ニューハウンデスクの概要
ニューハウンデスクは、1945年にデンマークを代表する建築家兼家具デザイナーのフィン・ユールによってデザインされた作業用デスクである。この作品は、ユールがコペンハーゲン中心部の由緒ある33ニューハウン通りに最初のデザインスタジオを開設した際、自身の仕事場のために創作されたものである。磨き上げられたスチール脚という当時としては革新的なディテールを採用し、この特徴は1950年代のユールの家具デザインに大きな影響を与えることとなった。
このデスクは、2009年にハウス・オブ・フィン・ユールによって再発売され、現代の空間においても変わらぬ魅力を放ち続けている。シンプルでありながら洗練されたデザインは、機能性と美的価値の完璧な調和を体現しており、北欧デザインの黄金期を象徴する作品として高く評価されている。
デザインコンセプトと特徴
視覚的軽快性の追求
ニューハウンデスクの最も顕著な特徴は、その際立った視覚的軽さにある。フィン・ユールは、キャリアを通じて家具に浮遊感をもたらすことに執心し、本作品においてもその哲学が見事に具現化されている。細身のスチール脚はほとんど目に見えないほど繊細でありながら、天板をしっかりと支える構造的強度を備えている。木製の「つま先」部分が床面に接することで、全体が宙に浮いているかのような印象を創出し、空間に独特の軽やかさをもたらす。
このデザイン手法は、単なる美的追求にとどまらず、空間を視覚的に広く見せる実用的効果も併せ持っている。スチール脚の選択により、従来の木製脚では実現できなかった極限まで細いプロポーションが可能となり、デスクという大型家具でありながら圧迫感を感じさせない繊細な存在感を実現している。
アメリカン・モダニズムとの対話
ニューハウンデスクの創作にあたり、フィン・ユールはアメリカの同時代デザイナー、特にチャールズ・イームズの清潔でモダンなラインに触発されたと伝えられている。しかし、単なる模倣ではなく、ユール独自の機能性へのこだわりとディテールへの繊細な配慮が作品に独特の個性を与えている。アメリカン・モダニズムの合理性と、北欧デザインの温かみある素材感が見事に融合した稀有な作品といえよう。
この作品はまた、ユールの彫刻的で芸術性の高いデザインアプローチが排他的であるという批評に対する控えめな回答としても解釈できる。より抑制された機能的な形態を採用しながらも、彼の署名とも言える優雅さを保持している点に、デザイナーとしての成熟した姿勢が窺える。
ゲーテの色彩理論への敬意
ニューハウンデスクのスチールフレームは、バーニッシュ仕上げに加え、ブラック、鮮やかなオレンジ、ライトブルーといった塗装仕上げも選択可能である。このオレンジとブルーの色彩は、フィン・ユールのデザインパレットの特徴であり、ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテの暖色と寒色の理論に対する彼の深い関心を反映している。
これらの色彩の選択は、単なる装飾的要素ではなく、空間全体の雰囲気を繊細に調整する役割を果たす。暖色のオレンジは活力と創造性を喚起し、寒色のブルーは冷静さと集中力を促進する。ユーザーの好みや作業環境に応じて色彩を選択することで、デスクは単なる家具を超え、空間の心理的環境を整える役割を担うのである。
歴史的エピソード
ニューハウン33番地のスタジオ
1945年、フィン・ユールは10年間勤めたヴィルヘルム・ラウリッツェンの建築事務所を離れ、コペンハーゲンの中心部、港を望むニューハウン通り33番地に自身の独立したデザインスタジオを開設した。この場所はコペンハーゲンでも特に格式高い地区として知られ、芸術家や知識人が集う文化の中心地であった。
ユールはこの新しい創作の拠点のために、シンプルでありながら機能的なデスクをデザインした。それがニューハウンデスクである。彼はこのデスクで数多くの傑作家具をスケッチし、20世紀を代表する家具デザインの数々を世に送り出した。デスクはまさに、デンマーク・モダンデザインの黄金時代を象徴する創造の場の中心に位置していたのである。
スタジオ移転後も愛用され続けた名作
1957年、ユールはスタジオをソルヴゲード通り38番地に移転した。しかし、興味深いことに、ニューハウンデスクは新しいスタジオでも引き続き使用された。デスクのシンプルな構造と多目的性により、ユールは様々な用途や変化に対応させることができたのである。
この事実は、ニューハウンデスクが単なる一時的なデザイン作品ではなく、デザイナー自身にとって真に機能的で愛着のある家具であったことを物語っている。優れたデザインは時間と環境の変化を超えて価値を保ち続けるという、ユール自身の哲学を体現した逸話といえよう。
トレイユニットの追加
1953年、ユールはニューハウンデスクのために3つの引き出しを持つトレイユニットをデザインした。このユニットは控えめな金属製ブラケットでデスク下部に吊り下げられる構造となっており、デスク本体の浮遊感をさらに強調する役割を果たしている。
