PH 3 1/2-3 ペンダント ― 3枚シェードが生むグレアフリーの光

PH 3 1/2-3 ペンダントは、デンマークが世界に誇る照明デザイナー、ポール・ヘニングセンが1920年代後半から1930年代初頭にかけて描いたオリジナルの設計図に基づく照明器具である。ルイスポールセン社が製造するこのペンダントライトは、ヘニングセンの代名詞ともいえる「3枚シェードシステム」を忠実に再現し、電球の光を巧みに制御することで、眩しさのない柔らかな光を空間に届ける。誕生から約一世紀を経た現在もオリジナルの設計に基づいて生産が続けられ、住宅から商業空間まで幅広く使われている。

特徴・コンセプト

3枚シェードシステムと対数螺旋

PH 3 1/2-3 ペンダントの核心は、ポール・ヘニングセンが1925年から1926年にかけて開発した3枚シェードシステムにある。このシステムでは、シェードの曲面に「対数螺旋」と呼ばれる数学的曲線を採用し、光源から発せられる光を最大限に活用する設計が施されている。3枚のシェードは、光の大部分を下方に反射しながらも適度に上方へも拡散させ、グレア(不快な眩しさ)を抑えた心地よい光環境を実現する。ヘニングセンは光学的な計算と試験を幾度となく繰り返し、シェードの形状を光の反射と拡散という観点から厳密に決定した。それはランプ自体の外観を追求するのではなく、あくまで「光の質」を最優先とする姿勢の表れであった。

名称に込められた設計体系

「PH 3 1/2-3」という名称は、PHランプの体系的な命名規則に従っている。「PH」はデザイナーであるポール・ヘニングセン(Poul Henningsen)の頭文字であり、最初の数字「3 1/2」はトップシェードの大きさを示し、続く「3」はミドルシェードとボトムシェードの大きさの系列を表している。ヘニングセンはこのシステムにより、トップシェードの大きさを照射範囲に応じて変えつつ、規格化されたミドルシェードとボトムシェードを組み合わせ、多様なバリエーションを効率的に生み出した。設計したのは単一のランプではなく、包括的な照明システムであった。

メタルシェードとガラスシェード

PH 3 1/2-3 ペンダントには、大きく分けてメタルシェードとガラスシェードの二つのバリエーションが存在する。メタルシェード版は、深絞りアルミニウム製のシェードにグリーン、イエロー、レッド、ホワイトの鮮やかなカラーを施した仕様であり、シェード内側は白色塗装により光を効率的に反射する。各シェードのエッジには白色塗装を施した巻加工が施され、3枚シェードの美しい輪郭を際立たせている。一方、ガラスシェード版は三層構造のハンドメイド吹きガラスを使用し、外側は光沢のある仕上げ、内側にはサンドブラスト加工を施したマット仕上げとなっている。ガラスを透過する光は空間全体に柔らかく広がり、メタル版とは異なる繊細な光の表情を楽しむことができる。

エピソード

電灯時代の幕開けとヘニングセンの挑戦

1920年代後半、デンマークの家庭ではキャンドルシャンデリアや石油ランプから電球への移行が進んでいた。しかし多くの家庭では、電球の裸の光が発する眩しさを嫌い、シルク製のシェードをかぶせたシャンデリアがダイニングテーブルの上に好まれていた。シルクのシェードは確かに雰囲気を柔らかくしたが、光の質そのものは犠牲となっていた。ヘニングセンはこの状況に着目し、石油ランプの温かな光の心地よさを損なうことなく、電球の光を高品質に制御できる反射式3枚シェードシステムの開発に着手した。その成果が、PH 3 1/2-3を含む一連のPHランプシリーズである。

120回目の誕生日を記念した復刻

PH 3 1/2-3 ペンダントのメタルシェード版は、ポール・ヘニングセンの生誕120周年にあたる2014年9月9日を記念してルイスポールセン社から発売された。ヘニングセンが1920年代後半から1930年代初頭に描いたオリジナルの図面を忠実に再現したこのモデルは、デザイナー自身の色彩観に基づいた4色展開で世に送り出された。シェードのプレス加工はデンマーク・ヴァイエンにあるルイスポールセン自社工場で行われ、ごく限られた熟練職人のみが習得する高度な技術により一枚一枚丁寧に成形されている。

