概要
チェアワン ファミリーは、コンスタンチン・グルチッチがマジス社のために設計した椅子とその派生製品の一群である。4年におよぶ開発を経て2004年に発売された。
共通しているのは、ダイカストしたアルミニウムで一体成形されたシートシェルである。シェルは三角形を中心とする小さな面を角度をつけて接合した多面体で構成され、面と面のあいだが大きく抜けている。このシェルを、脚、コンクリート台座、バー状の支持体など異なるベースに載せ替えることで用途を広げている。
コンスタンチン・グルチッチの設計思想や経歴について詳しくはコンスタンチン・グルチッチ プロフィールページをご覧ください。
共通する設計原理
シェルの構成は、平らな面を角度をつけて次々に接合し、三次元の曲面を近似するという考え方にもとづく。マジス社はこれをサッカーボールの構成にたとえて説明している。結果として、シェルは実体よりも空隙の面積が大きくなり、その抜けが造形の性格を決めている。
この形状は工法から導かれている。溶けた金属を金型へ高圧で流し込むには、金属が回りきる細い流路が必要になる。シカゴ美術館の解説によれば、その要請が籠のような骨組みを生み、細い管を編むように扱いながら背側を立ち上げ、座の短辺を折り上げることで、身体を受ける形と構造上の強さが同時に得られている。荷重のかかる箇所は目を詰め、そうでない箇所は開くという配分も同じ理屈による。
表面処理は全モデルで共通し、スパッタリングによるフッ化チタン処理のうえにポリエステル粉体塗装を施す。この仕上げにより屋外での使用に対応し、難燃性も備える。
成立と展開の経緯
チェアワンはグルチッチとマジス社の最初の協働にあたる。製品名の「ワン」は、この最初のプロジェクトであることに由来する。
一体成形のシェルには大型で技術的に難しい金型が必要であり、グルチッチによれば4年におよぶ開発を経て2004年の発売に至った。マジス社の創業者エウジェニオ・ペラッツァが構想を支持したことが実現の前提にあったと本人が述べている。なお美術館の目録では、設計年にあたる2002年から2003年で登録されている。
発売後、ベースの違いによる展開が進んだ。4本脚のモデル、コンクリート台座のモデル、スタッキング用のベース、自動復帰機構を備えた回転式、そして床固定式のバーに複数のシートを並べる公共空間向けのシステムが加わっている。関連してスツールやテーブルも展開された。
メンバー間の差異
シートシェルは全モデルで共通で、違いはベースにある。屋内の椅子として使う4本脚型、重量のあるコンクリート台座で自立させる型、床に固定したバーに複数席を並べる公共空間向けの型で、想定される設置環境が異なる。
| 比較項目 | チェアワン(4本脚) | コンクリートベース | パブリック シーティングシステム |
|---|---|---|---|
| シートシェル | ダイカストしたアルミニウム。3モデルで共通 | ||
| ベース | アルミニウムの脚 | コンクリート台座 | 床固定式のアルミニウムバー |
| 想定用途 | 住宅、飲食店 | 屋外、テラス | 駅、広場などの公共空間 |
| 設置 | 可搬 | 自重で自立 | 床への固定が前提 |
メンバー一覧
| 発表年 | 区分 | 製品名 | 位置づけ |
|---|---|---|---|
| 2004年 | チェア | チェアワン | ファミリーの起点。代表モデル。 |
| 2004年 | ガーデンファニチャー | チェア ワン コンクリート ベース | コンクリート台座に載せた自立型。屋外での使用を想定する。 |
| 2004年 | チェア | チェアワン パブリック シーティングシステム | 床固定式のバーに複数席を並べる公共空間向けのシステム。 |
評価と影響
チェアワンは、ダイカストという工法の特性をそのまま造形の前提に据えた例として参照される。曲面をつくるのではなく、平面の集合で曲面に近づけるという方法は、工法の制約を隠さずに意匠として扱う姿勢を示している。シカゴ美術館は、抜けのある座面という点で1950年代から60年代のワイヤーによる椅子、たとえばベルトイア コレクションやイームズの仕事を引き合いに出しつつ、ワイヤーではなくダイカストの原理から同じ軽さに達した点を評価している。
座面の抜けが大きいため、クッションを併用する使い方も想定されており、屋内向けの布・革と屋外向けのポリウレタンが用意されている。
マジスの歴史や他の製品について詳しくはマジス ブランドページをご覧ください。
収蔵
以下の収蔵が確認できる(V&A=ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館、AIC=シカゴ美術館)。いずれも4本脚のチェアワンである。
- V&A チェアワン(2002年) 収蔵番号 W.6-2007
- AIC チェアワン(2003年) 収蔵番号 2007.57
MoMA(ニューヨーク近代美術館)とMet(メトロポリタン美術館)では、チェアワンの収蔵は確認できなかった。
基本情報
| デザイナー | コンスタンチン・グルチッチ |
|---|---|
| ブランド | マジス |
| 共通構造 | ダイカストしたアルミニウムによる多面体のシートシェル |
| ベースの種類 | 脚/コンクリート台座/スタッキング用ベース/回転式/床固定式のバー |
| 表面処理 | フッ化チタンのスパッタリング処理+ポリエステル粉体塗装 |
| 生産 | 2004年以降、継続 |
Reference
- Chair_ONE - Konstantin Grcic Design
- https://konstantin-grcic.com/projects/chair-one
- Chair_One Public Seating System - Magis
- https://www.magisdesign.com/product/chair_one-public-seating-system-1/
- chair_ONE - The Art Institute of Chicago
- https://www.artic.edu/artworks/189808
- Chair One - Victoria and Albert Museum
- https://collections.vam.ac.uk/item/O133081/
このシリーズの製品
チェアワン Chair_One
グルチッチがデザインした幾何学的名作チェア。三角形を立体的に組み合わせたダイキャストアルミニウムのシートは、構造美と機能性を高度に統合。4年の開発期間を経て2004年に発表され、多数の国際的デザイン賞を受賞した現代デザインのアイコンです。
チェア ワン コンクリート ベース Chair_One Concrete Base
コンスタンティン・グルチッチが2003年にデザインした革新的なアウトドアチェア。サッカーボールの構造から着想を得た幾何学的なダイキャストアルミニウム製シートと、屋外での安定性と盗難抑止を実現する円錐形コンクリートベースが特徴的な現代デザインの一脚。
チェアワン パブリック シーティングシステム Chair_One Public Seating System
コンスタンチン・グルチッチが2005年にMagisから発表した公共空間向けシーティングシステム。名作チェアワンの幾何学的アルミニウムシェルをコンクリートベースで連結し、空港や美術館など世界各地の施設に採用されている。