トレイユニットは、暖色系と寒色系の2つのカラーパレットで提供され、ユーザーの好みや作業環境に応じた色彩の調和を実現できる。このオプション要素の追加により、ニューハウンデスクはさらなる機能性と個性化の可能性を獲得し、現代の多様なワークスタイルに対応する柔軟性を備えるに至った。このトレイユニットは2012年にハウス・オブ・フィン・ユールによって再発売されている。
評価と影響
ニューハウンデスクは、フィン・ユールの作品群の中でも特に機能的でアクセスしやすいデザインとして位置づけられている。彼の代表作であるペリカンチェアやチーフテンチェアのような彫刻的で芸術性の高い作品とは異なるアプローチを取りながらも、ユールのデザイン哲学である「視覚的軽さの追求」と「構造と意匠の分離」という原則を明確に体現している。
この作品は、デンマーク・モダンデザインの重要な特徴である機能主義と美的洗練の調和を示す典型例として、デザイン史において重要な位置を占めている。チャールズ・イームズをはじめとするアメリカのモダニストたちとの対話を通じて生まれた本作品は、大西洋を越えたデザイン交流の成果でもあり、国際的なモダニズム運動における北欧デザインの独自性を示す証左となっている。
2009年の再発売以降、ニューハウンデスクは現代のインテリアデザインにおいても高く評価されており、ホームオフィスから企業の執務空間まで、幅広い環境で採用されている。ミニマリズムと機能性を重視する現代のデザイントレンドとも見事に調和し、70年以上の時を経てなお新鮮さを失わない普遍的な美しさを証明し続けている。
フィン・ユールについて
フィン・ユール(1912-1989)は、20世紀を代表するデンマークの建築家兼家具デザイナーである。1912年1月30日、コペンハーゲンのフレデリクスベア地区に生まれた。幼少期から美術史への深い関心を抱いていたが、父親の勧めにより建築の道を選び、1930年から1934年までデンマーク王立芸術アカデミー建築学校でカイ・フィスカーに師事した。
卒業後の10年間、ヴィルヘルム・ラウリッツェンの建築事務所で働き、デンマーク国営放送のラジオハウスの内装デザインなど重要なプロジェクトを手がけた。1937年、キャビネットメーカーのニールス・ヴォダーとの協働を開始し、1959年まで続くこの関係は、ユールの家具デザイナーとしてのキャリアの基盤となった。1945年に独立し、ニューハウンに自身のデザイン事務所を開設すると同時に、デンマーク・デザインスクールで1955年まで教鞭を執った。
ユールの家具デザインは、当時のデンマークで主流であったコーア・クリントの機能主義的アプローチとは一線を画し、より芸術的で彫刻的な形態を追求した。1939年にデザインしたペリカンチェアは「疲れたセイウチ」と酷評されたが、1940年代を通じて彼の作品は徐々に国際的な評価を獲得していった。特に1951年、ニューヨークの国連本部内の信託統治理事会会議室の内装デザインを手がけたことで、アメリカにおけるデンマーク・モダンデザインの認知度が飛躍的に高まった。
ユールは「人は美しい物で幸福を創造することはできないが、悪い物で多くの幸福を台無しにすることはできる」という信念のもと、人体の快適性と視覚的美しさの両立を追求し続けた。彼の開発したチーク材の加工技術は、デンマーク家具におけるチーク材使用の普及に大きく貢献した。1989年5月17日、コペンハーゲン近郊のオードゥロップで77歳の生涯を閉じた。現在、彼が1942年に設計し居住した自邸はオードゥロップゴー美術館の一部として一般公開されており、当時の家具や空間構成をそのまま体験することができる。
基本情報
| デザイナー | フィン・ユール(Finn Juhl) |
|---|---|
| ブランド | ハウス・オブ・フィン・ユール(House of Finn Juhl) |
| デザイン年 | 1945年(デスク本体)、1953年(トレイユニット) |
| 再発売年 | 2009年(デスク本体)、2012年(トレイユニット) |
| 分類 | デスク |
| サイズ展開 | 3サイズ FJ 5369: W136×D68×H72.5cm FJ 5380: W170×D85×H72.5cm FJ 5381: W190×D85×H72.5cm トレイユニット FJ 5385: W43×D51×H26cm |
| 天板素材 | チーク、オーク、ウォルナット、オレゴンパイン突板、またはリノリウム(ブラック/マッシュルーム) |
| フレーム | バーニッシュスチール、またはペイント仕上げ(ブラック、オレンジ、ライトブルー)、木製つま先部分 |
| オプション | トレイユニット(3段引き出し、暖色系/寒色系カラーパレット) |
| 製造国 | デンマーク |