パリ万博から世界へ

PHランプの始まりは、1925年のパリ万国博覧会にまで遡る。ヘニングセンはルイスポールセン社と共同で複数シェードのランプをデザインし、この博覧会に出品した。以後、両者の協働関係は1967年にヘニングセンが没するまで40年以上にわたって継続し、その間に約1000種ものモデルが生み出された。PH 3 1/2-3はその膨大なシリーズの中で、住宅空間に最も適したサイズ感と普遍的な美しさを兼ね備えたモデルとして、とりわけ高い評価を受け続けている。

ペール・ローズの系譜

1930年頃、ルイスポールセンはヘニングセンとともに初めて色付きガラスシェードを用いたモデルを発表し、大きな成功を収めた。琥珀色や赤、黄色のカラーグラスシェードは、光の質を損なうことなく温かみのあるランプとして好評を博した。ヘニングセンは当時からペールローズ色を好んでおり、ランプの光の表情を多様化させるために採用していたという。この伝統は2022年のミラノデザインウィークで発表された「PH 3 1/2-3 Pale Rose 真鍮ペンダント」へと受け継がれ、イタリア製のペールローズ色吹きガラスと無塗装真鍮フレームの組み合わせにより、ヘニングセンの色彩への情熱が現代に蘇った。

評価

PH 3 1/2-3 ペンダントは、照明デザインにおける科学的アプローチと造形的な美しさを両立させた照明として、デザイン史のなかで高く評価されている。対数螺旋にもとづくシェードの光学的な精度は、現代の照明技術のもとでも古びることがない。

直径33cmという適度なサイズは住宅のダイニングテーブルの上に理想的に収まり、同シリーズの代表作であるPH 5と比較してもコンパクトでありながら、同等の光の拡がりを得られる。モダンとクラシックの双方の要素を併せ持つデザインは、北欧モダンからミニマリズム、和の空間に至るまで幅広いインテリアスタイルに調和し、点灯時はもちろん、消灯時にも空間になじむ佇まいをもつ。

PHランプはニューヨーク近代美術館(MoMA)やデンマーク・デザインミュージアムなど各地の美術館のコレクションに収蔵されており、PH 3 1/2-3 ペンダントも、その3枚シェードシステムを住宅空間に適したサイズにまとめた一台として、デザインを愛好する層から長く支持されている。

基本情報

メタルシェード版

正式名称 PH 3 1/2-3 ペンダント / PH 3 1/2-3 Pendant
デザイナー ポール・ヘニングセン(Poul Henningsen / 1894-1967 / デンマーク)
デザイン年 1920年代後半〜1930年代初頭(原図)/ 2014年(メタル版復刻発売)
ブランド ルイスポールセン(Louis Poulsen / デンマーク)
製造国 デンマーク
素材 シェード:深絞りアルミニウム(内側白色塗装)/ ソケットカバー:銅(シルクマットブラウン仕上げ)/ シェード支持金具:真鍮(銅メッキ)
サイズ 直径 約330mm × 高さ 約307mm / 全長 約1,830mm
重量 約1.3kg
カラー グリーン、イエロー、レッド、ホワイト(各色シェードエッジに白色巻加工)
光源 E26 LED電球(白熱電球100W相当)
取付方法 引掛シーリング

ガラスシェード版

正式名称 PH 3 1/2-3 グラスペンダント / PH 3 1/2-3 Glass Pendant
デザイナー ポール・ヘニングセン(Poul Henningsen / 1894-1967 / デンマーク)
ブランド ルイスポールセン(Louis Poulsen / デンマーク)
製造国 デンマーク
素材 シェード:ハンドメイド三層吹きガラス(乳白オパール)/ フレーム:シルバー・クロームメッキ、ブラック・メタライズド、真鍮・メタライズドの3種
サイズ 直径 約330mm × 高さ 約288mm / 全長 約1,830mm
重量 約2.2kg
光源 E26 LED電球(白熱電球100W相当)
取付方法 引掛シーリング
参考価格 218,900円〜(税込参考価格)