チャーナー チェア ─ 成型合板の彫刻的フォルム
1958年、アメリカ人建築家ノーマン・チャーナーによって生み出されたチャーナー チェアは、ミッドセンチュリー・モダンを代表する成型合板チェアのひとつである。ビーチ材の積層合板を熱と圧力で三次元的に成形し、座面の縁では5層、もっとも細いウエスト部では15層という漸変的な厚みを持たせることで、構造的な強度と有機的なフォルムを両立させている。アームチェアでは、長い一本の無垢材を蒸気で曲げ、ねじりながら背もたれへと巻きつける高度な技法が用いられ、そのリボン状のアームラインが最大の特徴となっている。
概要
チャーナー チェアの起源は、ジョージ・ネルソンの事務所でデザイナーのジョン・F・パイルが手がけた「プレッツェル チェア」に遡る。この椅子はハーマンミラーのために設計され、マサチューセッツ州のプライクラフト社が生産を担ったが、構造上の問題と製造コストの高さから継続が難しくなった。プライクラフト社はネルソンの推薦を受けてノーマン・チャーナーに再設計を依頼し、チャーナーは耐久性と量産性を高めた新たなデザインを完成させた。これが後にチャーナー チェアとして知られる作品となった。
チャーナー チェアには、アームチェアとサイドチェアの2つの基本形がある。アームチェアは、成型合板のシェル、無垢の曲げ木アーム、積層合板の脚部という3つの要素で構成される。サイドチェアは同様の成型合板シェルと積層合板脚部を持つアームレスの構成で、ダイニングでアームチェアと組み合わせて用いることができる。いずれもオリジナルの図面と型に基づき、チャーナー チェア カンパニーによって現在もアメリカ国内で製造されている。
特徴とコンセプト
本チェアの核心は、漸変する厚みを持つ成型合板シェルにある。周縁部では5プライと薄く、構造的な負荷のかかるウエスト部では15プライと厚く設計することで、軽量でありながら高い構造強度を実現している。アームチェアのアーム部は、長い一本の無垢ビーチ材を蒸気で加熱し、曲げ、ねじりながら背もたれを包み込むように形成される。この連続的なリボン状のアームラインが、チャーナー チェアの造形的な特質である。
チャーナー チェア カンパニーは、部品を交換しながら長く使い続けられる設計を掲げている。再生利用可能なスチールの使用や環境に配慮した木材の調達など、持続可能なものづくりの姿勢は、ノーマン・チャーナーが追求した「コスト効率に優れた長寿命のデザイン」という考え方を引き継ぐものである。
エピソード
チャーナー チェアの誕生には、デザイン史でもよく知られた逸話が伴う。チャーナーがプライクラフト社にデザインを提出した後、同社はプロジェクトの中止を通告した。しかし実際には、プライクラフト社は別の名義でこのデザインの生産を続けていた。チャーナーが偶然ニューヨークのショールームで自身のデザインを見つけ、1961年に訴訟を起こしたことで、正当なクレジットとロイヤリティが認められることとなった。
同じ1961年、ノーマン・ロックウェルがサタデー・イブニング・ポスト誌の表紙絵「The Artist at Work」にチャーナー チェアを描いたことで、この椅子の知名度は全米に広まった。
1972年にプライクラフト社が生産を終了すると、チャーナー チェアは市場から姿を消し、美術館やギャラリー、少数のコレクターのもとで見られる存在となった。約20年の空白を経て、1999年にノーマンの息子であるベンジャミンとトーマスがチャーナー チェア カンパニーを設立し、父のオリジナル図面と仕様に基づく復刻生産を開始した。
評価
チャーナー チェアは、ミッドセンチュリー・モダンにおける成型合板チェアの代表的な作例のひとつとして評価されている。チャールズ&レイ・イームズやアルネ・ヤコブセンが同時期に追求した成型合板の造形とは異なる、より彫刻的で人体的なフォルムが特徴である。ヴィトラ・デザイン・ミュージアムをはじめ、各地のデザインコレクションに収蔵されている。
現在もデザイン小売店で継続的に取り扱われ、住宅、オフィス、商業空間を問わず幅広く用いられている。リセール市場でも安定した需要があり、とりわけ1960年代のプライクラフト製オリジナルヴィンテージは希少性から高い評価を受けている。
基本情報
| 正式名称 | チャーナー チェア / Cherner Chair |
|---|---|
| デザイナー | ノーマン・チャーナー / Norman Cherner(アメリカ、1920–1987) |
| デザイン年 | 1958年 |
| ブランド | Cherner Chair Company(アメリカ・コネチカット州 / 1999年〜復刻生産) |
| 旧製造元 | Plycraft(アメリカ・マサチューセッツ州ローレンス / 1958〜1972年) |
| 主要素材 | 成型ビーチ合板シェル(漸変厚:5プライ〜15プライ)、無垢ビーチ材の曲げ木アーム(アームチェア)、積層合板脚部 |
| 仕上げ | ナチュラル系・クラシック系のウッド仕上げ(ウォールナット、ビーチ、エボニーほか) |
| サイズ(アームチェア) | W約673 × D546 × H800 mm(座面高 457 mm、アーム高 約660 mm) |
| サイズ(サイドチェア) | W約470 × D546 × H800 mm(座面高 457 mm) |
| 製造国 | アメリカ合衆国 |
| 主な所蔵 | ヴィトラ・デザイン・ミュージアム ほか |