、オックスフォード大学新キャンパス、デンマーク・ゴストルップ地域病院、コペンハーゲンのニューカールスバーグ財団ブリュワーズヤード、北京の中国・デンマークセンター(Sino-Danish Center)、コペンハーゲンのレストラン・モンテルゴーなど、そのプロジェクトは多岐にわたる。
主なデザイナー
- フィン・ユール(Finn Juhl, 1912–1989)
- デンマークモダンを代表する建築家・家具デザイナー。コペンハーゲン王立芸術アカデミー出身。家具を彫刻のように造形する独自のアプローチで知られ、座面と構造体の分離という革新的なデザイン言語を確立した。国連本部信託統治理事会議場の内装設計(1952年)をはじめ、国際的に高い評価を受ける。ワンコレクションは2001年以降、ユールの全デザインの独占的製造権を保有している。
- ソーレン・ホルスト(Søren Holst)
- ワンコレクションの創業期から協働するデンマーク人デザイナー。シェーカーチェア(Shaker Chair)やレーサーソファ(Racer Sofa)など、同社コレクションの基礎を築いた。創業者たちの精神的指導者として、会社の美学と哲学の形成に深く貢献した。
- ヘンリク・テングラー(Henrik Tengler, 1988年王立芸術アカデミー卒業)
- 1992年よりワンコレクションと協働するデンマーク人デザイナー。チェアマン、タイムチェア、eZoneデスク、Trainテーブルシリーズ、クラシック・ブックケース(2017年)など、オフィス・コンファレンス向けの機能的かつ洗練されたデザインを多数手がけ、同社のコマーシャルな成功に大きく貢献した。
- カスパー・サルト&トーマス・シグスゴー(Kasper Salto & Thomas Sigsgaard)
- コペンハーゲンを拠点に活動するデザインデュオ。2003年より共同で制作を行い、2011年のデンマーク芸術財団主催コンペティション優勝を機にワンコレクションとの協働を開始。国連フィン・ユール・チャンバーのためにデザインしたカウンシルチェアは、フィン・ユールの遺産を現代に継承する新たなデンマークデザインの傑作と評されている。
- ナナ&ヨルゲン・ディッツェル(Nanna & Jørgen Ditzel)
- デンマークデザイン史に名を刻む夫婦デザイナー。ミラノ・トリエンナーレでの銀メダル(1951年、1954年、1957年)と金メダル(1960年)受賞など、国際的な評価を得た。ワンコレクションは1956年に二人がフリッツ・ハンセンのためにデザインしたデニーチェアを復刻生産している。
- エルラ・ソールヴェイグ・オスカルスドッティル(Erla Sólveig Óskarsdóttir)
- アイスランド出身のデザイナー。2000年にデザインしたベッシチェアがワンコレクションで製品化されている。
基本情報
| ブランド正式名 | OneCollection(ワンコレクション) |
|---|---|
| 設立 | 1990年12月1日 |
| 創業者 | イヴァン・ハンセン(Ivan Hansen)、ハンス・ヘンリク・ソーレンセン(Hans Henrik Sørensen) |
| 旧称 | Hansen & Sørensen ApS(2007年に現社名へ変更) |
| 本社所在地 | デンマーク・リンケビング(Ringkøbing) |
| 生産拠点 | リンケビング自社工房、ヴァイエン工場(Schou Andersen Møbelfabrik, 2022年買収) |
| ショールーム | コペンハーゲン(Gothersgade 9) |
| 展開ブランド | OC(OneCollection)、House of Finn Juhl |
| 事業カテゴリ | オフィス&コンファレンス、ホスピタリティ&カルチャー、レジデンシャル、ケア |
| 主な受賞歴 | モーベルプリーセン(Møbelprisen, 1999年) |
| 公式サイト | https://onecollection.com/(OC)、https://finnjuhl.com/(House of Finn Juhl) |